小説・『記者カイ見』・3

 アメリカの作家が「パリはついてくる。パリは移動祝祭日だからだ」という、よくわからないことを晩年に書きつけているので、おそらく気が狂っていると思うのだが、そもそも多くの外国人に「パリ」と発音しても通じないし、そういった齟齬は差し当たり問題にはならないのだが、とにかくその老人は若い頃にその「パリ」と呼ばれる地域を訪れたことがあるらしいので、アメリカの気狂いピエロが書き付けたという怪文書の意図がわかるかもしれない。 
 後部座席に乗り込むと、老人は運転席に居座る一体の白い躯体に気がつく。どうやら人ではないようだ。わからないことについては、沈黙するしかないらしいので、その老人は特に考えるまでもなく行き先をその白い物に伝えた。
 すると待ってましたと言わんばかりに「シートベルトをお閉めください」とどこからともなく聞こえてきたので、老人は一刻も早くこの閉ざされた空間から去りたい気持ちになった。

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