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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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2024年1月の記事一覧

【短編小説】結婚しなくていいと思ってるのは、貴方だけかもしれません。

彼と一緒に住み始めた当初、私達には結婚願望というものがなかった。 共に仕事が順調で、大きな仕事を任せられるようになっていた。結婚するとなると、その準備に時間もお金も取られる。それに子どもを持つことだって考えなくてはならない。 不安なことは、たくさんあるのに、それ以上のメリットってあるんだろうか。 今が楽しければ、それでいいじゃない。 そんな気持ちで、私達はもう5年も付き合っている。 定期的に会っている大学院時代の先輩から、結婚することを聞かされたのは、やはりそんな集

【短編小説】我のできることは少ない。

せっかくの休みの日だというのに、今日は一日雨だという。 洗濯や家の掃除が済むと、途端にやることがなくなった。 普段は本屋に行くことが多いが、このところ買う本が多くて、家の本棚に本が収まらず、床にも積みあがっていた。その中に、読もうと思っていた本、つまり積読本もそれなりの数があるはず。 雨で外に出るのもためらわれるから、それらの積読本に手を出すかと、飲み物や軽食も準備して、本棚の前に立った。 こちらに向けられた背表紙を眺めていると、床に積まれた一番上の本が、音もなく開かれた。

【短編小説】私には何もない

「さむい~。」 あまりの寒さに、布団から出たくなくなるこの日。 せっかくの休みだが、外出をする気にもならない。 一人だから、どう過ごそうが、咎められることもないんだけど、ずっと寝ているのはもったいないので、仕方なく起きだした。 朝ごはんもパンとスープの簡単なもので済ます。 今日、一日何して過ごそうかと考える。 家の中でできること。 サブスクのテレビ番組や映画も、ある程度見つくしたし、手元にある本も読みつくしたし、動画やゲームやネットサーフィンは、果てしなく時間を潰せる

【短編小説】泣かないで

また、この世界の夢を見ていると思ってしまった。 海沿いに建てられたテーマパークのようなところだ。 広大な駐車場、何棟も建てられたビル。それらはショッピングモールだったり、ホテルだったり、マンションだったりする。 現実世界で、このようなところに来た覚えはない。 なのに、頻繁にこの場所を夢に見る。 自分はここのホテルに泊まっていたり、マンションに住んでいたり、場合によっては、ここに隣接した一軒家にいたりする。 一軒家は、少し傾斜した場所に立っていて、一階は駐車スペースと、土

【短編小説】叶えたい夢

有名人が視聴者の夢を叶える番組が流れている。 それを見ながら、自分の夢を叶えることすら難しいのに、他人の夢を叶える力がある人はすごいなと、思ってしまう。 一緒に見ていた彼にそう話したら、彼は呆れたように口を開いた。 「叶えてもらえそうな夢を送ってるんだし、テレビ側も叶えられそうな夢をピックアップしてるんだから、そりゃあ叶えられるでしょ。」 「でもさぁ、それでもすごいと思わない?他の人の夢を叶えて、笑顔にできるのって。自分の夢を叶えるのだって、ままならないのに。」 「夢