なぜ、クロロはヒソカにキレているのに、クラピカを放置しているように見えるのか。

この前、「団長がヒソカにキレてるけどなんで?」というまとめを見た。
クロロが団長を務めている『幻影旅団』は流星街出身が多く、その街は独特なルールと価値観によって作り上げられている特殊なコミュニティだった。
当然、旅団もその特殊な街のしきたりに従いつつ、さらに旅団特有の縛りも団員同士で共有している。
そのため、「なんでここで平然としてるの?」と思うシーンが少なくない。多くのまともな(流星街出身ではない)読者なら特にそう感じるはずだ。
この記事をこういうタイトルにしたからには、読者はきっと「クラピカを放置しているように見える理由」と、さらに突っ込んだ反論を期待しているに違いない。
以下では
・旅団のしきたりのおさらい
・流星街のしきたりのおさらい
・なぜクロロはヒソカにキレたか
・クロロはクラピカにキレたか
を順に話していく。

旅団のしきたりのおさらい

まともな組織ならば、リーダーがいなくなった時点で方針がまとまらなくなり、ただの個人の集まりとなって機能不全に陥るだろう。
だが旅団は違う。場合によっては頭を切り離し、手足だけで動く蜘蛛である。
……というのがクロロの主張というか理想なのだが、実際の作中では、人質となったクロロを見殺しにするかどうかで大いにモメた。
クロロ自身が「場合によってはリーダーの俺を切り捨てて、団員を守って旅団を存続させろ」と言っていたわけなので、単純にルールに従えば見殺しにするべきなのだが、結局のところ旅団も人の子であり、少なくともパクノダ、マチ、コルトピは意見の違う団員と争ってでもクロロを救うつもりでいた。
まさに「頭の言う事を聞かない手足」であるが、そもそも手足が自分の頭を切り離すわけがない。まともな読者ならば、クロロの意思を無視してでもクロロを助けたい団員のほうに感情移入するはずだ(いや殺せよ、と思うあなたはパクノダよりも旅団にふさわしいかもしれない)。
この状況は人質交換の交渉に応じるか否かの場面なので、「クロロを見殺しにしてクラピカ側を全滅させる」と「クロロとゴンとキルアを交換し、ひとまず以前の状態に戻る」かの二択である。もちろんクラピカ側が操作系の念で一網打尽にしようとしている場合は、もっと最悪の想定もありうる。
これが問題をややこしくしている原因であり、以前の状態に戻るパターンがあれば、それにすがりたくなるのが心情的に普通である。
逆に「クロロが死んでも、相手を全滅させられればOK」はまんま流星街のやり方である。

流星街のしきたりのおさらい キレない人たちの街なの?

作中で描写された限りでは、流星街は特殊なだけではなく、明確に異常である。
「やつらの絆は他人より細く、家族より強い」これは作中で何度も描写されている通りで、不当に数年拘束された若者のために、何人も命を投げ捨てて、関係者に自爆テロをしかけている。
「やつらいざとなったら足し算も引き算もない」とのことだが、本当にそこらへんの損得勘定などないようで、これは理屈にも合わず、倫理的にも受け入れられないレベルなので、それをまともな論理として解説することは不可能である。
これを知っている読者は、文面通りに真に受けて「ヒソカに仲間を殺されたとて、他人より細い絆なんだから、無視して終わりじゃん」と思うかもしれない。
旅団がキメラアントと戦った場合にも、「フェイタンが死んだら次が行くだけ」と、仲間の死を気にもとめないような様子が描かれていた。
これは「他人より細い」の部分しか見ていない。「家族より強い」の部分が抜けている。
つまり正確に表現すると「仲間が死んでもかまわないが、殺された場合は必ず復讐する」というのが流星街の本質なのだ。よって仲間の仇を討つために、仲間を平気で捨て駒にする。フェイタンは死んでもいいけど、死んだら絶対に復讐する。これは矛盾しているように思えるし、心情的にも理解しがたいが、作中の描写を説明するには一番近い表現だと思う。
別に流星街の住人も、「仲間を殺して全然OKです」などとは言っていない。むしろ逆で「何も奪うな」と言っている。

なぜクロロはヒソカにキレたか

話を本題に戻すと、ヒソカに対してはキレるのが当たり前である。
クロロはヒソカにずっと付きまとわれて、異常な視線を常に感じていただろうし、他の団員にとってと同じく、コルトピとシャルナークを殺されたのが許せないだろう。

クロロはクラピカにキレたか

そもそもクロロはヒソカにキレていて、復讐に乗り気であるとしよう。そこで次に納得いかないのは、同じく団員を何名か(間接的なものも含めて)殺害しているクラピカの扱いである。

まず言いたいのは、クラピカに対してもガチギレしてたよ、ということである。
クラピカの鎖で拘束され、口しか動かせなくなった際には、徹底的にクラピカを挑発し、何発も殴られていた。
結果的には殺されなかったが、勢いで死んでしまう可能性もあった。クロロは鎖のせいで絶状態であり、そこにクラピカが加減せず念を込めて殴れば、ウヴォーギンでも耐えられない。漫画では滅多に起こらないが、ただ殴られ続けただけで人は死ぬ。これは内臓破裂や脳内出血がなくとも死ぬ。体中の傷ついた細胞が腎臓になだれ込み、急性腎不全を起こすのである。これは空手の10人組手などでも起こる危険なものだ。
だからこそ、クラピカは殴るのを止めた。旅団との人質交換に応じるため、万が一にもクロロが死んではいけないから。
その結果としてクロロは「鎖野郎は復讐の使命より仲間の命を取る」と看破し、パクノダが交渉を無視さえすればクラピカ側を一網打尽にできると確信するが、それをパクノダに伝える方法はない。殴られ損である。
ならばなぜ殴られるだけの挑発をわざわざしたのか。怒っているからである。
ならばいっそ「薄汚いクルタ族の血を絶やしてやる」と言えばクラピカも一線を超えたのかもしれないが、クロロは名前を呼び捨てにされても気にしないようだし、そもそも殺されたいわけでもない。

