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新型コロナ対策最前線:保健所業務のデジタル化を進めています

2020年1月の新型コロナウイルス感染症の国内発生以来、保健所は、都民からの電話対応、医療機関からの発生届の受理、感染者などへの聞き取り調査、入院・宿泊療養・自宅療養の調整、自宅療養者の健康観察といった業務を日々続けています。

今回のnoteでは、こうした保健所の状況を受け「都政の構造改革」の一環として取り組んできた「保健所業務のデジタル化」について、現場の保健所職員の声も交えながらご紹介します。

東京都内には、地域保健法に基づき、東京都が設置する6保健所(西多摩、南多摩、多摩立川、多摩府中、多摩小平、島しょ)、特別区がそれぞれ設置する23保健所、八王子市、町田市がそれぞれ設置する2保健所の合計31保健所があります。今回は、このうち東京都が設置する6保健所の取組についてご紹介します。


「第1波」「第2波」を受けて開始した、デジタルツールの導入による職場環境の改善

2020年の春に発生した最初の感染の拡大であるいわゆる「第1波」、それを上回る勢いで同年夏に拡大したいわゆる「第2波」では、増加する新規陽性者を前にして、保健所の業務は逼迫しました。

そこで、東京都では応援職員の派遣や入院調整本部の設置などとあわせ、2020年9月より都政の構造改革の「未来型オフィス実現プロジェクト」の一環として保健所のオフィスにデジタルツールを導入し、業務環境の改善に着手しました。

まず取り組んだのは、医療機関から受理する発生届のFAX受信の電子化と、自動検温器、ディスプレイ、ヘッドセット、Wi-Fi、Web会議システムといった基本的なデジタルツールの導入です。

◆発生届の電子化

新規陽性者が発生した際に医療機関からFAXで送付される「発生届」について、「FAXレス」として受信の電子化に取り組みました。また、国が開発したHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)が導入されてからは、医療機関に対し、直接HER-SYSに入力して届出を行うよう働きかけを行っています。

◆ディスプレイ、ヘッドセットなどの導入

また、2020年9月に西多摩保健所をモデル事業所として選定し、自動検温器、ディスプレイ、ヘッドセット、Wi-Fi、Web会議システムなどの導入を先行実施した後、東京都が設置する6つの保健所すべてで必要な機器の導入を完了しました。

ヘッドセットは電話対応の際に両手がふさがれないため、保健所の業務効率の向上に寄与しました。


現場の保健所職員の声

■西多摩保健所:第1波、第2波を受けた当時の取組

西多摩保健所は東京都の西部に位置し、青梅市・福生市・羽村市・あきる野市・瑞穂町・日の出町・檜原村・奥多摩町の8市町村を管轄区域としています。

西多摩保健所の谷津課長と片柳課長代理に2021年9月にインタビューし、当時の取組についてお話をうかがいました。

―――ディスプレイ、ヘッドセットなどのデジタルツールを導入することでどのように仕事が変わりましたか?

ヘッドセットは、電話対応中も両手が空き、PCへの直接入力や書類参照等もしやすくなりました。特に疫学調査票の作成では、従来、電話で聞き取り、紙に記録した情報をPCに転記していましたが、直接PCに入力できるようになり、慣れた職員からは非常に好評です。

しかし、不慣れな職員から、質問や聞き取りをしながらの入力は難しいとの声もあったため、疫学調査票のフォーマットをチェック式にするなど、入力しやすくする工夫をしています。デジタルツールの導入を機に、業務の進め方の見直しも進んでいます。

西多摩保健所でアンケートを実施したところ、8割以上の職員から「業務効率化につながった」との結果が出ています。

ディスプレイの導入も、個人端末と併用することで、画面を切り替えることなく複数の画面を同時に参照することが可能になり、業務効率が向上しました。

今後も、業務の優先度、重要度を考慮しつつデジタルツールを有効に活用し、一層の業務効率化を図ってまいります。


「第5波」を受けて実施した業務プロセスのデジタル化

その後、2020年末から2021年初にかけて発生した「第3波」、2021年の夏に発生した「第5波」はかつてない規模で感染が拡大し、保健所の業務も経験したことがないほど逼迫しました。

そうした状況から、2021年10月には感染の再拡大に備え、東京都はデジタル技術の活用により保健所業務の効率化を一層進めるための専任部署を新設し、コロナ対策業務の総点検を行い、更なる対応に着手しました。

総点検の結果、新規陽性者数の増加に伴い増大する患者対応に係る全体の進行管理や代表電話の対応、積極的疫学調査といった業務の負荷が大きいことから、これらの業務プロセスをデジタル化する必要があると考えました。

そこで、短期的に取り組む方策と中長期的に丁寧に取り組む方策とに分け、課題解決に向けたスケジュール感を保健所と本庁で共有した上で、より実践的なデジタルツールを導入し、順次業務プロセスのデジタル化を進めていくことになりました。

◆取組①:ホワイトボードからクラウドサービスへ

保健所では、患者対応に係る発生、入院調整などの対応状況などをホワイトボードに記載して進捗管理していました。

そうした進捗状況の管理について、それまでのホワイトボードやエクセルデータ、紙を使った管理に代え、クラウドサービスを導入することで、進捗の見える化、対応漏れの防止、同時編集・閲覧による効率化を進めました。

