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<読書記録>センス・オブ・何だあ?


私たちはいとも簡単に五感という言葉を使いますが
盲人の方(ご本人がこう呼んで欲しい、障がい者ではない、とおっしゃるので)との交流を通して、四感、三感でもバランスよく生きておられる方もいらっしゃるということを改めて感じています。

著者さんは4歳の頃に目の手術によって全ての光を失ったそうです。
麻酔から覚めたら、さっきまで見えていたはずの窓の外の光も身の回りのものも、両親の顔も全て目の前から消えていたそうです。

4歳の著者さんは覚えている限りの見えるものを記憶の引き出しにまとめて「フリーズドライ」しておいたおかげで大人になった今も見えるということがどんなことか思い出せるそうです。

足の裏で世界を感じる著者さんは、触覚とともに、聴覚での認知を高めていきます。

「雨を聞く」

これは、雨の音を聞くのではなく、雨によって変化した町の音を聞いているそうです。

雨には3種類あり、雨そのものには音が無い「小ぬか雨」も10分以上降り続くと
街の音が変わってくるのだそうです。
道が濡れて車のタイヤがシャーっと「歌い出す」

次に「雨しとど」と呼ばれる強くなく弱くなくまっすぐに大粒の雨が落ちてくる状態
その落ちてきた雨つぶが、普段は音を立てない「止まっているものたち」に当たり
さまざまな音が生まれるそうです。

最後に「馬の背を分けるような」強い雨
雨粒は全て大きさが違うので窓や屋根に当たる音は一つとして同じ音は無いのだそうです。

雨つぶを丸いままで触る方法も紹介されています。
まっすぐ落ちてくる雨を手のひらで受けると潰れて平たくなるけれど、
傾斜のある傘に当たった雨はそのまま転がり落ちるので、傘の内側に手を当てると雨つぶを感じることができるそうです。

時には子供と一緒に耳を澄まし、雨を聞く時間を作ってみてはどうでしょう?と
提案されています。

匂い

著者さんにとっての匂いは、季節と今自分がいる世界の様子を教えてくれる大切なサインなのだそうです。
季節は「やってきて」それから「進んで」いくのだそうです。

最初に季節が変わったことを教えてくれるのは音だそうです。
鳥や虫の声、窓に当たる風の音、風に揺れる葉の音が、まず変わってくるそうです。
それから季節が「進み」はじめると、匂いが出てくるのだそうです。

例えば、春めく季節から春らしい季節になる頃は、桜の香りはよほど近くに行って無風状態でないと感じられないそうですが、季節が進んで花びらが散り、葉桜になると、桜餅のような匂いになり春の終わりが感じられるそうです。

初夏の頃には瑞々しい夏の匂い、風薫り、梅雨が開けて盛夏になると草いきれとよばれる青く湿った匂いになり夏が進んだことが感じられるようになるそうです。

秋が進んだことを感じさせてくれるのは金木犀の香りだそうです。
咲きはじめの甘さの中に爽やかな青みが混ざった香りから、散り際の強い香りで秋が深まることを感じるそうです。

カップに水を注ぐときとお湯を注ぐときの音も違うそうです。
水を注ぐときは硬くて高い感じ。お湯は湯気が立っているのでカップの当たる音は柔らかくて低いそうです。

物を触って感じる時には、見ている人に不快感を与えない「良い触り方」を心がけているそうです。

私も、全盲の知人と食事をしたときに、焼き魚をとても綺麗に食べていたのが印象に残っています。
魚の場所を手で確認するのですが、決して直接触らず、指を少し浮かした状態で、食べ進むにしたがって指をずらしていく様子がとても上品でした。

視覚以外の感覚を大切にしている著者さんが感じる「初めて」
人はみな、全てのことに初めてがあり、こどもたちの「初めて」はそののちの感覚と生活を大きく変える可能性も持っている。だから子供達に沢山の「初めて」をプレゼントしてあげて欲しい、そして大人になっても日々「初めて」を見逃さない暮らし心がけたいと言われています。

ご紹介したのは著者さんの言葉のごく一部です。
1時間もあれば読了できるボリュームですが、深い気づきを沢山与えていただけます。

音も、匂いも、触ることも、あまりにも当たり前で意識していないことに気づいてはっとしました。
無いものが無い、ということは何も無いことになっているかもと。


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