悪魔祓い 後編

それに続いて俺もAさんの後を追って廊下へと出る。
しかし目の前に広がる光景を見た俺は思わず絶句して棒立ちになる。
なんだよ・・・これは?
っていうか、此処は何処なんだよ?
 
そう口にした俺を一瞥しAさんは
う~ん、大丈夫です・・・たぶん・・・・。
えっと、きっとこっちで良いはず・・・・うん、大丈夫だな。
進みますよ・・・追いてきてくださいね。
 
そう言ってAさんはいつものように進み始める。
俺はおっかなびっくりで後を追いていく。
この屋敷に入ってきた時、家中をしっかりと見回し確認した。
豪邸とは言わないがそれでも屋敷の至る所に洋風のテイストが生かされた
お洒落な造りだった。
しかしその時、俺の眼前に広がっていたのはまるで洞窟の中の様な暗い空間。
岩肌が剥き出しになっている壁としっとりと濡れている泥の様な地面。
そんな空間に何処からか差し込んでくる真っ赤な灯りが最低限の視界を確保
してくれている。
こんな状況では前を進むAさんだけが頼りだ。
俺は出来るだけ離れないようにAさんの背中にピッタリとくっ付いて追いていった。
 
すると突然、目の前に大きな扉が現れた。
岩肌の中に現れた不釣り合いで大きな洋風のドア。
普通の神経なら絶対にドアを開けたりしないだろう。
しかしAさんはまるでトイレのドアでも開ける様にためらいなくドアの取っ手を回し
手前に力強く引いた。
 
部屋の中は真っ暗だった。
さすがのAさんも部屋の状況が把握できず入り口で停止している。
それでも次第に眼が暗闇に慣れてきた。
部屋の中は洋室なのだろう。
そして部屋の中央にはベッドが置かれており誰かが横たわり、そのベッドの横には
老婆らしき女性が立ち、こちらをニコニコと笑いながら見つめていた。
入りますよ・・・・。
そう言ってAさんが先に部屋の中へと入り俺がその後に続く。
その老婆は俺達に向かい
こんばんは~・・・いらっしゃい・・・・。
と気味の悪い笑い声を投げかけてくる。
そして
かなりの霊能者とその他1名って感じかねぇ・・・。
と更に不気味で嬉しそうな声を漏らした。
すかさずAさんが応える。
えっと・・・あんたが悪魔なのかな?
そして横になっているのはこの家の娘さんでその娘さんにもより強いモノが
とり憑いてる・・・・ってこんな感じかな?
その言葉を聞いても老婆はただ笑っているだけ。
Aさんは続ける。
そもそも悪魔って日本の概念だよね?
だったらアンタはどうして日本語を普通に喋ってんの?
通訳アプリでも使ってるとか?
っていうかさ、そもそもアンタ達ってホントに悪魔とかいう奴なの?
悪魔だとしたら何か証明してみなさいよ!と。
それから暫くは沈黙の時間が流れた。
しかしそれもすぐに俺のビクッとした驚きとともに終わりを告げる。
俺の前方に配置されているベッドから何かがゆっくりと起き上がる。
それはベッドに寝ている状態のまま上半身だけでなく、足の裏を軸にして直立姿勢の
まま立ち上がったのだ。
まるで踏切の遮断機でも上がるかのように・・・。
その動きは絶対に人間が出来る動作ではなかった。
そしてベッドに立ち上がったソレはきっとこの家の娘さんに違いなかった。
違いないはずなのに、その容姿は不気味極まる顔をしてニタニタと笑い続けていた。
更にソレは次の刹那、絶叫にも似た大きな声でゲラゲラと笑い出した。
その下品な笑い声は聞いているだけでも頭が痛くなり吐き気を催すものだった。
俺は両耳を塞ぎ必死にその笑い声に抗った。
そんな時間がどれくらい流れただろうか・・・。
 
うるさいんだよ!
いつまで笑ってんのよ!
悪魔っていうのはそんなに低レベルで喜んでんの?
それこそ馬鹿なんだね、悪魔って!
 
そんなAさんの声が部屋中に響いた。
その声で我に返った俺は再び前方へと視線を向けた。
そこにはベッドの上で直立不動に立ったままの少女と相変わらずベッドの横に立つ
老婆の姿があった。
しかし少女も老婆もその容姿は人間の顔ではなくなっていた。
まさに映画のエクソシストを彷彿とさせる不気味な異形・・・。
 
