【大谷翔平の選択】2023年12月10日
ロサンゼルス・エンジェルス(アメリンカンリーグ西地区)一択と思っていたが、大谷が選んだのはロサンゼルス・ドジャース(ナショナルリーグ西地区)だった。しかも10年契約。大谷自身も「最後の球団」として選択した。このチームと大谷には10年にもわたる長い物語があった。
移籍先の候補に上がっていたのは上記2チームの他は、トロント・ブルージェイズ(アメリンカンリーグ東地区)、サンフランシスコ・ジャイアンツ(ナショナルリーグ西地区)、シカゴ・カブス(ナショナルリーグ中地区)の3チーム。ちなみにこの3チームがどのようなチームであろうか。
ブルージェイズは本拠地がカナダにあるチームで、日本人選手は菊池雄星が所属。優勝を狙えるチーム力と資金を持っており、優勝こそ長く経験していないが、ここ数年はワイルドカードで毎回のように出場している。
ジャイアンツは名前のとおり、読売ジャイアンツが名前をもらったチーム。ナショナルリーグ西地区の強豪でワールドシリーズ8回、リーグ優勝23回という輝かしい記録を持つ。ドジャース最大のライバルだ。
カブスは日本で言うところの阪神タイガース。米国はどこも地域密着型だが、このチームは特にその意識が強い。長く不振が続き、久々の優勝をした際は今回の阪神のような騒ぎになった。その後は比較的安定して上位をキープしているチーム。
候補に上がったチームを見れば大谷翔平が望む方向性が見えてくる。肘に負担がかかるため比較的気候の良い西地区がメイン。もとより金額で球団を選ぶことはないと言われていたため当初からブルージェイズを外す人は多かった。同じような理由でカブスも外れる。残った西地区の3チームの中でやはり可能性が高かったのはエンジェルスとドジャース。この2チームは日本ハムファイターズから移籍する際も争った2チームだった。
ドジャースは大谷を高校時代から目を付けており、ドラフトで日本ハムファイターズが交渉権を得たあとも日本のプロ野球ではなくメジャーに直接行くことを公言していた。そのチームとはドジャース。しかし当時の栗山監督の説得で日本のプロ野球に所属。その際の契約で5年後のメジャー挑戦を約束。その契約通り2017年末にポスティングシステムでメジャー30球団と交渉開始。ヤンキースなど強豪チームを断り、西地区のみのチームで再交渉。ドジャースに決定という誤報も出るほど圧倒的優位にあったにもかかわらずエンジェルスに決定。メジャーでの活躍を疑問視する声も多かったがふたを開けてみれば過去の日本人はおろか、ベイブ・ルースの記録もやぶるほどの大選手となり、現在メジャーでもっとも有名な選手となった。
ちなみに投手と野手両方やることのデメリットは休暇がないこと。先発型の投手は登板の次の日は完全休養、その次は軽い練習のみ、3〜4目に調整をしてベンチ入り、メジャーの場合は中5〜6日で登板(日本では中4〜5日)。極端に言うと登板日以外は休んでいると一緒なのだ。大谷の場合は登板の次の日もDH(designated hitter:主に投手の代わりに打席に立つ選手)として先発する。選手会の力が強く、選手を酷使しないメジャーでは珍しいほど働く選手であり、その消耗には多くの人が注意を促した。練習の虫として知られる松井秀喜でさえメジャー1年目の後半には、あまりの疲労度に休養日に何もしないことが増え、休養の重要さを知り、DH否定派から投手、野手共に休みが増えるDH推進派になったことは有名だ。
ドジャースは高校時代から大谷の二刀流に不安を持っており、その点がエンジェルスを選択した理由と思われていた。しかし、予想を遥かに超える二刀流としての成功はドジャースの考えも改めさせることになり、大谷獲得への参戦となったわけだ。
野球に興味のない人はチームが変わるだけと思うかも知れないが、大きなポイントが3つある。まずアメリカンリーグからナショナルリーグに変わったこと。セ・リーグからパ・リーグに変わったというレベルではない。日本は各6チームの12チームしかないが、メジャーは各リーグの各地区5チームで全15チーム。つまり30チーム存在する。交流戦的なものもあるので対戦したことのないチームはないが、大谷との直接対決をしたことのない選手が多いリーグに行くことになる。対戦したことのない選手同士であれば、圧倒的に投手大谷は優位だ。打者大谷は苦労するかも知れない。
次のポイントはチームの力。過去リーグ、ワールドシリーズともに優勝1回のみのエンジェルスに対して、リーグ優勝24回、ワールドシリーズ優勝7回の強豪ドジャース。名将トミー・ラソーダ(日本では「裸の銃を持つ男」のテレビシリーズ出演でもお馴染み)はじめ世界中の名監督、名選手が所属した。つまり大谷がワールドシリーズで優秀する姿を見ることのできるチャンスなのである。
そしてこれがもっとも大きなポイントなのだが、ドジャースにはチームドクターとしてニール・エラトロッシュが所属している。彼はトミー・ジョン手術(トミー・ジョン選手に施した施術から呼ばれる)を考案した医師フランク・ジョーブ博士の弟子で、彼と共にドジャースの医療コンサルタントを行っていた人物。大谷は2024年シーズンを肘のリハビリに充てる予定で、ドジャースの初年度は打者として登録。Two-Way Player(二刀流選手登録)は継続することになると思うが、このルール自体が「大谷ルール」と呼ばれ対象が少ないことから対象イニングを制限することや廃止なども議論されている。この先数年で大谷は投手か打者のどちらかを選択する日を選ばなくてはならないだろう。しかしその時にも所属しているチームがドジャースであれば安心。ここまでの計算ができているのではないだろうか。そのための10年契約でもあるのだ。
ともあれ、もともとが両思いだったドジャースと大谷は晴れて結ばれることになったのだった。