○(しろまる)

双子といえば瓜二つの容姿に一心同体といった仲の良さをついついイメージしてしまう。しかしどうやらそうでもない双子が存在していたとしてもなんら不思議ではない。
一卵性と二卵性に分かれるが一卵性と二卵性ではそもそも遺伝子の伝わり方が違う。
一卵性では全く同じ遺伝子情報を持っているが二卵性ならば50パーセントに留まる。
更に生まれてからの生い立ち次第では性格や容姿にもかなりの差が発生するのだろう。
しかし、どれだけ見た目や性格が違っていたとしても、それだけでは説明のつかない神秘的な繋がりを感じずにはいられないのだ。
 
この話を寄せて頂いた長田さんにも双子の姉がいた。
新潟市で生まれた彼女は幼稚園~大学まで双子の姉と同じ道を歩んだ。
幼稚園や小中学校までは当たり前の事だと思えるが高校や大学までも同じと聞くとさすがにどちらかの意志によるものだと感じてしまう。
しかも通っていた大学は東京の私立大学であり学部まで同じだというのだから。
これらの事実から、本当に仲の良い双子の姉妹だと思ってしまうがどうやら姉は彼女の事を嫌っていた。
明るい性格の彼女は誰とでもすぐに仲良くなれたし友達も沢山いた。
大学の授業も疎かになっていたがそれでもバイトにも精を出す事で沢山の経験や繋がりを作る事が出来た。
そんな彼女とは対称的に双子の姉はバイトもせず学業だけに没頭した。
大学で見かける事があってもいつも1人きりだったし休日でも親が借りてくれたマンションに引き籠り外出する事も無かった。
まるで彼女に当てつけるように。
だから彼女も次第に姉を避けるようになり完全な疎遠状態になってしまう。
ただ2人は高校を卒業する頃までは本当に仲の良い姉妹だった。
そんな二人の関係に最初に亀裂が入り始めたのは受験に合格し2人が同じ大学へ通う事が決まった時の事。
彼女としては姉がどの大学を受験するかは聞いていた。
しかし幾つかの他の大学も受験するのは知っていたしまさか本当に同じ大学に通う事になるとは思ってはいなかった。
東京の大学へ進学し東京で1人暮らしする事でようやく自立し自由に羽を伸ばせると思っていた彼女にとってそれは受け入れ難い現実だった。
だから東京では姉妹で同じ部屋を借りて一緒に暮らしてはどうか?という両親からの奨めがあった時も即答で拒否した。
そして実は姉はその奨めに喜んで同意していたという話を後に聞かされてから二人の関係は少しずつギクシャクし始める。
お互いの部屋を訪ねる事も無く大学内で偶然会ってもあえてお互いを無視した。
実家に帰省するのもバラバらだったしお互いの現状を両親からの電話やラインで知っていた程だ。
そしてそれからの2人は別々の人生を歩み始めた。
姉は大学卒業後はすぐに実家に戻り地元の企業に就職した。
それに対して彼女は東京の大手企業に就職し3年後には結婚しすぐに子宝にも恵まれた。
そしてちょうどその頃からだったようだ。
姉の様子が明らかにおかしくなっていったのは。
精神的に病んだ姉は会社も休みがちになりやがて家の中から一歩も外へ出られなくなった。
姉の部屋からはブツブツと独り言だけが聞こえ続け殆ど何も口にしない姉はどんどんやつれていきまるで幽霊そのものという容姿になっていく。
両親も姉には出来るだけ干渉しないようにしていたらしく彼女自身もそんな姉を心配して実家に戻ってくる事も無かったそうだ。
そんな姉が突然ふらりと外へ出ていったかと思うとそのまま行方不明になったのは彼女夫婦に長女が生まれた日。
珍しく外出した姉がいない間に部屋の掃除をしようとやってきた母親は部屋の床に広がる大量の血痕発見しすぐに警察へ通報した。
同時に捜索願が出され事件や自殺の両面から警察や地元のボランティアによる懸命な捜索が続けられたが姉の消息どころか手掛かりさえも何ひとつ見つからなかった。
