朗読劇「ノンセクシュアル」感想〜私が魅了された舞台の話〜

2020年6月14日・16日・17日に公開された朗読劇「ノンセクシュアル」。これは本来赤レンガ倉庫でストレートプレイとして上演されるものであったが、コロナ禍の影響により朗読劇へ変更、配信にて公開されることとなった。

実現するきっかけとなったのは鯨井康介さん、相葉裕樹さん、相馬圭祐さんが「この3人でストレートプレイをやりたいね」と話したことがきっかけだという。

公式サイトはこちら

ぜひ公式サイトや公式さんの発行しているnoteを見ていただきたいところなのだが、登場人物をざっくりと紹介(私の個人的見解含む)すると。

瑛司…バイセクシュアル。バンドのボーカル。浮気は不可抗力とする自分勝手な部分がある。しかしながら1度彼に惹かれた人間は不思議と彼を嫌いになれない妙な魅力の持ち主。相葉さんと相馬さんがWキャストで演じた。

蒼佑…ノンセクシュアル。恋愛や性的なことに嫌悪感を持ち、通常の人間関係を築くことすら困難なレベル。それには彼の過去が深く関係しているが……。相葉さんと鯨井さんがWキャストで演じた。

侑李…アセクシュアル。人に恋愛感情を抱いたことがないが、情は深い。少年時代の勘違いから、カワウソやカモノハシの研究をするようになる。瑛司とは学生時代からの腐れ縁。鯨井さんと相馬さんがWキャストで演じた。

秀樹…ゲイ。瑛司の恋人だが、作中冒頭で彼の浮気を知って別れを切り出す。一途な性格。松村龍之介さんが演じた。

塔子…ノンケ。瑛司の元恋人。仕事熱心な肉食系女子。瑛司に「付き合い始めた時はいい女だった」と言わしめる。さかいかなさんが演じた。

この作品は森奈津子さんの同名小説が原作となっている。原作では男女が逆である(というよりも「舞台化するにあたって男女を逆にした」というのが正しい)。

私は舞台を観た後に原作も読んだが、この小説、1998年に発行されたものである。森先生ご本人もおっしゃっていることだが、20年以上前にLGBT(という言葉すらなかった時代に)を題材にした物語を書くのは、とても前衛的なことだったのではないだろうか。

しかしながらこの物語を観る(読む)うえで大切なことは、「ノンセクシュアル(バイ)(アセクシュアル)(ゲイ)(ヘテロ)がみんなこうだ」という話ではないということだ。あくまでも「そういった性質を持つ彼らの物語」であるということ。

以下、観た直後にふせったーであげたものを基にした私の感想です。長文注意。

・原作を読んだ身として思うのは、タイトルの「ノンセクシュアル」は「蒼佑と侑李、瑛司をとりまくふたりのノンセクシュアルの物語」だということ(詳しくはパンフに書いてあることなのであまり記述できないのですが)。原作発行当時はノンセクシュアルとアセクシュアルは区別されておらず、つまり蒼佑と侑李は同じ性質を持つ人間であるということです。

・蒼佑の闇がとんでもなくてずっと背筋が凍ってました。 彼に弟がいることは割と早く明かされるんですが、その弟にまつわる真実を吐露するシーンが……もう……
蒼佑が決定的に壊れてしまったのは弟の出生だろうな……義母はそれまでされてた仕打ちから、汚らわしいって思うのは当たり前だけど、父親の汚らわしさについても理解してしまうわけで……

・個人的には♤の方が好きでした。目の死んでる狂った鯨井蒼佑が良すぎて。でも♣︎の鯨井侑李は本人の素に近くてこれも良かった。笑 ただ、こうなると鯨井瑛司も観てみたいね!?とフォロワーさんと盛り上がっておりました。恋愛にだらしなくて執着されて追い詰められる鯨井瑛司……やばい観たい。

・冒頭、瑛司がしていた、貝を食べたいだけなのに自滅するラッコの話。あれはこれからの彼の運命を示唆していたのかね。

・秀樹が「侑李さんに影響された?」、侑李が「塔子さんは情熱的だな」と話し、塔子は侑李の研究室に手紙を出せるぐらい身元を知ってた。瑛司は周りに自分の知人のことをめっちゃ話してるんだな。

・塔子に瑛司が押し倒されるところを見て、蒼佑は自分と重ねて止めたんだろうね。だから蒼佑は瑛司を当初自分の同類(汚される側)と思った。義母と重なる塔子に対しての好感度は最初から大幅にマイナスだったんだな。

・猟で動物を狩って食べることについて瑛司が「自分が手を下したかどうかの違いで、スーパーに並んでいる肉を食べるのと変わらない。生きるために殺して命をいただいている。残酷というのは綺麗事だ」と言ってて、個人的に(わかる。私が今の瑛司の立場でも同じ言葉を蒼佑にかけるだろうな)と思ったんだよね。
後に秀樹と塔子を殺したことについて蒼佑が「生きるために殺す、それが残酷なんて綺麗事だと、きみが言ってたんじゃないか」と言うんですけどね……そうか、そうなるか……。彼にとって、瑛司以外の人間はその辺の動物と一緒なんすね……。いやでも結局瑛司も殺そうとしたな。
生きるために殺すことについて、過去に弟(息子)を手にかけたことも含めて、瑛司から赦しを得たような気分だったのかもな……。蒼佑の狂気を加速させたのは間違いなく瑛司だ……。

