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<読書>白洲正子ファンクラブと武相荘



ファンクラブのはじまり

20年くらい前からしばらく、4人で白洲正子ファンクラブとして
白洲正子さんの著作や生き方について語り合うメールのやり取りを熱心にしていました。

某国立大学数学准教授(現在は教授)の先生が、個人のサイトに白洲正子の著作を全て読んでいる、同じ思いを持つ人は一緒にファンクラブを作りませんか?との呼びかけをされていました。
白洲正子の大ファンだった私は、恐る恐る連絡先へメールを出してみました。
すぐに返信が届いて「長年シャレで書いていたけれど、全く反応が無かったのに、ここ数日で3人から連絡があったので、これも何かの縁だと思い、みなさんと白洲正子について語り合おうと思います」とのことでした。

3人のうちお一人は男性で某電機メーカーで鍵言語を研究されていらっしゃる男性。もうお一人は大手企業のキャリアウーマンで仕舞など幅広い趣味や教養をお持ちの方、そして田舎の主婦の私。
主催者の先生と私は、白洲正子の著作物は全部読んでいる、持っている、(たぶん)他のお二人もほとんど読んでいる、という集まりでした。

メールのやり取りはとても面白くて、著作だけでなく、白洲正子に関連する雑誌や新聞記事なども話題に上り、さすがに白洲正子ファンクラブに手を挙げるだけの方々だなあと感心しました。男性お二人は理系の方なのに文学に造詣が深く、本当に楽しいやり取りが数年続きました。

自然消滅してしまいましたが、今も折に触れ懐かしく思い出します。

その会のことを、主催者の先生が「よびつぎ」の会と呼ばれていたことを私の個人ブログでご紹介しています。


若い頃に出会ってよかったこと

若い頃に白洲正子に出会ってよかったと思うことが2つあります。

一つは、「勘違いしない」こと。
人それぞれ、生まれ育ち、受けた教育、教養の程度が違うということを、すごい人を知ることで実感し、分相応ということを学びました。
白洲正子を目指すのではなく、私なりに学べるところ、取り入れられることがあれば身につけたい。しかし白洲正子には並べないということを知るのは大切です。最近の人を見ていると、不相応な夢を描いで絶望したり、オンラインサロンなどで運営者のようになれると信じて時間やお金を注ぎ込んだりしている人たちを気の毒に思う事があります。すごい人を知らないから、違いがわからず勘違いなライバル心を持ったり、苦しんだり。

もう一つは、「とりあわせ」
銀座に「こうげい」を構えた白洲正子はさまざまなものに目利きで、着物の取り合わせにも下品にならないようこだわりを随所に書かれていました。
私は着物は滅多に着ませんが、普段の服装にも、安いものでもできるだけ自分が品がいいと思えるとりあわせを考えるようにしています。
それは私がそう思えばいいだけで、人からどう見られても自分が気に入っていればいい、と思っています。

そんな熱狂的なファンの一人だった私ですが、コロナ禍の今、初めて武相荘に行くチャンスに恵まれました。

武相荘へ

ハーブで知り合った仲良しの友人が付き合ってくれるというのでご一緒しました。
千葉、神奈川、東京から 鶴川駅に集合し、歩いて15分ですがバスで2駅の武相荘へ。

まずは人気のレストラン

ランチは予約できないので、ウエイティングリストに名前を書いて、早昼をいただくことにしました。
オムライスを食べようと思っていたのですが、店内に流れるスパイシーなカレーの香りに魅了されて、海老カレーを注文。
白洲次郎氏はカレーはスープではないからフォークで食べるのが正しいと言われていたそうで、メニューにも書かれていたので、フォークでいただきました。ドロリとしたルーだったので、フォークで完食できましたが、サラサラのルーなら難しかったかも。


ミュージアム

白洲夫妻が暮らした武相荘全体がミュージアムとして見ることができるようになっています。
入り口を入ると大きなソファーに囲まれた大テーブルには、お茶のセットやカップが並べられていて、この場所で多くの知識人が語り合ったのかと思うと胸が震えました。

白洲正子の装身具などの展示を抜けると、床が抜けるのではないかと心配になるような和室にぎっしりに並んだ書架があり、その奥に庭の緑に向かう文机が置かれていて、ああ、ここからあの素晴らしい著作が生まれてきたのか、と感慨深く拝見しました。

