【なぜワリエワだけが叩かれるのか】2022年3月9日

 後味の悪い形で冬季五輪フィギュアスケートは終わった。

 ちなみに皆さんは日本は史上最高のメダル数でわいていたが、この理由を知っているだろうか? 年々問題になる禁止薬物問題。日本はカヤの外であり、禁止薬物に手を出す選手は少ない。そう思っていないだろうか。実は日本選手、コーチ、各団体ともほぼ同じ考えだ。そして現実問題として日本人選手が薬物に手を出すことは他の国と比較して圧倒的に少ない。

 この結果、日本は各国がお金と時間をかけている禁止薬物対応を無視でき、その分を選手育成などに充てている。実は何年も前からこのような日本の姿勢は各国から非難を浴びているが、現実的に禁止薬物で日本人選手が失格となるケースが圧倒的に少なく(いないわけではない)、東京五輪恩赦もあり非難の声は小さくなっていた。その結果、日本人選手は豊富な財源に守られ、記録を伸ばし続けることに成功。東京五輪だけでなく北京冬季五輪でも結果を出したのだ。

 そんな日本に住んでいると分からない薬物の問題。ロシアの選手は昨今急に薬物へと手を染めたわけではない。

 私がもっとも非難したいのはアリーナ・ザギトワである。2017年グランプリファイナル優勝、2018年平昌五輪金メダルと栄華を欲しいままにしてきたが、その後、突然勝てなくなった。もともとスケーティングが下手でスピンはヘロヘロ、4回転はもちろん3回転アクセルも飛べない。唯一マシなのは3回転ルッツと3回転ループのコンビネーションのみ。

 それでも勝てたのには大きな理由がある。フィギュアの2本目のフリーでは後半のジャンプの点数がすべて1.1倍となっていた。10点だと11点だが、15点だと16.5点と1.5点も多い。ほとんどの女子選手は体力が残っている前半にジャンプを飛ぶが、ザキトワはすべてのジャンプを後半に飛ぶ。平均して5回ほどのジャンプすべてが他の選手より1割も多い点数となるのだ。メドベドゥワくらいしかライバルのいなかったザキトワにとってこれは大きなアドバンテージとなり、勝利を重ねたというわけだ。

 しかし、フィギュア協会は黙ってはいなかった。後半のみにジャンプを集中させる体力がある女子選手は存在しない。つまり何らかの薬物による強化が計られていると考えた。しかし証拠が出ない。そこでルール変更し、後半のジャンプで点数がアップされるのは3回までという制約を設けたのだ。

 そのルールが施行されたタイミングで紀平梨花がシニアに上がってきた。ザキトワはジュニア時代、紀平に一度も勝てたことがなかった。しかも必勝パターンである後半でのジャンプ集中も使えない。2020年の世界選手権では紀平のミスによりザキトワが勝ったが、これが最後の勝利となった。勝てないザキトワはケガなどを理由に10代でありながら引退表明することになった。

 ザキトワは明らかに薬物による強化によって勝利を「盗んだ」選手だ。対してワリエワは使用したとされる薬物での効果が疑問視されている。もちろん薬物は選手の健康を害するものであり、使ってはいけないものだ。しかしロシアにおいて薬物の使用は日常的なものであったと考えられ、そんな環境の中で14〜15歳の女子が大人たちを相手に自分の考えを貫き通すのは難しいであろう。ましてやワリエワはロシアに征服されたカザンのタタール族であり、アジア系が入っていることが分かる風貌。同じような地域出身であるザキトワだが、純ロシアの風貌を持つザキトワにはない差別があったとも考えられる(これは単に想像)。

 以前から言っているようにロシアのフィギュア選手、特に女子は選手生命が短い。ザキトワも2年程度、ほとんどの選手が1年程度でいなくなる状況だ。

 ただ、金メダルを「盗んだ」ザキトワへの非難がなく、ワリエワだけが叩かれる風潮はあまり好ましいものではない。

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