・蒼佑の「きみは父に似ている」という発言を受けて、瑛司は「俺みたいなのからきみみたいな真面目な子が生まれる?」と返している。これ蒼佑はどう思ったんだろう。「そう自分を卑下するものじゃない。本当にだめになってしまうよ」と言ってはいるけど。

・蒼佑は性的なものに拒否感を示すノンセクシュアルとして描かれるわけですが、彼が瑛司に執着してることは秀樹から見て明らかだったわけで
「恋愛じゃなくても執着はするよ!」
という警告に瑛司が「でもあいつはノンセクシュアルだよ?」という感じでぴんときていなかったのは、瑛司自身が「恋愛以外で執着すること」を想定してなかったのだと考えると彼も大概闇深いですよね。そういう思考回路の持ち主のくせに自分は同時並行ができるというのがさらにやばさを増す。

・侑李がホントにフラットな人間でものすごく好き。恋愛感情抜きで瑛司と付き合える唯一の人間なんじゃないのかな……。蒼佑は指輪の件で勘違いしちゃってる気がするけど。先入観のない状態で侑李と蒼佑に知り合ってほしかった。原作の夕子(侑李の元となるキャラ)もとてもいいキャラクターなのでぜひ読んでほしい。終盤のとあるセリフに痺れます。

・瑛司の「つらかったんだな」について。
ふぉろわさんが「相馬瑛司は本当にそう思ってそう、相葉瑛司はその場を逃れるための言葉っぽい」と評していてとても同意。

・結局弟(息子)が生まれたのっていつぐらいだったんだろう。初めて抱かれたのが高校生で、今蒼佑は20代半ばぐらい?(秀樹が26歳だとニュースで判明してる)
で、バルコニーにボールを追いかけてたところを殺したんだからまだ幼児期とか、大きくても小学校低学年とか……? 村山家の事件から何年後の話なんだ、本編。秀樹が奥様とやり取りしてたんだからそう昔ではないよなあ……。

・蒼佑の自認としては性的欲求も恋愛感情も持たないアセクシュアルの方が近かったと思う(ペアリングの時に「友情の証」と強調していたし)。

・瑛司が蒼佑にキスをすることによって決定的に拒絶が生まれてしまう(どなたかが「ここでBLゲームのバッドエンドの選択肢選んじゃったよね」と言ってて例えのわかりやすさに笑った)。 恋愛を否定していた蒼佑が瑛司への執着を通して、性的欲求を持たないけど恋愛をする「ノンセクシュアル」に「なった」ということなのかなぁ。 そもそも恋愛感情ってなんだ?とか考えちゃうともう迷宮入りなんですけどね。 瑛司もなんであそこでキスしちゃったのかなあ……。彼にとって愛を伝える方法はそれしかなかったんだろうか。 「キスもだめなのか……」というのがホントに価値観の相違を表してる。

・ビニールを切り裂く演出ぞくっとした。コロナ対策のビニールシートをあんな使い方します?逆手にとるにもほどがありませんか???(超褒めてます)
シートを切り裂く蒼佑はもうホント狂気感じる演出と演技で、瑛司の悲鳴と自分の気持ちがシンクロしました。

・秀樹が一途でとても可愛かった。幸せになってほしかった。
塔子も、最後まで瑛司のために蒼佑のこと調べてたんだよね……アセクシュアルの侑李が「それほどお前のことが好きだったんだろ」っていうぐらいの行動なんだよ。
蒼佑は秀樹や塔子を「瑛司を汚す人間」と言っていたけれど、そのふたりと同じ相手(瑛司)にどうしようもなく惹かれてしまっているのがホント皮肉。

・蒼佑が侑李のことをどこまで聞いていたかわからないけれど(冒頭の会話の感じからすると秀樹は侑李のことよく聞かされてたっぽいから、瑛司は侑李をちょくちょく話の種にしてそうな感じはする)、 男も女も愛する、それも同時並行できてしまう価値観の瑛司のそばにいて、恋愛感情を抱かずに親友でいられる侑李のポジションは、蒼佑の理想なんじゃないかとふと思った。

・例えば、蒼佑と侑李が先に仲良くなっていたら、とか。 蒼佑と瑛司と侑李の3人で友情を育んでいたら、とか。
そうしたら、もしかしたら、少しは蒼佑にとっての救いになったかもしれないなあ……。


いや長いわ!!!!!

ちょっと自分でもびっくりしました。ノンセクシュアル好きすぎる。

でもホントいい舞台に巡り会えました。きっかけとなってくれた鯨ちゃん本当にありがとう。来年秋の舞台化心待ちにしております。

これもしかしたら不快に思われる方もいらっしゃるかもなんだけど、あまりにも物語が良すぎて、「◯◯さん(←お好きな俳優さんの名前を入れてね)だったら瑛司と蒼佑と侑李どれが似合うだろう……?」とか思っちゃう(オリジナルキャストさんを貶す意図は一切なくて自分の妄想の世界)。

心待ちにしてるとは言っても来年秋まで待ちきれない……今回の朗読劇は朗読劇でDVD化とかしてほしい……切に……

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