この取組は多摩立川保健所と多摩府中保健所で先行的に実施し、その他の保健所への展開も順次開始しています。


◆取組②:電話音声を自動テキスト化

電話による患者への疫学調査や健康観察などの業務は、患者数に比例して増大し、保健所業務を圧迫していました。

そこで、代表電話に加え、AIによる音声マイニング技術を備えたクラウド電話を導入し、電話音声の自動テキスト化等により業務の効率化職員同士の情報共有を進めています。

音声マイニングシステムは東京都が設置するすべての保健所で導入が完了しています。

音声マイニングシステムのイメージと実際の様子

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◆その他の取組:チャットボット、SMSなどの導入

感染者の増大に伴い、体調不良時の相談方法など、電話対応による業務の圧迫が課題となりました。

そこで、よくある質問は東京都公式ホームページチャットボットとして新型コロナQ&Aを掲載することで、業務負担軽減に取り組んでいます。また、効率的な情報発信手段としてショートメッセージサービス(SMS)による情報発信ツールを導入しました。その他、ウェアラブル端末を活用した自宅療養者の健康観察等の取組もはじめました。

チャットボットやSMSを活用した都民の選択肢の拡大イメージ


現場の保健所職員の声

■多摩府中保健所:第5波を受けて

多摩府中保健所は、武蔵野市・三鷹市・府中市・調布市・小金井市・狛江市の6市を管轄区域としており、東京都が設置する保健所としては最大規模の保健所となっています。

当時最大規模で感染が拡大した「第5波」を受け、保健所業務のさらなる負担軽減を図るため、新たに実践的なデジタルツールを導入した多摩府中保健所の小澤課長、河野課長代理、草深課長代理に2021年12月にお話を伺いました。

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―――「第5波」は保健所の業務にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。

第5波での保健所業務の逼迫状況は大変なものでした。当保健所で対応した新規陽性者数は、ほかの保健所へ転送する方も含めて、第3波の頃と比べて第5波では1日約3倍程度に上りました。

第5波時は、第3波時と比べてワクチン接種が進み、高齢者の罹患が少なく、感染者数に対する重症者数が相対的に少なかったことや、度重なる感染の波でコロナ対応に習熟していたことなどにより、なんとか業務を行っていました。

―――「第5波」を受けた業務の総点検について教えてください

当保健所では毎週ミーティングを行い、都度、患者支援の強化に向けた改善策を議論しています。

ミーティング風景

第5波が落ち着いたタイミングで振り返りを行い、さらなる効率化に向けたコロナ対応業務の運営手法を検討しました。

保健所側で業務の課題を洗い出し、本庁の専任部署で解決に向けて必要なデジタル技術を検討するなど、課題を共有し、解決に向けた方策を両者で検討しました。

―――業務の課題を洗い出した後、取組はどのように進んだのでしょうか?

患者対応に係る進捗状況の共有について、これまでホワイトボードやエクセルデータ、紙を使って管理していました。ホワイトボード1枚あたり記入できる人数は20名程度で、「第3波」では10枚のホワイトボード、「第5波」では20枚以上のホワイトボードを使うような状況となっていました。

こうしたホワイトボードでの管理に代えて、クラウドサービスを導入したことで、患者対応の進捗の見える化や職員間での共有・引継ぎが円滑にできるようになり、業務の進め方の見直しにつながりました。

―――デジタルツールを導入した後、定着に向けてどのように取り組んでいますか。

導入しても使えなければ意味がなく、定着に向けた取組は重要です。特にクラウドサービスによる患者対応の進捗管理ツールの導入は、業務の進め方そのものを見直し、ツールにあわせた効率的な業務フローへ移行する必要があり、自主勉強会に取り組むほか、現場目線で有効な利用方法等を試行錯誤しています。

今後も随時、保健所内での運用ルールの見直しなどに取り組むことで、コロナ対策業務の効率化を推進していきます。

―――「第6波」でデジタル技術はどのように活用されていますか。(※1)

進捗管理ツールの導入により、紙管理の手間が解消され、対応経過の確認や引継ぎがスムーズになっています。また、SMS一斉送信サービスを活用し、発生届を受けた翌日までには、携帯電話番号がわかる患者全員に体調不良時の相談先等をご案内し、不安の軽減を図っています。

デジタルツールの導入により、多くの患者に効率的に対応できるようになりました。その分、ハイリスク患者の療養調整や健康観察などに対応する時間及び人員を確保しやすくなっています。

(※1)当該項目は、令和4年2月に追加取材したものです

―――今回の業務プロセスのデジタル化をどのように受け止めていますか

保健所の役割は切れ目のない患者対応です。デジタル技術の導入は手段であり、ゴールではありません。その認識を本庁とも共有し、患者対応の向上に向けた取組を一緒に推進しているところです。オミクロン株を含め、更なる脅威にも対応していきます。

最後に

現在、過去最大の感染者数を更新する「第6波」と呼ばれる状況が発生しています。東京都では、これまでに導入したデジタルツールの活用だけでなく、様々な取組を先手先手で行い、新型コロナ対策に取り組んでいます。

例えば、保健所が、症状の強い方、基礎疾患や妊娠などにより重症化リスクの高い方への対応に重点を置けるよう、オミクロン株の特性を踏まえた感染拡大緊急体制として、症状や年齢要件、基礎疾患がある等のリスクに応じた自宅療養者の健康観察体制を整備しています。また、医療機関等のご協力により、東京都において第6波では、発生届のHER-SYS入力の遅れが発生していないことが、新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(※2)等で報告されています。

これからも、関係機関と連携し、デジタル技術の活用も含めた様々な取組を推し進め、切れ目のない患者支援に取り組んでまいります。

(※2)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード:新型コロナウイルス感染症対策を円滑に推進するに当たって必要となる、医療・公衆衛生分野の専門的・技術的な事項について、厚生労働省に対し必要な助言等を行う会議体