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脳構造マクロモデルで読み解く人間の行動選択 #0 豊田・北島による脳構造マクロモデルMHP/RTについて

プロローグ:
脳構造マクロモデル MHP/RT(Model Human Processor with RealTime Constraints)について 

 この「脳構造マクロモデルで読み解く人間の行動選択」では、最先端の社会科学の成果を著した国際的な書籍について、書籍中の特に人間の行動に関わる事象を脳構造マクロモデルを適用してより深く理解し、それぞれの書籍の核となる論点と構造を読み解いていきたい。
 この試みを通じて、世界の最新の社会科学の理論に対する理解を深め、合わせて脳構造マクロモデルを援用する読解を通じて、人間の脳の振る舞いの大枠も併せて理解することで、これからの時代に求められる人間行動とそれを生み出す基盤となる脳、心の動き、そのベースとなる認知、社会基盤や環境要因としての文化や道徳などについて、共通理解を構築していく一助としたい。 

 今回はプロローグとして、本シリーズにおける脳構造マクロモデルについて、簡単に説明をしておきたい。本稿における脳構造マクロモデルは、豊田誠・北島宗雄が提唱し、BICA学会(Biologically Inspired Cognitive Architectures)で学会のJournalの査読論文として採択された、 Model Human Processor with RealTime constraints(以降、MHP/RT)を指す。本稿は、豊田誠の監修を受けて掲載している。

  MHP/RTの詳細は、追って本シリーズの中で随時解説をしていく予定だが、ここでは、骨子を極めて簡単に紹介しておく。MHP/RTの骨子は、脳構造をマクロモデルとして捉えると、現実世界への対応に必要な時間制約下において、反応、動作時間の帯域が短い小脳系の自律自動制御処理を担うシステム1系と、反応、 動作時間の帯域が長い(つまり動作するのに一定時間を必ず要する)意識処理を担うシステム2系が、並列分散で作動し、協調競合しながらデュアルな情報処理を行うという構造であることを理論的に示したことにある。
 また、記憶も多層の階層構造になっており、システム1系、システム2系で利用する領域や利用の仕方が異なる。つまり、脳は、その構造上、常に非線形な振舞いをする

MHP/RTと多重階層記憶構造を組み合わせたモデル概念図が以下である。

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TKBrainModelMHPRT日本語

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上の英語の図と、下の日本語の図2つは同じ内容を示している。

 この豊田・北島のMHP/RTと多層記憶階層構造の理論モデルを援用して読み解けることは、発達、成長から成人の人間の行動選択、集団としての振る舞いまで、非常に多岐に渡る。

 世界では、こうした「脳構造はデュアルであることを基本とした脳構造マクロモデル」を前提として、社会デザイン、政策、情報システムのデザインなどを行う研究と作業が進んでいる。例として、昨年2019年のノーベル経済学賞を受賞したエステール・デュフロの貧困対策を参照されたい。

 豊田・北島の理論は、欧米の学会では、1978年のノーベル経済学賞を受賞したH.サイモンの限定合理性、 GOMSの創始者であるA.ニューウエルのMHP(Model Human Processor)、そして2002年のノーベル経済学賞受賞者で行動経済学の祖として知られるD.カーネマンの2minds(システム1、システム2)を体系的、理論的に結び付けるものだとして高い評価を受けている。

 国際的評価の高さを示す事例として、北島は、OECD(Organization for Economic Co-operation and Development,(国際)経済協力開発機構)のPIAAC(Programme for the International Assessment of Adult Competencies,国際成人力調査)の次期調査(2022-23に予定されている2nd cycle)の設計部会の一員に2016年に招聘され、3年に及ぶ調査指針の作成作業を行っている。
 一般的に、国際的な能力調査と言えば、このOECDの能力調査を指し、子供の能力調査としてPISA、成人の能力調査としてPIAAC がある。国際比較される能力問題は、この二つの調査に基づいているが、日本では、この事実が広く知られているとはいえない状況にある。

 この他にも、豊田・北島は、国際学会でのbest paperの受賞や、国際的な 学術Journalへの論文の採択もなされており、この2020年10月にもCOGSCI2020でIARIA Journaの招待掲載論文賞を受賞している。

 一方、この脳機能マクロモデルの研究分野やその応用、社会適用については、欧米に比べ日本は大きく出遅れている。まず、研究分野名が差す領域において、国際研究上の英語表現と日本語表現では大きなギャップがある。
 たとえば、豊田・北島の研究分野は欧米ではCognitive ScienceないしCognitive Behavior Scienceとなるが、日本での認知科学領域が対象としている内容とは大きなギャップがある。また、日本では脳構造というとすぐに脳科学という用語が使われるが、日本でいう脳科学関連の取り組みは、欧米ではNeuro Science(神経科学)に属する場合が大半である。

 このような状況から、豊田・北島は、日本での学会活動はほとんど行なっておらず、上記に簡単に触れた、極めて高い国際的な評価とは相反して、日本での認知は極めて限定された状態にある。この状況も本企画を始めた背景にある。
 脳構造マクロモデル、MHP/RTに興味を持たれた方は、豊田・北島の成果をまとめているWebサイトを参照されたい。

 さて、次回から本シリーズの第1回となるが、最初は、従来の遺伝子のみが進化を主導しているとする進化論に異を唱え、「文化―遺伝共進化パッケージ」が今日の人類の繁栄をもたらす進化駆動力となったという説を提起している、2019年に日本語版が出版された ジョセフ・ヘンリックの『文化がヒトを進化させた~人類の繁栄と <文化―遺伝子革命>』(原題:THE SECRET OF OUR SUCCESS how culture is driving human evolutions, domesticating our species, and making us smarter,2016)を3 回に分けて解説する。
 次に、本シリーズの2つ目の企画では、なぜトランプが大統領に選ばれることになったのか?について構造的な理解をもたらしてくれる、2016年大統領選挙の前に出版された、『社会はなぜ右と左に分かれるのか(THE RIHTEOUS MIND)』の読解を行う予定である。

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