男が見ていたもの・・・。

高知県にお住いの正島さんはそれまでずっと空き家になっていた中古住宅に移り住んだ。
それまでは賃貸マンションで暮らしていた彼ら家族だったがお子さんの2人も大きくなりさすがに手狭になった事で住み替えを決断した。
少し郊外ということで交通の便は不便になったが2階建てで部屋数も多く小さな庭まで付いているのにかなりの格安だった。
そんなある夜の事、彼は強い尿意を感じて眼が覚めてしまう。
眠たかったがやはり朝までは我慢できそうもなく仕方なく彼はトイレに行くことにした。
部屋を出て階段へと進み一歩ずつ下りていく。
階段の中間には踊り場がありそこを曲がり更に下へと下りていく。
しかし足が進まない。
固まったまま身動き出来なくなってしまった。
階段の一番下、つまり廊下に男が立っており階段の上を見上げていた。
作業服のような服装の50代くらいの男が虚ろな眼差しで顔を上げジーっと一点を見つめていた。
しかもその男が見つめているのはどう考えても自分なのだとしか考えられなかった。
幽霊になど過去に一度も出会った事など無かった彼はその場で固まり冷や汗を流し続けるしかなかった。
出来るだけ視線を合わせないようにと思ったがどうしても視線を外せない。
そんな時間がどれだけ続いたのかは定かではないが突然外から犬の鳴き声が聞こえ、気が付くとその男は既に消えていた。
そのまま部屋に戻ったとしても尿意が我慢できるわけではない。
彼は恐怖で顔を歪めながらゆっくり慎重に階段を下りていくしかなかった。
廊下まで下りてきた彼は廊下やリビングなど1階の明かりを全て点けて、そこに誰もいない事を確認できた事でようやくホッと胸を撫で下ろした。
そしてようやく用を足そうと思えたそうだ。
便器に座り用を足していると先ほど自分が見た幽霊が見間違いだったのではないか?と思えてきた。
もっともそう考えないと深夜のトイレにいる恐怖に打ち勝てなかったのかもしれないが・・・。
そして彼はその直後、トイレのドアが勝手に開くのを見た。
更に明らかに先ほどの男が開いたドアからトイレの中に入ってきた。
そうして前屈みになりじっと彼の顔を凝視していた。
まさに生きた心地がしなかった。
しかし何故か声が出せない。
彼は視線を逸らすことも出来ず言葉にできない程の恐怖の中で数分間を過ごした。
そしてその男はそのまま何の反応もしないままトイレから出ていった。
彼が大きな悲鳴を上げられたのはその時だった。
彼の悲鳴を聞いた家族がトイレへと駆けつけてくれた。
しかし、どれだけ話しても彼の恐怖は伝わらない。
きっと寝ぼけてたんだろう・・・と。
彼自身も寝ぼけていたと思いたかったがその体験はあまりにもリアルすぎた。
彼はそれからは寝る前には一切水分を摂取しないようにした。
夜中にトイレに行く事だけは避ける為に。
しかし、そうやって気を付けていても体調によっては突然尿意は襲ってくるし、もしかしたらその尿意も霊による作為的なものだったのかもしれない。
彼は幾たびの夜中の尿意をあるアイデアで乗り切ろうとした。
それは2階の窓を開けて外へ向けて用を足すという事だった。
周りには他に家は無いという状況ではじめて実現できるチャレンジだとは思うが、彼のその時のトラウマを考えればついつい納得してしまう。
その夜も突然の尿意に襲われた彼は静かに窓を開けて庭に向けて用を足していた。
そして用を足すとまた寝ようと布団に入った。
すると静かに部屋の引き戸が開いた。
そこにはあの男が立っておりそのまま部屋の中に入って来てしまう。
男は彼に馬乗りになる体で顔を近づけてくるとまた顔をじっと見つめてくる。
男に乗られても全く重みは感じなかった。
しかしその恐怖といったら言葉にできないものだったそうだ。
そしてしばらくその男が彼の顔を凝視した後で、
違うか・・・・とボソッと言ったかと思うとそのまま部屋から出ていった。
彼はそのまま朝まで一睡もできず恐怖に震えているしかなかったという。
しかしそれ以来、彼がその男を視る事は無くなった。
その理由は分からないが・・・。
もしかしたらその男は誰かを探しており彼が別人だと分かったのかもしれない。
しかし、ここにもう一つの要素がある。
それはその男の顔が彼の顔に酷似していたという事。
彼自身が驚いてしまう程にその男の顔は彼に瓜二つだったという。
その男は何を見ていたのだろうか?
そして一体何をしようとしていたのだろうか?

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