まず、クラピカに対してクロロが行った(無駄な)挑発から、内心は怒り心頭だったのは分かってもらえたと思う。センリツが言うには心音はずっと正常だったらしいが、そもそもクロロが怒っている時にどういう心音を鳴らすのかがわかっていない。あの状況で平然としていられる様をセンリツでも理解できなかった以上は、心音から心理を察すること自体が不可能だと私は考える。

そもそもの話、黙っていればよかったのだ。それはそれで殴られてたかもしれないが、少なくとも挑発する理由がない。
黙らずに挑発を続けて、何発も殴られ、ついには殴ってこなくなった所で、クロロなりに内心(勝った)と思っていたのかもしれない。クラピカ側の弱みを見つけてやったという仕返しなのだろう。

なぜクロロはクラピカを放置したか

ここまでで「クロロはヒソカにキレて当然だし、クラピカにだってキレていた」という言い分は分かっていただけたと思う。次は「ヒソカには復讐するのに、クラピカを放置しているのはなんで?」について話していく。
これは端的に言うと「所属と念能力が割れているから」である。パクノダの尋問から得られた情報や、実際に鎖を食らった経験からして、クラピカの念能力はほぼ割れたと思っていい。

以下補足
人差し指は残っているが、あれは敵を制圧した後に能力を奪うタイプのものである。盗賊の極意(スキルハンター)や謝債発行機(レンタルポッド)がそうであるように、相手から能力を奪う能力というものは、そもそも相手を圧倒していなければ発動すらできない。スキルハンターは悠長に質問して、しかも答えを得られないと発動しないし、本に手を当てさせるなんて戦闘中にするわけがない。まず倒したほうがよく、だからこそ強力な麻酔薬を塗ったナイフを使用している。レオルのレンタルポッドも、敵に恩を売ろうと思った場合、大抵は「殺さないで見逃す代わり」だろう。
クラピカの人差し指の能力も、相手を無力化した後に、それなりの時間をかけて初めて能力を奪える。戦闘中にゆったり奪っている暇はない。
補足終わり

クラピカがどこにいて、使える念能力がバレている以上は、急ぐ理由は何もないし、作中でも言われていた通り、団長にかけられた念の鎖を解除してから復讐すればいい。というか、解除してからでないと死後の念で団長は間違いなく死ぬか、死ぬより辛い状況になる可能性がある。そこはフィンクスが解説した通り。

よってクラピカにキレていて、復讐をするつもりであっても、まずは団長にかけられた念の鎖を解除してからでいい。そして作中ではアベンガネの力を借りて解除した後、ヒソカとの決闘を優先した。これは本当にヒソカをうっとうしく思っていたのもあるだろうし、「除念を手伝う代わりにタイマン」という約束を律儀に守った結果だろう。順序として考えると何もおかしくはないし、どちらにせよ、クラピカを後回しにしても問題はない。むしろクラピカよりもヒソカを倒すほうが大変であろうと思われる。

今回の記事で一番難しい話がここからで、「じゃあなぜヒソカを殺した後にクラピカへの復讐をしないのか」だが、単純に「ヒソカを殺したと思ってたら生きていたから」だけではなく、作中の描写はもうちょっと複雑である。
ヒソカを殺したつもりでいるクロロは、クラピカへの復讐に動くのではなく、カキンのお宝目当てに暗黒大陸行きの乗船の準備をしているように見える。
「そこはまずクラピカを処してからだろ」と思うのだが、これにも理由はある。「船に乗る準備をしないと乗り遅れてしまうから」というのは、正しく思えるがちょっとズレている。乗り遅れるのはそうなのだが、そもそも「お宝より仲間の仇を討つ方が先」なはずだ。

実はハンターハンターのマイナーな設定として、「誰が何に乗ってどこへ行ったか」は調べればすぐにわかる、というものがある。これはゴンとキルアが天空闘技場に行った時にヒソカが先回りしていた時に解説されていたし、キルアがアルカを連れて飛行船で移動する時、イルミの追跡を撒く必要があった時にも言われていたと思う(多分)。
現実で「誰が何に乗ってどこへ移動したか」なんて調べてもわからないだろうし、できるとしたら探偵の浮気調査みたいな泥臭いマンパワーな気がするが、ハンターハンター世界ではそういうことができるらしい(ヒソカもイルミも共にプロハンターだが、ハンターライセンスを使用しないとできないことなのかは不明)。

なので、クラピカが暗黒大陸行きの船に乗っていることは旅団側にバレている可能性が高いし、もしそうであれば、カキンのお宝と仲間の仇(ヒソカとクラピカの分)で一石三鳥のオイシイ船である。
もちろんヒソカが乗ったことも調べて知っているだろうし、そもそもヒソカが旅団を狙っているという構図なので、ヒソカが乗ってくるのは当然だ。そして乗った後にどこにいるのかなんて実際に探さないとわからない。わかるのは乗船手続きまでである。

まとめ

これによって、「なぜクロロはヒソカにキレているのか」について解説できたと思う。クロロはヒソカにキレるのが当然だし、クラピカにもキレてたし、まとめて復讐しようとしている最中である。暗黒大陸行きの船の中で、マフィア、旅団、クラピカ達、そしてヒソカが入り乱れるヨークシン編の再現が行われようとしている。


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