服部文祥「サバイバル家族」を読んで

失礼だがちょっとなめてかかっていた。
本を読むとわかるが、作家とそうでない人の文章の質はやはり違う。
服部文祥は冒険家であって作家ではなく「そうでない人」の部類と勝手な先入観があった。だが読み進めると違った。服部は作家である。文章に惹き込まれた。

この本は自らの家族を題材にしたノンフィクションであるため、出来事の発表で終わりそうなところである。私がこの本に期待していたのは、その特異なエピソードでただ楽しませてほしかっただけ。

外側の世界で起こることの描写が上手く、起こっていることの情景が目の前にあるかのように感じられる。さらにその折々で、内側の世界つまり心情や考え方の描写を入れてきて読者を引き込ませる。

特に感じ入った個所を抜粋する。

”速く走るというイメージを持って、それに向かって練習するとは、走ることに関してより自由になることだと思う。本気で走れば苦しく辛い。だが自分のイメージ通りに走ったとき、自分の持っているものをすべて出し切った達成がある。自由=解放。自由だからこそ、すべての能力を解放することができるのだ。限界と自由とは一見矛盾する概念のようで、実は見えないところで繋がっている。自由でなければ限界を感じることができないからだ。
走ることに関して自由になりたい”

走る人の走る欲望の本質を言語化した素晴らしい文章である。実際私もよく走るため、この件を読み感服した。

服部文祥 行動し思考する作家

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