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世界はこんなにも、明るく美しい/小川糸「とわの庭」

「生きているって、すごいことなんだねぇ。」

「とわの庭」の著者、小川糸さんは、「食堂かたつむり」や「ツバキ文具店」、「つるかめ助産院」など多数の人気作品を発表しており、「ライオンのおやつ」は本屋大賞にもノミネートされました。あたたかで、ちょっと不思議な、優しい世界観が魅力の作家さんです。

主人公のとわは、目が見えない女の子です。学校にも通わず、外にも出ず、母親の愛を一身に受けながら暮らしています。とわの世界には、家と庭と、母と、週に一度日用品や食べ物を運んでくれるオットさんしかいません。けれど、そんなある日、母親がいなくなってしまい、とわは、たったひとりで生き延びることになります。

この本はこんな人におすすめ

①優しくあたたかな読後感の小説を読みたい
②重苦しい展開にも耐えられる
③障害やネグレクトについて考えたい

なお、本記事には、何の前知識もなく「とわの庭」を読んだこうさぎが、「このくらいの前知識があるうえで読んだほうがよかった」と思ったポイントの部分もいくつか載せてあります。まっさらな状態で物語を楽しみたい方はご注意ください。

それでは、この作品の魅力を紹介していきたいと思います、ぴょん!

*母とふたりきりの平穏すぎる日常

とわの名前は、漢字で書くと「永遠」。母親の名前は「愛」なので、ふたりの名前を合わせると「永遠の愛」になることから、その名が付けられました。とわは目が見えない少女ではありますが、匂いや音で四季を感じ、母親に本を読んでもらい、穏やかな日常を送ります。

しかし、とわは学校にも通っていなければ、外に出ることもありません。この、「平穏すぎる日常」の描写には、どこか危うい雰囲気すら漂っています。物語の半ばから、やわらかな毛布のようだった母親の愛情が、徐々に足枷に、重りに変わっていく様子は、読んでいてぞっとしました。小川糸さんの優しい筆致で、子供目線で描かれるからこその恐ろしさが際立っています。

*あたたかなラスト

本作の中には、ネグレクトや虐待についての描写もあり、特にとわがひとりで生き延びていくシーンは読んでいて辛いところもありました。前半の息苦しさすら感じる展開は、読む人を選ぶかもしれません。ネグレクトや、悲惨な描写が苦手な方はご注意下さい。

ちなみにこうさぎは、「小川糸さんが救いのない小説を書くはずがない!」と、小川糸さんへの信頼感で耐え抜きました。(前知識全くなしで読んだのが良くなかったです……。)

物語の後半からは、小川糸さんらしい優しさや軽やかさが垣間見えるようになります。あたたかな光に包みこまれるような読後感ですので、ご安心ください。

個人的に、本作の「嗅覚」を用いた描写が印象的でした。四季折々の変化は、ひょっとしたら目の見えない人のほうが敏感に感じられるのかもしれません。

ありきたりな日常と、生きていることの尊さを再発見できる、「とわの庭」。是非その世界観にひたってみて下さい、ぴょん!


(2021年5月4日にはてなブログで公開した記事を、一部加筆修正しました。)

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