やっぱりこれって悪魔憑きだったんだよ!
そう叫んだ俺にAさんが返す。
 
そうなんですか?
悪魔憑きってこんな顔になるんですか?
でも顔だけじゃ判断は出来ないんじゃないですか?と。
 
すると突然、前方の老婆が四つん這いになり壁を上り天井に張り付いた。
自らの能力を誇示するかのように。
しかし、それを見たAさんは冷静にこう叫ぶ。
 
なんですかね・・・悪魔ってサーカスの団員さんみたいなものですか?
まあ本物のサーカスならもっと上手く上って天井からぶら下がったりするのかも
しれませんけど・・・。
まあ、どちらにしても低レベルなのはよく分かりました。
さっさと処置しましょうかね。
 
そう言ってAさんは相手に向けて手をかざす。
本物の悪魔にAさんの力が通用するのか・・・?
俺の頭の中ではそんな疑問詞が流れ続けていた。
すると突然Aさんがかざしていた手を下げた。
そして俺に向かってこう叫ぶ。
 
Kさん!
今すぐ此処から離れてください!
ここは私一人で大丈夫ですから。
だからこの家から出たらすぐに姫ちゃんの所へ向かってください。
あの子からすぐに全てを察してくれるはずですから!
急いでくださいね・・・邪魔ですから!
 
そう叫ばれた俺だったが
えっ、なんで?
いつものように助手しなくていいの?
それにどうしてこの家から出てそのまま姫ちゃんの所なんかに行かなくちゃいけないの?
訳わかんないんだけど・・・と返してしまう。
 
するといつもよりも冷たくそして早口でAさんがこう返してきた。
 
相変わらず平和な人ですよね!
分かんないのならはっきり言いますね。
こいつら思っていたよりもヤバいです。
そしてこいつらと対峙すべきは私ではありませんでした。
私がバックアップに回って姫ちゃんに真正面から対峙させるべき相手なんです。
だからさっさとこの家から出て姫ちゃんを呼んできてくれませんかね?
この家に入ってからずっと姫ちゃんとは意思疎通が出来ないんです。
だからこそKさんに行ってもらうしかないんです。
こいつら、この家の娘さんの命を人質にしてます。
1対2という有利な状態、そしてかなりの危険度、それと併せて人質まで取られたら
私には手を出しようが無い。
急いでください!
 
それを聞き終えて俺はようやく状況を把握したがそれでもすぐには動けなかった。
 
あのさ・・・そうは言われてもどうやってこんな洞窟みたいな家から外に出るの?
それに明らかに窓から見える景色もいつもの街の景色じゃないし・・・。
 
俺がそう泣き言を言うとAさんが
そんなもの全てが幻覚なんですけどね。
分かりました。
その幻覚は一度解除しますからその間に・・・・。
急いでくださいね!
そうしないと娘さんの命が!
 
Aさんがそう言うとすぐに家の中の景色が普通のものに戻った。
慌ててその場から走り出そうとした俺。
しかし、部屋から出る直前、俺は嫌な光景を見てしまう。
ベッドに立っている少女らしき何かが自らの指を笑いながら1本ずつ折っている
様子を・・・・。
嬉しそうに幸せそうに・・・。
 
その後、俺は何とか無事に屋敷から外に出ると急いで姫ちゃんの所へと向かった。
姫ちゃんの所へ行くと既に姫ちゃんが緊張した面持ちで待っていた。
どうやら姫ちゃんにはこれから何をしなくてはいけないか、がしっかりと分かっている
様だった。
そして俺は姫ちゃんを車に乗せて先程の屋敷に向かった。
しかし屋敷から少し離れた場所で姫ちゃんは自ら車を降りた。
これ以上近づくと俺が危ないとの事だった。
 
俺が自らの眼で体験したのはここまでになる。
そしてここからは俺が無事に帰還した2人から聞いた話になる。
 
どうやら今回の相手は1対2ではAさんでも手こずる程の相手だったらしい。
そしてそんなヤバイ相手が娘さんの命を人質にした。
実際、姫ちゃんがあの部屋に到着した時には娘さんは全ての手の指を自ら折っており
左腕も骨折していたそうだ。
つまりベッドの上に立っていた異形はやはり娘さんだったという事になる。
そしてAさんが姫ちゃんとバトンタッチした理由だが・・・。
どうやらあの2体の異形は姫ちゃんの中にいる何かと同じ分類のモノだったそうだ。
そして姫ちゃんの中にいるモノの方が遥かに格上の存在。
だとしたらそれを利用しない手は無かった。
実際、部屋の中に入っていった姫ちゃんの姿を見た2体の異形は急に震えだしダラダラと
冷汗を流しだしたようだ。
結果として娘さんの身柄を確保した後、2体の異形は怒りとストレスを溜めたAさんの
格好の餌食となったようだ。
ただ、最後に・・・。
俺が最後にした質問。
結局、あれって本物の悪魔だったの?
という質問に対して2人から同じ言葉が返ってきた。
Kさんは知らない方が身の為です。
知ってしまうと間違いなく後悔しますよ・・・と。
 
 

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