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2 - 臘月獨興


菅家文草(菅原道真)

「臘月にひとり興ず」

玄冬律迫正堪嗟 
還喜向春不敢賒 
欲盡寒光休幾處 
將來暖氣宿誰家 
氷封水面聞無浪 
雪點林頭見有花
可恨未知勤學業 
書齋窓下過年華

玄冬(ぐゑんとう)律(りつ)迫(せ)めて 正(まさ)に嗟(なげ)くに堪へたり

還りては喜ぶ 春に向(なん)なむとして 敢(あ)へて賒(はるか)ならざることを

盡(つ)きなむとする寒光(かんくわう) 幾ばくの處にか休(いこ)はむ

來(きた)りなむとする暖氣(だんき) 誰(た)が家にか宿らむ

氷は水面を封(ほう)じて聞くに浪(なみ)なし

雪は林頭を點(てん)じて見るに花あり

恨(うら)むべし 學業(がくげふ)に勤むことを知らずして

書齋の窓の下に年華(ねんくわ)を過(すぐ)さむことを

「冬のこよみも残り少なくなって、本当に嘆かわしいことだ。一方で喜ばしいのは、春が近づいていて、それがそう遠くないことだ」(1-2)

「尽きようとする冬の寒々とした光は、いくつの場所で休むのだろう。やってくるあたたかな空気は、誰の家に宿るのだろう」(3-4)

「池の水面は氷でおおわれて、波の音は聞こえない。木々の梢には雪が点々とつもり、花が咲いているように見える」(5-6)

「残念なことだ、学業に励むことをせず。書斎の窓の下で年月を過ごそうそうとしていることは」(7-8)

臘月(ろうげつ):12月。
賒:遠い、はるか。音は「シャ」。

5-6 句は、和漢朗詠集(384)に採録。

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