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或るうからの来歴

そもそも我等は、関八州に広く聞こえし天狗山伏の一党これなり。

畠山重忠公の下、醍醐三宝院に属し、京羽黒を往来し、榛名赤城妙義をわが庭とする。

古くは上州新田に在りて、宮将軍に供奉し奉り秘事あり。義貞公、生品の社に額ずき旗を上げし刻、武略計略を以てこれを佑け、遂には御一騎賜り弓馬の誉を得たり。
後に義貞公の弟の君、新田二郎脇屋義助公胤を落し御厨の南境を護り、吉野の御代には、南木に憩いし鴉となりて、皇孫を導く魁となれり。

戦国未曾有の乱世の折、党を分かちて四方に配し、本宗は新田由良に従ひ金山の城に籠す。西は采女屋敷より出で、甲軍に与して一徳斎は透波と用う。一党甲陽の密に投じ、北は上杉、南は北条の同胞、末には共に真田に合す。松風の属するは則ちこの流れなり。

織豊の絢爛の陰にも、休むる事なく旧主の恩に報ひ、その功大山を動かすと雖も、史冊に遺ることなし。

徳川の世は更なること。隠にして密たる哉。諏訪の玉を仙居の手箱に隠し、秘かに南北の御統を和合せり。

由比の白浪、龍に隠りて天下の独尊を制し、南北は内外に通じ、身中に平法を尽くして玄玄の境を顕せしは誰ぞ。

君子は五経に拠り、士は軍に拠る。

僧は山に拠り、神主は社に拠る。

民は田野に拠り、黄金は百足に拠る。

秘湯湧き出れば、扶桑豊かなり。

高山より松風吹きて樹下千年の計を図り。

象山の一命背信の奸を斬る。

南海より駿馬出で春嶽に上り菱の冠擲てり。

馬謖之謂魔孫を摘み神州を護れり。


気がつけば時は明治に至りたり


渡独の軍医、蘭学の誼を以て日月の剣東都に傳ひて幾代。一日同枝の若桜、北斗妙見に導かれ素雪に散華す。

戦神、懐に刺牙を呑みて四海同朋の夢に雄飛す。

甲斐の刺牙は諸刃也、自らは去りて両刃を遺す。

女男の二つ刃、些か打ち欠けたりとは雖も、千年の鍛錬結集したる銘刀なれば、一粒の鉄瑰、粗く拙きとも、餅の如く叩き延ばし、硬軟に鍛えに鍛え、当面の密に用うを君蛮勇と嗤うか。

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