【クワッドアクセルの時代へ】2023年12月11日

 フィギュアスケートのグランプリファイナルが閉幕した。男女それぞれ6名の12名で争われるシングルにおいて、日本人が6名という快挙。中国開催だったこともあり、その多くが馴染み深い日本人選手を応援した。

 ただ、話題をさらったのは米国のイリア・マリニン。

 フィギュアは2分40秒でおこなわれるショートプログラムと4分でおこなわれるフリー(ロングプログラム)で行われ、予選ではショートの点数で足切りと上位から6名ずつのグループ分けが行われる。グランプリ大会は世界選手権、四大陸選手権とならび、世界三大大会と呼ばれているが、圧倒的に価値の高い大会だ。その理由はグランプリ大会がシリーズ戦で、日本、米国、カナダ、中国、仏国、露国での6大会を行い、その上位6名が最後にグランプリファイナルに出場、その年の最高のスケーターを決めるためだ(その割には与えられるポイントが少ないため批判も多い)。羽生結弦、浅田真央はともに4度の金メダルを獲得している。

 今回日本から宇野昌磨、鍵山優真、三浦佳生、坂本花織、住吉りをん、吉田陽菜がグランプリファイナルへと進出した。注目は宇野昌磨の連覇だったが、ショートプログラムでトップに立ったのはイリア・マリニン。予定していた4回転トゥループを4回転アクセル(クワッドアクセル)に切り替え、宇野の点数をわずかに超えてトップに躍り出たのだった。ちなみに公式戦で初めてクワッドアクセルを飛んだのは羽生結弦。クワッドアクセルと認定されたが成功はしなかった。イリア・マリニンは初めての成功者となったのだ。
 実はフィギュアの点数として5回転の点数が設定されていないためクワッドアクセルは最高点数。つまり1つの演技での最高得点ということ。実は大会でのイリア・マリニンの演技中に、クワッドアクセル成功後の点数が出なかったため「禁止ジャンプだったのでは?」とルールの確認作業をした識者が多かった(女子はショートでの4回転禁止)。

 イリア・マリニンはフリーでもクワッドアクセルを飛んだが転倒。それでも4回転だけでコンビネーション含め5つも入れた構成によって圧倒的な勝利となったのであった。特に4回転ルッツ+オイラー+3回転サルコウはGOEで3点以上も加点され、21.05点というインパクト。演技構成では大きく負けていない宇野であったが、基礎点で3〜5の差が付くため、それぞれのジャンプの精度で負けていなくても最終的な点数では追いつかないのである。

 ただ、男子は演技の精度を高めた鍵山優真、今回は体調不良で残念だったがジャンプでは負けていない三浦佳生はじめ佐藤駿、壷井達也、吉岡希などが順調に育ってきている。ジュニアグランプリファイナルで逆転優勝した中田璃士は羽生結弦、宇野昌磨(特にクリムキンイーグルは圧巻!)の後継者といえるだろう。日本男子の層は厚い。19歳のイリア・マリニンが今後どのように成長するかも楽しみだが、10代の選手の裏切りに悩まされてきた米国フィギュア界は予断の許さない状況だ。日本男子フィギュアの将来は明るいと言えるだろう。

 対して女子シニアのフィギュアのレベルは酷いものだ。

 紀平梨花に勝つため体格強化を行ったことから4回転や3回転アクセルが飛ぶことができない坂本花織。だが、演技力と苦手なサルコウ以外の3回転のみでグランプリファイナルを圧倒的な点差で優勝させてしまっている。住吉りをん、吉田陽菜の2人は先日までジュニアで活躍した選手ではあったが、あまりにシニアのレベルが低いために余裕でファイナリストとなっている。これは紀平梨花がジュニアに登場した当時の状況と似ている。紀平がいるジュニアでは勝てなくなったため、坂本は樋口新葉、三原舞依ら同世代とともに早々とシニアに転向(ザキトワもジュニアでは紀平に勝てず早々にシニア転向)。1年後にこの3人はシニアにおいても紀平に蹂躙されることになる。
 現在ジュニアは以前紹介した島田麻央(15歳)が席巻している。先日のジュニアグランプリファイナルではトリプルアクセルと4回転トゥループを成功。シニアでも成功例のない日本人として初めての快挙だ。206.33という点数はシニアに入れてもルナ・ヘンドリックスを超えて2位となる。演技構成は坂本のはるか上のレベルだ。ちなみにジュニアで3位の上薗恋奈(13歳)は196.46点なのでシニアでも4位。ジュニアで5位の中井亜美(15歳)は187.04点なのでシニアでは6位の住吉りをんを超える点数(フィギュアの点数は年齢、男女差のない絶対点)。

 どんどんレベルを上げているジュニアに対し、キム・ヨナの時代と同じ演技構成を続けている坂本花織が勝利するシニアは完全にフィギュアの発展から取り残されている状況。ただ一人フィギュアのレベルを上げ続けてきた浅田真央も憂いていることだろう。

 残念ながらフィギュアのルールなどを制定する国際スケート連盟(ISU)はシニアの年齢制限を現行の15歳から17歳に引き上げることを決定。現在15歳の島田麻央は来年以降もシニアの大会への出場は不可能。紀平梨花の復帰が遠く、ジュニアの有力選手のシニア参加ができなくなった来シーズンも坂本花織の時代がまだ続くことになりそうだ。

 なにはともあれ、イリア・マリニンのクワッドアクセル成功はフィギュアスケートへのさらなる興味を抱かせてくれるものだ。

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