パチンコ

俺はギャンブルはやらないと決めている。
結婚する際に妻から宣告された。
ギャンブルに手を出したら離婚するからね・・・と。
そんな言葉をいまだに守っている訳ではないが、不確実なものに魅力を感じられない
性格が起因しているのも事実だ。
当たる確率が低いギャンブルにお金を使うくらいならそのお金で欲しい物をローンで購入する方が良い、とつい思ってしまう。
だから競馬も競艇も競輪も一切やった事は無いが営業という仕事をしている関係で
こっそりパチンコをしてしまう事があるのも事実だ。
営業の仕事でかなり田舎の土地へと出向く事もあるが、そんな時にぽっかりと時間が
空いてしまう事も珍しい事ではなく、特に寒い時期や暑い時期にはパチンコ店の店内
というのはオアシス的存在になる。
快適な室温に加えて休憩ルームまで完備されており軽食や飲料品まで調達できる。
そんな場所で時間を潰させてもらう以上、何もせずに店から出るのはあまりにも
申し訳ない。
だからそういう時には3000円迄、という上限を設けてパチンコをする事にしている。
まあこれはパチンコを楽しむというよりは単なる自己満足に過ぎないのだが・・・。
鉾田さんは営業として医療器メーカーで働いている。
仕事柄、深夜に教授を訪ねて行ったりと深夜まで働く事が多いそうだがその分、昼間には暇な時間も出来る。
そんな時、彼はたまにパチンコに行ってしまう。
悪いとは思うが深夜まで働いており同僚も同じ事をしているらしいからそれも分からなくはないのだが・・・。
行くのはいつもお客が少なく明らかに古そうなパチンコ店。
その方が暇つぶしには良いのだそうで彼としてはそもそもパチンコで勝ってお金を儲けたいという気持ちは無いのかもしれない。
しかもいつ暇になるかも分からないのだから営業車を運転していて目に付いた古いパチンコ屋に適当に入る。
だからお気に入りの店など存在しないし同じ店に行くという思考も無いようだ。
そんな彼がその日も仕事に励んでいると客先からキャンセル連絡が入った。
突然予定が無くなった彼はそのまま別の客先を訪問する事は考えず直ぐに道すがらに適当なパチンコ屋が無いかと車を走らせた。
するとこじんまりとした古めのパチンコ店が見つかり迷うことなくそのお店に飛び込んだ。
店内にはかなり古いパチンコ台が並んでおり当然客の数も少ない。
まさに彼の好み通りの店だった。
彼はコーヒーを買って適当な台の前に座るとぼんやりパチンコを打ち始めた。
そして何気なく周りを見ると店内の殆どの客が煙草を吸いながらパチンコを楽しんでいる。
おいおい!この店では喫煙OKなのかよ?
そう思い彼もすぐにポケットから煙草を取り出して火を点ける。
なんか昔ながらのパチンコ店という感じがしてとても心地よかった。
とても癒される気持ちでパチンコを打っていると突然尿意に襲われた。
仕方なく彼はすぐにトイレへと駆け込んだ。
トイレには50代くらいの男性が鏡の前に立っておりトイレで用を足している彼に向かって声をかけてきた。
どうですか?・・・・勝ってますか?と。
ただそんな事はパチンコ店ならよくある事。
彼は適当に、ぼちぼちですね・・・と返したそうだ。
そうしてトイレから戻ってパチンコを続けているとまたすぐに尿意に襲われてしまう。
めんどくさそうに席を立った彼はそのままトイレへと駆け込んだ。
すると今度は誰もおらず彼はすぐに用を足し始めた。
すると突然、背後から声が聞こえた。
どうですか?・・・・勝ってますか?と。
ハッとして振り返るとトイレの個室に先程の男性がぶら下がっている。
その男性の体は間違いなく宙に浮いており足が床に着いていない。
もしかして・・・自殺か?
その時の彼はとにかく面倒くさい事には巻き込まれたくなかった。
だから慌ててパチンコ店の店員を呼びに行ったという。
そして店員を連れて戻ってみるとトイレの中にはあの男性の姿は無かった。
個室の中にも誰もおらずトイレの中はシーンと静まり返っている。
もしかしたらあの男性の悪戯か、もしくは思い留まって自らトイレを出ていったのかもしれない、と思った彼は店員に対して「すみません・・・目の錯覚だったのかもしれません」
と頭を下げた。
そして完全に用を足し終わってなかった彼はそのまま便器に向かって用を足し始めた。
すると、また背後から
どうですか?・・・・勝ってますか?という男性の声が聞こえてくる。
さすがに恐ろしくなった彼はそのまま逃げるようにパチンコ店から外に出た。
営業車に乗り込み駐車場から出ようとしていた時、ふとパチンコ店の入り口を見るとそこにはあの男性が笑いながら手を振っておいでおいでをしているのが見えたという。
彼は一気に加速させ駐車場を出るとまるで何かから逃げるようにアクセルを踏み続けた。
彼はその日、速度超過でネズミ捕りに捕まった以外は特に何も起こらず事故なども無かった。
しかしそれから数日後、そのパチンコ店の前を通りかかった彼は間違いなくあのパチンコ店が在ったはずの場所に大きなスーパーマーケットが出来ている事を見てしまい愕然とした。
大きなスーパーなど数日で完成するものではない。
だとしたら俺は本当にパチンコ店に入っていたのか?
そう思い背筋が冷たくなった。
そして今では営業車でラジオを聴いていると時おり声が混じり込むそうだ。
どうですか?・・・・勝ってますか?と。
彼は行き先を探していたその男性に憑かれてしまったのかもしれない。
自分が死んでいる事にも気付かない男に・・・。
だとしたらこまめにパチンコ店に通う事だ。
パチンコ好きはパチンコ店が最も居心地がよくずっと其処にいたいのだ。
そしてそれは死んでもきっと変わらない。
だからパチンコ屋の霊はパチンコ店に置いて来るに限るのだ。

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