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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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2024年3月の記事一覧

【短編小説】音声の玉手箱

「一人って、静かなんだなぁ。」 呟いた声は、加瀬優里亜以外には、誰もいない部屋に響く。 普段は、同居人でもある彼氏の大前浩成がいるが、昨日の夜、大喧嘩をして、家から追い出した。 喧嘩の内容は、連絡もせず続けて朝帰りをしたという、大した事のないものだったが、その間、眠れもせず心配して待っている優里亜の身になって、大いに反省してほしいものである。 浩成本人は、後輩の仕事の悩みを聞いていたと言い張っているが、それが本当かどうか優里亜には確かめるすべがない。ひょっとしたら、浮

【短編小説】プレリュード

別に何か用があったわけじゃない。 橋本は自分にそう言い聞かせる。 そこは、自分の実家からそう遠く離れていない場所で、歩いて15分くらいの距離。用がなければ、足を運ばないような場所。 目に入った光景に、橋本は思わず息をのんだ。 今歩いている道路、とはいってもかなり細く、車2台すれ違うのには、片方が止まらなくてはならないが。それを挟んで、住宅が立ち並んでいたはずだが、全て取り壊され、更地と化していた。 要するに、だだっぴろい空き地がずっと広がっている。 奥には、いわゆる

【短編小説】『ネコのぼうけん』

「ねぇ、パパ。このあと、ネコさんはどうなるの?」 布団の中で、とろんとした目をこちらに向けて、息子の怜央がそう尋ねる。いつもは、「きっと、友だちに会えたんじゃないかな。」と答えるが、なぜかその日は「どうしたんだろうね。」としか答えられなかった。 胸の上を一定のリズムで叩かれて、それ以上尋ねることなく怜央が眠りについたのに、自分は手は止めたものの、そのまま体勢を変えられず、薄暗い光の中、息を吐く。 絵本作家を夢見ていた妻、柚葉は、怜央を身ごもった時から、手作りで絵本を作り

【短編小説】それは月だけが知っている

「この頃、家で仕事していても、集中できないんですよね。」 そう言って、愛想笑いのようなはっきりしない笑みを口元に張り付けると、それを聞いた相手は、画面の向こう側で、少し考えるかのように口元に手を当てた。 「在宅だと、通勤時間はないし、電話や他の人との話で、作業を中断されることはないけど、自宅ってプライベートな空間だから、自分の中で、うまくオンオフ切り替えないと、いけませんからね。」 「自分は家が好きなので、在宅は望み叶ったものですが、実際にやってみると、いろいろと不都合