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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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2024年2月の記事一覧

【短編小説】君が好きだと叫びたい

受験が終わり、4月から新しい環境で、新しい生活が始まる。 不安がないとなれば、嘘になる。 でも、自分で選んだことだから、頑張らなきゃ。 放課後や休みの日に、頻繁に訪れていた川べりは、今日も人がいなかった。 少し緑が多くなってきているところに、ごろりと仰向けに寝転ぶ。 髪とか服とか汚れるけど、家に帰って着替えればいいんだし、別に誰かに会う予定もないし。 この場所に来るのは、本当に久しぶりだ。 受験勉強期間は、ひたすら自分の部屋にこもってたから、こんな風にのんびりすることも

【短編小説】憧れと、恋愛と

部屋の扉を開くと、こちらに横顔を向けて、机に向かっている妹の美弥の姿があった。奨が入ってきたというのに、こちらには少しも目を向けず、ただ手元の紙の上で手が動いている。 奨は軽く息を吐くと、手元のドアを添えた手の甲で叩く。その音に、美弥はこちらを見て、軽く首を傾げた。 「扉を開ける前に、まずノックじゃないの?」 「ちゃんとした。答えはなかったけど。」 奨の言葉に、美弥は申し訳なさそうな表情に変わった。 「はは、ごめん。気づかなかった。」 「まぁ、いつものことだからい

【短編小説】Written Invitation 招待状

私達の結婚生活は、25年を迎えた。 大切に育てた子どもたちも、成人し自分たちの世界に旅立っていった。 寂しくなった2人だけの生活は、それでも穏やかに過ぎさっていく。 何も問題はない。 たぶん、これが幸せというものだろう。 私達の間には、もう情というものしかなく、恋愛のような甘ったるい空気は少しも流れていない。 お互いを見つめる目に映るのは、無関心ではないが、特別な感情は滲まない。 ただ、時々、自分たちはなぜ一緒にいるのかと、考えることがある。 仕事から帰ってきたら、ダ