書棚には、1998年までご存命だったこともあり、比較的新しいというか、私も持っているような本も見ることができました。
うちの夫は、白洲正子は好きではないと言っていました。理由は国宝級の器などを公開せず、私物として使っている、ということでしたが、ある時、夫が好きな河合隼雄先生と、これまた夫が好きな明恵上人について対談した本を知り、「見直した」とのこと、書架にも河合隼雄先生の本や、心理学関係の本が見られました。南方熊楠全集もあり、身分が違いすぎてお話などできるわけがありませんが、もしチャンスがあれば、私などより、きっと夫と意気投合したのではないかと思ったりしました。

さまざまな暮らしの器や装身具、着物、を見ていると、「韋駄天お正」などと呼ばれて興味のあるところにはどこへでも出歩いていた一方、こんなにも暮らしを大切に愛していたのかと、著作からは感じ取れなかった白洲正子、を感じることができました。

展示物には、夫妻の著作物や遺した言葉などが添えられていて、確かに見たことがある言葉ばかりですが、本の中で傍線を引きたくなるような言葉が選ばれているのも、夫妻をよく知る娘さんの手によるものだからなのだと思いました。

これらの言葉をまとめたものが無印ブックスから出版されていたので、買いました。
しばらく離れていた白洲正子の言葉が懐かしく蘇りました。


散策路

武相荘の周りは当時の自然がそのまま残されていて、ゆっくり歩いて散策するとフィトンチッドが降り注いて気持ちの良い散策路になっていますが、散策路の隣はアパートになっていて、パンフレットに娘さんが書かれていた言葉の通りでした。

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ふと気がつくと近隣は大きく様変わりしていました。暗くなるまで遊んだ小川、真赤に夕焼けした空にたなびくけむり、あちこちにひっそりと咲いていた野花の数々など、すべて姿を消していました。また点在していた茅葺き屋根の家や両親の様な人々が既にあまり残っていたいのではないかと思うようになりました。
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牧山桂子さん

白洲夫妻には二男一女のお子さんがいらっしゃいますが、そのお一人、娘さんの牧山桂子さんが白洲家の暮らしぶりをご著書で紹介くださっています。彼女の言葉もさすが白洲夫妻のご令嬢、すっきりと簡潔でわかりやすく、豊かな表現力をお持ちです。

パンフレットに書かれたメッセージも素晴らしく、何度もしみじみと読み返しています。

家にじっと居て家事をしている人ではなかったけれど、外を飛び歩いて得てきたものを日々の暮らしを愛し整える中で文筆に活かしていかれたのだなあ、と初めて感じることができました。

次にまた、訪れたときには、さらに何かを見つけることができるような気がして楽しみです。

白洲正子のおすすめ本① 初めて読まれる方へ

あくまでも私の個人的な趣味ですが、初めて読まれる方には
こちらの「金平糖の味」をおすすめしています。
入門としては短編なので軽く、読みやすくどなたにも共感していただけるエッセイ集です。
中古でお安く手に入るようです。

過去にブログでもご紹介しています。


白洲正子のおすすめ本② 人となりや人生全般

ご本人が書かれた自伝は、往々にして、脚色されたり美化されることが多いのですが
こちらの自伝は、周囲の人が描く白洲正子そのもので、より深く語られています。
潔く、理知的な生き方そのものです。
私は単行本で買いましたが、今は文庫もお安く手に入るようです。

白洲正子ご長女 牧山桂子さんのご著書①

文筆家としても秀逸な文章を発表されていますが、私はこの本が一番好きです。
お料理は、家庭料理としては凝った食材も多いですが、家庭料理に対する肩の力を抜いた紹介が楽しめますし、エッセイも読み応えのある美しい文章です。

白洲次郎・正子の食卓

白洲正子ご長女 牧山桂子さんのご著書②

こちらは、帰宅後に購入した本です。

武相荘、おしゃれ語り: 白洲次郎・正子の長女がつづる「装いのプリンシプル」

白洲正子さんがお亡くなりになった後、もう彼女の新しい本には会えないと思っていましたが、白洲次郎、正子夫妻とともに生きた牧山桂子さんのご著書は、白洲正子と違って現代に則した、そして失いたくない良き時代の、良き思いが込められた素晴らしいご著書でした。


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