【4回転アクセルの難易度】2021年12月27日

 12月26日の全日本フィギュア選手権2021で羽生結弦が4回転半、いわゆるクワッドアクセルに挑戦。結果はダウングレード(回転不足。この場合は3回転半に認定)となったが、転びそうなところを逆足で無理やり回転し着氷。次の演技へとスムーズに移行したことで世界中、特にフィギュアをよく分かっているロシアから絶賛された。

 クワッドアクセルを行ったことで、他の4回転、そしてトリプルアクセルが簡単に見え、羽生本人も楽に飛んでいたことで点数が爆上がり。基本的に世界の公式戦ではなく、点数がかなり甘いと言われる全日本なので、サービスみたいなものだ。

 このジャンプを飛ぶことの優位性は1回転から4回転までほぼ同じ時間(秒数)にも関わらず点数が大きく違うこと。なおかつアクセルジャンプは「難しい」ため4回転アクセルの次に難しい4回転ルッツと比較しても1点も高い。GOE(出来栄点)も最大で+6.25と一番高い。ちなみに3回転アクセルは3回転ルッツと比べ2.1点も高い(GOEも最大で+4.00と4回転並)。3回転や4回転と同じ時間で一度に大きな点数を取れることが、短い規定時間のフィギュアスケートでは最も重要なことだ。

 では、アクセルジャンプはなぜそんなに難しいのだろうか。アクセルとは、もともとは人の名前からきている。1882年に1回転半を公式戦で初めて飛んだノルウェーのアクセル・パウルゼンから取ったもの。ジャンプはすべてスケートの刃のエッジ、つま先(トゥー)と右足、左足の組み合わせで名前、難易度が違う。難しい順番にトゥーループ、サルコウ、ループ、フリップの4種類と、回転方向を変えてジャンプする高難易度のルッツの5種類から成る。

 アクセルの基本的な飛び方はサルコウなのだが、アクセル以外のすべてのジャンプが後ろ向きで飛ぶのに対して前向きで踏み切りジャンプする。フィギュアスケートのスケート靴はつま先にギザギザがあり、これでブレーキをかけるため前向きでの着氷は構造的に出来ない。つまり着氷はすべて後ろ向きに成らざるを得ないので、結果的に半回転多く飛ぶことになってしまう。これがアクセルというわけだ。半回転多く飛ぶことをアクセルだと思っている人は間違いで、前向きに踏み切ることを指す。これがかなり怖い。後ろ向きから飛んで、後ろ向きに着氷すると風景は変わらない。だが、前向きから飛んで後ろ向きに着氷すると風景は180度変わる。ダンスでもバレエでもこの怖さは変わらない。

 だからアクセルは難しく、評価点が高い。実は4回転を飛べても3回転アクセルが飛べない選手もいる。ちなみに安藤美姫は4回転を飛んだが、3回転アクセルは飛べなかった。現在、点数化されている最高難易度のジャンプがクワッドアクセルであり、この上の5回転はそもそも想定されていない。

 そしてポイントなのはクワッドアクセルに挑戦しているのが羽生結弦という点だ。特に才能があるわけでもない選手であるため練習量でカバーしてきた羽生結弦。反復が有効なフィギュアの世界では天才型よりも4年に1度の五輪では結果が出やすい。荒川静香しかり、キム・ヨナしかり。愚直に反復練習をしてきた選手が金メダルを取っている。ロシアのプルシェンコや浅田真央といった天才は多くの大会で優勝しながらも五輪で結果が出せないゆえんだ。

 そしてもう一つ、羽生結弦はとても計算高い選手。自分をもっとも印象的に見せる技、見せられる舞台を逆算している。その舞台は一般の人にも見られやすい大舞台、五輪なのだ。そんな羽生結弦が2月4日から始まる北京冬季五輪でクワッドアクセルに挑戦することは間違いない。成功するかどうかは当日の調子次第というところもあるが、最高峰の大会であるグランプリを欠場してまでも五輪に照準を合わせて猛練習している羽生なら成功させる可能性は高いと考えられる。

(資料)公式点数。4A(クワッドアクセル)がトリプルアクセルと同等の8点。GOEも唯一のマイナス。他のジャンプはほとんどがGOE3点以上と高い出来栄え。注目すべきは一番下のProgram components。日本語では演技構成点とか芸術点と言われるもの。これで10.0を取る選手はほとんど無いが、3人の審査員が10.0を合計7つも入れている。ちなみに2位以下は1人として10.0が付いた人がいない。

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