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短編小説Only

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普段は長編小説を書いていますが、気分転換に短編も書いています。でも、この頻度は気分転換の枠を超えている。 短編小説の数が多くなってきたので、シリーズ化している(別のマガジンに入っ…
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2023年8月の記事一覧

【短編小説】僕たちは流されるがままに恋をする。

「私と別れてほしいの。」 相手から、こう別れを切り出されたのは、もう何度目だろうか。 「分かった。今までありがとう。」 こう返答したのも、もう何度目か。 相手は、たいてい泣きそうな顔をしてる。 なぜだろう。別れようと言われたのは、僕の方なのに。 端的に言ってしまえば、僕は人をそういう意味で、好きになったことがない。 今までの自分の恋人には、とても失礼なことを言ってると思うけど。 ただ、こんな自分を好きになってくれる人はいて、その時に付き合っている相手がいない限り

【短編小説】会わなくても、好きだけど。

私は、今付き合っている恋人に、一度も会ったことがない。 彼と知り合ったのは、SNSで、私が推していたアーティストのことを、彼も好きだったという、ただそれだけのことだった。コメントしてみたら、返事が帰ってきて、意気投合したというだけ。 その内、SNSだけでなく、電話でも話すようになった。話す内容は、徐々に広く深くなり、話す頻度も高くなった。その内に私の中では、彼の存在が大切で特別なものになった。 彼が本当のことを話しているのかなんて確かめられないし、もしかしたら全て嘘かも

【短編小説】愛してると口にして。

私は、事あるごとに、彼に言った。 「愛してると言って。」 「私は愛してる。」 最初は照れて口にすることを躊躇っていた人が、今では平然と、私に向かって、答えるようになった。 「僕も愛してる。」 「君こそ、愛してると言ってほしい。」 あまりにもお互い口にし過ぎて、もはや挨拶のようになっている。 「愛してる」と口にしたら、ありがたみが無くなるとか、軽々しく言う言葉ではないと、反論する人もいるかもしれないし、そんな言葉恥ずかしくて言えないとか、言葉にしなくたって態度で示せばい