TMT(Time is Money Theory)の提唱(その2)~無人島生活モデル〜

1.はじめに

前回提唱したTime is Money Theoryを説明するために無人島生活モデルを考えてみる。

この無人島生活モデルによって、次の4つのことの説明を試みてみる。

①人々は、生存するために衣食住の確保を必要とする=人々の生存のために衣食住の需要が発生する。

②人々は労働時間を交換すること=役割分担をすることで、より多くのものを得ることができる=生産性が向上する。

③貨幣=労働時間を導入することで、労働時間の量に応じて生産物を分配することができる。さらに労働時間の交換レート=賃金率を導入することで、労働時間の量だけでなく、労働の質も考慮して生産物を分配することができる。

④賃金率と労働時間を導入することで、生産物の価値を定めることができる。

そして、この4つのことは役割分担による生産性の向上、その富の分配といった、まさに経済活動を表している。貨幣によるごく単純な経済活動を、労働時間の交換、つまりTimi is Money Theoryの仮説によって以下で説明していこう。

2.無人島でのサバイバルに必要なもの

船が難破し、何人か、例えば4人で無人島に漂着したとしよう。その無人島で4人が生存するためには何が必要だろうか。食料、保温や日よけの手段、シェルター(住居)の確保といったことが必要になるだろう。それらを以下にまとめてみよう。

ただし、無人島には比較的資源が豊富で、それなりに時間をかければ様々なもとを得ることができると仮定しよう(そんな島が無人島になるとは考えにくいが)。

食料:食材、調理器具、食器、水、火

衣料:保温、防寒、日射防止、虫よけ

住居:寝床、雨や風をしのげる場所

その他:無人島脱出用のイカダの製作、砂浜にSOS

4人が島で生存するためには、上記の衣食住の確保が必要であり、それはすなわち衣食住の需要が生まれる。

このとき、上記の作業を一人一人自分の分だけ行うとしよう。当然のことながら、これらの衣食住を一人分とはいえ、自分だけで確保しようとすれば非常に効率が悪い。

いや、効率が悪いならまだマシである。必要な作業に時間がかかれば、食料不足による飢えや、衣料・住居が不十分なことによる体温低下や体力消耗を招き命を失うことになってしまう。

3.共同作業による効率化

そこで、4人ともそれぞれ役割分担をするとしよう。Aさんは食料調達、Bさんは衣服の代わりになりそうなものの調達、Cさんは住居になりそうな場所の捜索や屋根の材料の調達、Dさんはイカダの材料調達と製作といった具合だ。

例えば食料調達を考えると、4人分の食料調達の労力は、1人分の食糧調達に要する労力の4倍以下になるだろう。4人分程度の食糧であれば、仲間たちのところに運ぶ手間も変わらないだろう。仮に、4人分の食料調達の労力は1人分の2倍程度の手間だとしよう。その場合は1人当たりにすれば0.5倍の労力で済むことになる。

他の作業も同様のことがいえるだろう。このように役割分担することで、効率が向上することになるとともに、一人一人の作業が効率化することで、飢えや体力の消耗を防ぎ生存率が高まることになる。

それどころか、一人一人で個別に作業をしていた時よりも時間的余裕すら生まれるだろう。その生まれた時間的余裕を、保存食の調達や住居の快適性の向上などにまわすこともできるだろう。

4.生産物の分配

このように役割分担をすることで、一人一人個別にサバイバルをこなすよりも、4人はより多くのものを得ることができる。

これらを生産物とみなす時、4人分の生産物をどのように分配するかが問題となる。なにしろ4人の生命がかかっているのだから、最悪の場合は争いに発展することもあるだろう。

最も単純な分配は、生産物を4人に4等分することだろう。しかし、これは、平等とはいえるが、4人それぞれの労働時間が同じでなければ、納得感を感じづらい可能性がある。つまり、労働時間の多かった人と労働時間の少なかった人が同じだけの生産物の分配であれば、人によっては不公平に感じるだろう。

そこで、労働時間に応じて、生産物を分配することを考えてみよう。こうすれば、働かざる者食うべからず、労働時間に応じて生産物を得ることができるので、4等分よりも、4人の納得感が違うだろう。

しかし、これでも不公平を感じる可能性は残る。4人が行っている労働は種類が違い、それぞれ体力消耗や危険度などが異なるだろう。食材調達として素潜りで魚を取ったり、獣を狩ったりする場合、体力の消耗やケガのリスクなどがあり、ただ木の実を取ったりするよりは労働の強度が高いだろう。

そういった労働の強度といった質に相当するものを考慮して、分配することを考えてみよう。例えば、労働の質をそれぞれの内容によって相対的に数値で表し、その数値を労働時間に掛けることで、労働の質と量で評価することができるだろう。こうすることで労働の質と量に基づいて分配を定めることができるため、より納得感が高まるだろう。

5.貨幣の導入と生産物の分配

このような生産物の分配について、それぞれ労働の時間と質を申告し話し合うことで、4人が納得する形で生産物を分配することができる。

しかし、そのような申告や話し合いは面倒なところもあるだろう。

そこで、労働時間と賃金率によって貨幣を導入することを考えてみる。

すなわち4人のうちの一人が市場役をすることを考える。3人の労働内容に応じて賃金率を定め、その賃金率に労働時間を掛けた量の貨幣を渡し、生産物を受け取る。

受け取った生産物は、交換した貨幣によって価格をつける。そうすることで3人は労働の質と量に応じた貨幣を得て、その貨幣によって3人が生産した生産物をより納得感の強い形で分配することができるだろう。

市場役の1人は3人の生産物の分配に時間を取られ、生産を行うことができない。その場合は、受け取った生産物に価格をつける際に自分の取り分に応じた貨幣を上乗せすることで、市場役も貨幣を得ることができ、無事生産物を得ることができる。

6.まとめ

このように無人島での少人数での共同生活といった、ごく小さい規模の経済活動であれば、生存のための需要の発生、役割分担による生産性の向上と、出来上がった生産物の分配という過程で、賃金率と労働時間に応じた貨幣の導入することで、納得感のある分配ができると言えそうだ。

そして、賃金率と労働時間によって、生産物の価値を定めることができる。それは、まさに貨幣の機能の一つである。

無人島モデルで経済の多くのことを説明できると感じるが、このモデルには経済を考えるうえで必要不可欠な競争性の考えが導入されていない。

それらについては、また別の記事で考えてみたい。

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