彼女も一度は心配し捜索したいという名目で実家に戻ってきたが今考えるとそれはあくまで世間に向けての体裁を繕うだけの自己満足に過ぎなかったのかもしれないと彼女は話してくれた。
そしてそれが本当であるかのように彼女は依然として見つからない姉を記憶の片隅に追いやってそれまで通りの幸せで笑いの絶えない暮らしを送り続けた。
そんな姉が見つかったのは海岸からかなり離れた隣の県の海底から。
行方不明になってから1年ほど経過していた姉の遺体は首から上だけが見つからずDNA鑑定でようやく身元が確認出来たという。
首が切断された断面は鋭利な刃物で切ったのではなく強引に引き千切られたかのようになっていたと警察からも報告があった。
そして不思議なのは姉の死因は自殺。
それも自ら右の手首を深く抉った事による失血死。
つまり海へと投身自殺ではなかったのだ。
失血死だとしたら姉は死んでから自らの力で海に行き身を投げた事になる。
首の無い状態で。
誰もがそんな馬鹿な!と思うのも当然だが警察が遺体確認後、事件として捜査しなかったのには理由があった。
どうやらその時点ではまだ胴と首が繋がっていた姉がフラフラと自ら歩いて海の方へ歩いていくのが近所の人達に目撃されていた。
1人や2人ではなくかなりの人数に。
そしてもう一点、不可思議な事があった。
姉の水死体は発見されるまで1年ほど経過しているにも拘わらず白骨化はおろか腐乱も膨張も殆どしていなかった。
姉の葬儀は実家から出来るだけ離れた斎場でひっそりと執り行われた。
両親としても自殺と判断されてしまった事で出来るだけ目立たないように秘かに葬儀を終えたかった様だ。
彼女としてもそれほど悲しむ事も無くただ淡々と遺族席に座っていれば良かったというのだから既に姉への愛情も懺悔の気持ちも完全に無くなってしまっていたのだろう。
そんな彼女が本当の意味で恐怖に震える様になったのは斎場での火葬が終わってからになった。
実家から東京の自宅マンションへ戻ってから彼女は毎晩のように悪夢にうなされる様になった。
夢の中で彼女の視界には海底らしき真っ暗な世界が広がっておりまるでロープにでも摑まり浮上していくような感覚を覚えたという。
そんな悪夢が半月ほど続いた頃には海の中から海面へと這いあがる感覚を覚えた。
そしてそれ以来、もう悪夢は見なくなった。
ただその代わりに部屋の中で異様な気配を感じる様になった。
何かが部屋の中にいる。
それなのにそれを感じるのは彼女1人だけで夫も娘も何も感じていなかった。
もしかしたら私だけが精神的に疲れ病んでしまっているのかもしれない。
そうも思ったらしいがどうやら夫や娘は誰かの気配は感じていなくても部屋の中の生臭さはしっかりと感じていた。
まるで海の潮の香りであり魚の様な生臭い匂い。
それが部屋中だけでなく彼女が運転する車の車内や彼女の衣服、そして体臭として感じていたのだという。
現在、彼女は仕事を辞めて自宅での療養に努めている。
彼女から感じられる生臭さは一層強くなっており部屋から感じられる誰かの気配も更に強くなっている。
そして最近ではどうやら耳元で低く囁く様な声が聴こえるようになりその声を聴いた瞬間、それが全て自殺した姉の仕業なのだと確信したという。
部屋の中が海水でびっしょりと濡れている事もあり彼女は何とか助かろうと様々な手を講じている。
しかし怪異はいっこうに収まらず絶望の中で暮らしている時、両親の訃報の報せを受けた。
残っているのは私だけ・・・・・・。
次は私の番だ・・・・・・。
そう怯え相談して来られた彼女は俺にこんな言葉を残した。
双子なんかに生まれて来なければ良かった・・・・・・。
姉はきっと私も連れに来ます・・・でも逃げる術が無いんです、双子だから!
双子は一心同体で生まれてきたから絶対に離れられない・・・と。
現在、彼女とは音信不通になっているが何とか無事を祈りたい。
 
 

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