教員免許更新制度の「発展的な解消」について報道に振り回されないように自分で読んでみた。
文部科学省は、2021年8月23日に教員免許更新制度に関する審議のまとめを公表しました。教員免許更新制度については、中央教育審議会「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会教員免許更新制小委員会にて審議されており、今回その結果を公表したという形になります。
「教員免許更新制度は、廃止ではなく発展的解消」という文言が記事のタイトルでも多く使われ取り上げられていますが、教員免許更新制度をなくすのかどうかについてははっきりと言及されてはいませんでした。
一度、「教員免許更新制度廃止」という報道が出たので文科省としても慎重な言葉選びとなったのだと思います。これを面白ろおかしく報道しようという意図のニュース記事も多かったので、「発展的な解消」について自分の言葉で理解するため審議会情報を読んでみました。今回はそのサマリーをあげてみたいと思います。
「令和の日本型学校教育」を担う新たな教師の学びの姿の実現に向けて
審議まとめ(案)
1.教員免許更新制度の概要と社会の変化について
教員免許更新制度は、2009年度(平成21年度)から導入された制度です。教師として必要な資質能力が保持されるよう、「定期的に最新の知識技能を身に付けることで、公教育の充実を図るとともに、教師が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ることを目指す」ことを目的としています。
教員免許の有効期限は10年とし、任期満了より2年2ヶ月前から2ヶ月前までの間に30時間の講習を受けることになっており、これを受講することで免許の更新を行うことができるようになっています。稀にこの講習を受けていないことで免許状をうっかり失効してしまう教員が出ています。
これまで教員免許制度については履修内容に関する見直しや、他の教員研修との相互認定の取組など、たびたび制度に関する見直しが行われてきました。しかし、この十数年の間にAI、ビッグデータ、IoT、ロボティクス等の先端技術の高度化など社会が急速に変化し、それとともに教育を巡る状況も「学校における働き方改革」「GIGA スクール構想」などを筆頭に大きく変わってきています。このような時代の変化に合わせて令和時代における教師の学びについても変化が求められるようになってきました。
2.令和時代における教師の学びとは何か?
「1.教員免許更新制度の概要と社会の変化」でまとめたような状況の中で、どのような学び方が令和時代における教師の学びの在り方として望ましいのかについて言及されています。要旨は以下の通りです。
【教師の学ぶの姿勢とサポート体制】
・教師は学び続ける姿が常に期待されている。
→時代が大きく変化しているためその姿勢はより重要となる
・子どもたちだけでなく、教師においても個別最適な学びが必要で、その環境構築がされるべきである。
・教師が将来なりたい姿=目標を掲げられるようになることが理想で、そのためには、現状を把握することも重要。管理職などは現場の教師と対話をするなどしてサポートをすべきである。
【学習コンテンツと学んだことの保証と証明】
・教師の学習コンテンツが不足している
・学習コンテンツを用意することも大事
→知識伝達型の学習コンテンツに留まらない自らの経験や他者から学ぶといった「現場の経験」も含む学びが提供されていること
・学んだ成果が組織に活用されるような状態を作ること
・そのためには学びを可視化することが必要
・全国的な観点で学びの質が担保されているが証明できることも重要
【その他】
・上記のような状態を作りだすためにデジタルを研修などに積極的に活用したい。→時間的・空間的な効率化が図られる
・どうしても管理職が期待する水準に達していない教師や、職務命令に従わない場合には、地方公務員法第 29 条第1項第2号に規定する懲戒処分の要件、「職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合」と照らし合わせながら指導上の措置を講じることも考えられる。
上記のような「新たな教師の学びの姿」をより高度な形で実現するには仕組みづくりも大事であると審議まとめには記載されています。今後は以下の3つの仕組みを高度化するために具体的な議論を進めていくとのことでした。
① 明確な到達目標が設定され、到達目標に沿った内容を備えている質の高い
ものとなるように、学習コンテンツの質保証を行う仕組み
② 学習コンテンツ全体を見渡して、ワンストップ的に情報を集約しつつ、適
切に整理・提供するプラットフォームのような仕組み
③ 学びの成果を可視化するため、個別のテーマを体系的に学んだことを、全
国的な観点から質が保証されたものとして証明する仕組み
3.「発展的な解消」とは何か?
今回の審議のまとめでは、これからの新しい教師の学びの姿を実現するには今の教員免許更新制度は矛盾を抱えているとしています。「教師の学びと免許状の効力を紐付けた教員免許更新制はその阻害要因となると考えざるを得ない。」という強めの言葉での記載もされています。
これからの先生に期待されることは常に主体的に学び続ける姿勢であるにもかかわらず、免許状を更新しなければ職務上の地位の喪失を招きかねないという状況の中で、変化を前向きに受け止め、探究心を持ちつつ自律的に学ぶという、教師の主体的な姿勢が発揮されてきたかという効果は疑問が残るというわけです。このような文章の流れの中でようやく「教員免許更新制の発展的解消」という単語が出てきます。
以下に全文を記載しておきます。
【教員免許更新制の発展的解消】
よって、本部会としては、「新たな教師の学びの姿」を実現するための方策
を講ずることにより、教員免許更新制が制度的に担保してきたものは総じて代替できる状況が生じること、教員免許更新制は、「新たな教師の学びの姿」をの「新たな教師の学びの姿」を実現するための当面の方策の実施と同時である題の解決を直ちに図ることは困難であることを踏まえ、必要な教師数の確保とその資質能力の確保を将来にわたって実現するとともに、教師一人一人が、持続可能な学校教育の中で、自らの人間性や創造性を高め、教師自身のウェルビーイング(Well-being)を実現し、子供たちに対してより効果的な教育活動を行うことができるようにするためにも、「新たな教師の学びの姿」の実現に向けて、教員免許更新制を発展的に解消することを文部科学省において検討することが適当であると考える。また、この措置のタイミングについては、「新たな教師の学びの姿」を実現するための当面の方策の実施と同時であることが適当である。その際、既に授与された教員免許の有効期間の在り方等については、文部科学省において法制的な観点から検討を深めていく必要がある。
教員免許更新制を発展的に解消し「新たな教師の学びの姿」を実現すること
により、教師の専門職性の高度化が進んでいくことが期待される。
同時に、生活環境の変化等を契機に、学校現場に携わりたいという意欲を新
たに有するようになった場合や、定年後も学校現場に継続的に携わりたいという意欲を有している場合などに、免許状を保有する者が、その資質能力を向上しつつ、生涯教師として活躍するチャンスを拡大することにつながっていく。
免許状保有者のこうした意欲を大切にしていくことは、必ずしも教師という形だけに留まらず、学校教育を幅広く支える人材として積極的な参画を得る上でも重要である。
今後、教員免許を更新するという概念がなくなったとしたら、一度教員免許更新講習を拒否して学校の先生を退職した方の教員免許は復活するのかという点も問題点として出てくるのかもしれません。
過去に免許状を持っていて、失効した人は免許復活のための講習を受けることになるのかもしれないなと筆者としては勝手に予想しています。
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