屋根裏の座敷童

小学4年生の冬休み、毎年お盆と正月は父親の実家で過ごすことが多く、その年も祖母が一人暮らしをしている父親の実家に行っていました。
本州最北の県で、雪深い町。家は築70年の完全な木造トタン張りの家。2階で人が歩けば、1階の人は足音で手にとるようにどこを歩いているかわかるくらいの簡素な作り。ログハウスの強度を下げたような家でした。
私は秘密基地のようなノリでとても好きでしたが、寒さが厳しかったのを今でもよく覚えています。
そんな寒さにやられたのか、私はあまりひかない風邪をひいてしまいました。グッタリと横になり、頭痛がひどかった私を見て、母親が体温を計ると38℃を超えていました。
2階の布団で寝てなさいと言われ、午後3時くらいに一人で2階に上がり横になりました。すると昼寝の時間でもあったためか、すんなりと眠りに落ちました。
私は何時間寝たのか、ふと目を覚ますと、あたりは夕焼け色をした光に照らされていました。まだ体調が良くないので、目を開けて横になったままでしばらくいると、木の扉が開き誰かが入ってきました。私より少し小さい6、7歳に見える男の子で、青い小さい柄の入った着物をきていました。もちろん祖母は一人暮らしで、その少年は親戚の子でもありません。ただその時は怖さなどは一切なく、その少年の動きを目で追っていました。
二間続きの奥の部屋で私が寝ており、少年は手前の部屋をタッタッタと駆けては部屋を出て、すぐに戻ってまた駆け出すというようなことを何回か繰り返してました。
するとタッタッタと駆けた少年は私の枕元まで来ました。口には出してませんが、たぶん「遊ぼう」と言われたような気がして、私は起き上がりました。先ほどまでの具合いの悪さは全く感じず、少年の差し伸べる手を握り、一緒に駆け出しました。
何をするわけでもなく部屋の中を何周かし、手遊びのようなことをしてしばらく遊んでいました。髪は毛が寝るくらいの短髪で、痩せた少年。特徴はやや細い目くらいだったでしょうか。
どのくらい遊んだ頃か、少年は少し私と距離をとりました。
ちょっと寂しそうな顔をしたかと思うと、肘から腕を曲げ、バイバイと手を振りました。
帰っちゃうの?と思った瞬間、私は布団の中にいました。辺りは真っ暗。北国の冬は4時にもなると日は沈みまるで夜のようです。
今のは夢だったのか、と思いながら布団から体を起こしました。すると、先ほどまでの体の不調は嘘のように消え、体も軽い。そのまま立ち上がり、階下の家族のところへ向かいました。
母親に「もう治った」と伝えると、「あれだけバタバタ遊び回ってたんだから、大したことなかったのね」と言われ、え?と聞き返しました。
母親が言うには、2階を行ったり来たりする足音がしばらく続いて、パタっと止んだと思ったら私が降りてきたと。
念のため熱を計っている間、私はさっきの少年の話を母親にしました。すると何かを思い出したように仏間に行った母親がアルバムを一つ持ってきました。古いものでこれまで見たことがないアルバムでした。
この子じゃない?と指された写真を見るとさっきの少年がそこにいました。青い着物に裸足で、裏庭の洗濯干しの支柱に手をかけている写真。相当古いもので、戦後間も無くのものだということでした。聞けば、父親の6つ上の兄で、この写真の1年ちょっと後に病気で他界したそうです。父からはそんな話は聞いたことがなく、母親も祖母から昔アルバムを見ていた時に聞いたことがあった程度でした。
この家の2階には二間続きの部屋の他に、3畳程度の裏2階と呼んでいる部屋があり、少年はそこで息を引き取ったそうです。その時は物置として使用しており、ちょっと気味悪いところだったので、近づいたことがありませんでした。
私はこの少年が一緒に遊んくれたからと風邪を治してくれたのだろうと思い、心の中で感謝をしました。
それから、裏2階の部屋を気味悪く感じることはなくなり、気づくたびにあの時はありがとうとお礼を言って過ごすようになりました。

そんな家も先日解体され、更地になってしまいました。
少年はどこに行ってしまったのか、気になって過ごしていますが、最近家の中でパタパタと足音が聞こえる気がして。もしあの叔父にあたる少年だとしたら、それはそれでいいかなと今は思っています。