Yという後輩

高井さんの高校時代の後輩にYという男性がいた。
高校時代は同じ美術部の先輩・後輩という関係だったが、しばらく東京を離れていたYが再び東京で暮らし始めてからは頻繁に連絡を取り合う間柄になった。
そんなある日、久しぶりに会って積もる話でもしようか、という事になり酒の席で高井さんはYから不思議な話を聞かされた。
その日Yは仕事の残業が長引いてしまい結局終電ギリギリで最寄りの駅に帰ってきた。
トボトボと自宅アパートへと歩いていると電柱の陰に誰かが立っているのが見えた。
時刻は既に午前0時を回っている・・・。
こんな夜中にこんな所で何やってんだよ?
そう思い目を凝らした瞬間、Yは思わず息を呑んだ。
電柱の明かりの下には赤い着物を着たおかっぱ頭の女の子が立っておりその女の子はポンポンと手毬をついていた。
Yには霊感があると友人達の間では有名だったし実際それまでにも幽霊としか説明がつかないモノを度々目撃していた。
そんなYがその時は本能的に
ヤバイ!
これは間違いなく生きているやつじゃない!
そしてこれは危険なやつだ!
と感じたらしくすぐにその場から逃げようと身構えた。
すると次の瞬間、突然彼の足元に女の子がついていた筈の手毬がころころと転がってきた。
それ手毬を見た瞬間、Yは自分でも説明不可能な行動をとってしまう。
すぐに走って逃げようとしていたYだったが何故かその時は咄嗟に手毬を拾おうとした。
すると手毬の傍には女の子が立っておりYに向かって顔を上げていた。
そしてYの顔を見つめながら
お兄ちゃん・・・遊ぼう・・・
そう言ってきたという。
手毬は反射的に拾おうとしたYだったがまだ恐怖心は少しも消え去っていなかった。
こいつは本当にヤバイ!
遊んだりしたら命を取られる・・・。
だとしたら、はっきり断るか無視するしかないな!
そう思ったそうなのだがハッと我に返った時、Yはその女の子と一緒に神社の境内に居り「かごめかごめ」をして遊んでいたという。
それからどうなったのか?
いや、どうもならなかったのか?
それらが記憶から欠落していた。
Yには女の子に顔を見上げられてからの記憶と朝になり女の子がどうやって何処に消えたのか?が全く記憶に残っていなかった。
その話を全て聞き終えた高井さんは
何なんだ、その話は・・・?
ありえない話だ!
嘘に決まってる!
と一方的に否定した。
高井さんにしてみれば、幽霊というのは暗い場所に現れるモノ。
それがどうして朝まで遊んでいられるんだよ?
と言いたかったそうだ。
しかし高井さんのそんな言葉を聞いてもYは顔色一つ変えずヘラヘラ笑っているだけ。
そんなYの様子を見てついイラついた高井さんは追い打ちをかける様に
大体、なんでわざわざ「かごめかごめ」なんて遊びを女の子と朝までやらなきゃいけないんだよ!
テレビの心霊特番とかホラー映画の観すぎなんじゃないのか?
そんな話を聞かされるとお前に霊感があるっていうのも眉唾物なんじゃないかって思えてくるぞ!
と声を荒げたそうだ。
それを聞いてもYは相変わらずヘラヘラしているだけだった様で高井さんも
こいつには本当に霊感なんてものは備わっていないんじゃないのか?
と本気で思い始めたという。
だが、その後、飲み直そうという事でYを連れて自宅マンションへと帰った。
すると玄関ドアを開けた途端、部屋の中から得体の知れない気味の悪い笑い声が聞こえてきた
高井さんはそのマンションにもう2年以上住んでいたがそんな気味の悪い笑い声を聞いた事など一度も無かった。
だから、慌ててYの顔色を窺ったそうなのだが、どうやらYにもその声が聞こえたらしく、すぐにお辞儀をして「やっぱり今夜はもう帰るわ」とだけ言うとそのまま逃げる様にマンションから帰っていった。
一体どれだけ危険な霊が俺の部屋には棲みついてるんだ?
と思い流石に恐ろしくなったそうなのだが、どうやらYがいない時にはその笑い声を聞く事も無かったそうで、
やはりYの霊感というのは本物なんだな!
という事はさっき話してくれたおかっぱ頭の女の子の話も本当だったのか!
と確信したという。
そんなYはその後も霊障に遭ったりする事も無く普通に生活していたらしいのだが、いつ頃からかスノボにハマってしまい1年中国内と国外を行ったり来たりするという生活を送る様になってしまった。
勿論、1年中スノボをする為に。
仕事を辞めてバイトに精を出したが、そのバイトも山に関する事ばかり。
贅沢やお洒落にも興味が無かった様で一年中コテージで住み込みで働き空いた時間にスノボを楽しむというのが最高の幸せだった様だ。
その頃のYにはまだ霊感がしっかり残っていたらしくたまに電話で話すと
コテージで住み込みで働いていると、春になった時には遭難者がコテージの屋根に引っ掛かってるのが視えるんですよね・・・。
と相変わらずあっけらかんと話していたが、どうやら山にいる時間が平地よりも長かったせいなのか、次第にYの霊感は薄れていき以前は生きている人間と霊の区別すらつかない程の頻度で霊を視ていた霊能力は現在では完全に消えてしまい幽霊を目撃する事も無くなった。
Y自身は、霊が視えなくなって本当に良かった・・・・と喜んでいるそうなのだが、高井さんからすればあれだけの能力が消えて無くなった事の方が勿体なく感じられて仕方ないそうだ。
 

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