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こうさぎの読書日記マガジン

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こうさぎが書いた、本の紹介記事を集めました。
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#ミステリー

命を紡ぐ者の葛藤/知念実希人「ひとつむぎの手」

命を紡ぐ、ひとりの心臓外科医の葛藤と成長を描く傑作医療小説。 「ひとつむぎの手」は、知念実希人さんの本屋大賞ノミネート作です。 日々の激務に耐える、心臓外科医の平良。キャリアへの不安が膨らむ中、教授から三人の研修医の指導を任され、そのうち二人を入局させれば憧れの出向先に行くことができる、と言われる。 医局を騒がせる怪文書、心臓外科が抱える多くの問題、研修医たち、そして患者の事情……。ひとりの外科医の成長を描く、感動の医療小説です。 この本はこんな人におすすめ ①医療小

現代版「罪と罰」/東野圭吾「白鳥とコウモリ」

このまま二人でどこかへ消え去れたなら、どんなにいいだろう、と思った。 「白鳥とコウモリ」は、大人気作家・東野圭吾さんの作家40周年を記念して幻冬舎から出版された長編小説です。 とある弁護士が殺害された事件から、物語は幕を開けます。捜査が進む中、ひとりの男が犯行を自供。殺害の動機は、かつて自身が犯し、既に時効を迎えた過去の殺人を、隠蔽するためでした。しかも、その事件は被疑者が自殺をしたことで幕を下ろした、警察の汚点とも言える案件。世間に衝撃が走る中、弁護士殺害の事件は解決し

死者の言葉を聴く最後の手段/知念実希人「傷痕のメッセージ」

「傷痕のメッセージ」は、知念実希人さんの病理学がテーマの小説です。 知念実希人さんといえば、医療小説を数多く出版する作家さんであり、現役のお医者さんでもあります。「ムゲンのi」や「ひとつむぎの手」は、本屋大賞にもノミネートされました。 本作の主人公は、外科から病理診断科に出向している千早という女医です。彼女の指導医は、同級生だった病理医の紫織。外科と比べると遥かにのんびりした雰囲気の病理診断科に、千早はやや退屈な日々を送っていました。そんなある日、千早の父親が癌で亡くなり

極上の美味しいミステリー/近藤史恵「ビストロ・パ・マル」シリーズ

「パ・マル」 フランス語で、「悪くない」の意味。 「ビストロ・パ・マル」シリーズは、近藤史恵さんのフランス料理をテーマにした、とあるビストロが舞台の連作短編シリーズです。「シェフは名探偵」という題名で、ドラマ化もされています。 風変わりな三舟シェフが営む「ビストロ・パ・マル」は、美味しいフランス料理を出す小さなフレンチ・レストラン。個性的な従業員たちが和気あいあいと働き、その気取らない雰囲気が魅力です。また、三舟シェフは、美味しい料理を出すだけでなく、お客さんが持ってくる

その謎、香りで解決します。/阿部暁子「鎌倉香房メモリーズ」シリーズ

舞台は鎌倉。恋も、謎も、それぞれが抱える事情も、想いも、香りが優しく包みこむ「花月香房」の物語。 「鎌倉香房メモリーズ」は、全5巻からなる阿部暁子さんのシリーズ小説です。 著者の阿部暁子さんは、漫画や映画のノベライズの他、恋愛小説や時代小説も手掛けています。 本作の主人公は、「人の感情の動きを香りで感じることができる」という不思議な能力をもつ少女・香乃。祖母が営む「花月香房」を手伝う女子高生です。その店でバイトをしているのは、大学生の雪弥。彼は香乃の幼馴染みで、香乃のいち