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【東京都(東京都庁)Ⅰ類A】 事務 専門記述試験 過去問解説 公法(令和6年~平成21年)

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令和6年度

問題

「墓地、埋葬等に関する法律」(以下「墓埋法」という。)第10条は、墓地等を経営し又は墓地の区域等を変更しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない旨を規定する(なお、平成23年墓埋法改正により市又は特別区にあっては、市長又は特別区の区長が許可を行う。)。それを受けて、Y市では、墓埋法の目的に沿って、Y市長が行う同法第10条の規定による墓地経営等の許可要件を具体的に規定するものとして、地方自治法第15条第1項の規定に基づき、「Y市墓地埋葬等に関する法律施行細則」(以下「本件細則」という。)を制定している(後掲<参照条文>を参照 )。
 平成28年4月、宗教法人であるA寺は、Y市内の土地(以下「本件土地」という。)を売買により取得した。A寺の役員がY市環境衛生課を訪れ、いわゆる「自動搬送式納骨堂」(以下「納骨堂」という。)を本件土地に建設したい旨を述べ、当課職員から「Y市納骨堂等経営許可に関する審査基準」(以下「本件審査基準」という。)の交付を受けた。同年11月、Y市職員が、本件土地に仮設されているプレハブ建築物を訪れて、標識(A寺が本件土地において納骨堂を設置すること等が記載されたもの)が設置されていることを確認した。A寺は、本件土地の地目を宅地から境内地に変更するとともに、本件土地を従たる事務所として登記した。
 本件土地の前の通りを挟んで向かい側(本件土地から直線距離で約10m)のマンションに居住するXらは、A寺による周辺住民を対象にした説明会等を通じて、本件土地に納骨堂が建設される計画があることを知った。平成29年1月、Xらは、Y市環境衛生課を訪れ、本件土地にA寺の納骨堂が建設されることに反対する意向を伝えた。その理由は、①もし納骨堂経営許可がなされた場合には周辺住民の日常生活の平穏や宗教的感情が害される、②本件審査基準によると、納骨堂に焼骨を収めることができるのはA寺の檀信徒に限られるところ、A寺とその名義を借りたB株式会社が宗派を問わない旨、テレビCM等で宣伝していた、というものであった。
 平成29年2月、A寺は、Y市長に対し、納骨堂経営許可申請を行った。これを受けて、Y市長は、A寺に対し、墓埋法第10条第1項の規定に基づき、本件土地において鉄筋コンクリート造地上6階建て、納骨壇数6,269基の納骨堂(以下「本件納骨堂」という。)を経営することを許可した(以下「本件許可処分」という。なお、本件納骨堂は令和元年12月に完成し、その後募集を開始している。) 原告Xらは、Y市を被告として、本件許可処分の取消しを求めて訴訟を提起した。
 なお、国の通知により、墓地等の経営主体は、原則として地方公共団体でなければならず、これにより難い場合であっても宗教法人、公益法人等でなければならないとされている。また、Y市が定める本件審査基準は、許可することのできる納骨壇数を檀信徒数に応じたものであることを定めているが、Y市の職員は、A寺の正確な檀信徒数を把握していない。
 以上を前提に、次の【問題】に答えよ。
【問題】
(1)Xらの原告適格は認められるか。原告適格の有無の判断方法を示した後、その判断方法に即して想定されるXらの主張及びYの主張を論じ、その上で自己の見解を述べよ。
(2)本件においてXらのどのような利益が侵害されているといえるか。考えられるXらの主張を列挙した上で、本件において最も問題になっている利益は何かについて自己の見解を述べよ。
(3)墓埋法が墓地等の経営許可につき具体的な許可要件を定めておらず(後掲<参照条文>参照)、また、許可要件につき条例又は規則に委任すらしていない(本件においてはY市が自主的に本件細則で許可要件を定めている)のはなぜか。自己の見解を述べよ。
(4)(1)において原告適格が認められ、その他の訴訟要件も具備しているとして、本案においてXらは本件許可処分の違法事由としてどのような主張をすることができるか。Yからの考えられる反論に言及しながら、Xらの主張の当否について自己の見解を述べよ。
<参照条文>
【行政事件訴訟法(抜粋)】
第9条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
② 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たっては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
第10条 取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない。
② (略)
【墓地、埋葬等に関する法律(抜粋)】
第1条 この法律は、墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われることを目的とする。
第10条 墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。
② 前項の規定により設けた墓地の区域又は納骨堂若しくは火葬場の施設を変更し、又は墓地、納骨堂若しくは火葬場を廃止しようとする者も、同様とする。
 *なお、墓地等経営許可については、平成23年墓埋法改正により、都道府県知事から市長・特別区の区長への権限委譲が行われている。
【地方自治法(抜粋)】
第15条 普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる。
② (略)
【Y市墓地埋葬等に関する法律施行細則】(地方自治法第15条第1項の規定に基づき地方公共団体の長が制定する規則。なお、地方公共団体によっては本件とは異なり同一の内容を条例で定めている例がある)
(許可の基準)
第8条 市長は、法第10条の規定による許可の申請があった場合において、当該申請に係る墓地等の所在地が、学校、病院及び人家の敷地からおおむね300メートル以内の場所にあるときは、当該許可を行わないものとする。ただし、市長が当該墓地等の付近の生活環境を著しく損なうおそれがないと認めるときは、この限りでない。
(構造設備の基準)
第10条 墓地等の構造設備は、次に掲げる基準に適合しなければならない。
(1)墓地の周囲に塀を設けること。ただし、樹木を植えて塀に代えることができる。
(2)納骨堂の周囲に塀を設け、堅固な建物とし防火設備を設けること。
(3)火葬場の周囲に塀を設け、場内には火葬室及び火炉を備え、適切な防臭装置を設けること。
(4)前3号に掲げるもののほか、公衆衛生その他公共の福祉の見地から市長が必要と認める設備を設けること。
【Y市納骨堂等経営許可に関する審査基準】
1 経営主体
 原則として地方公共団体であること。
 ただし、これによりがたい場合であっても次のものに限る。
(1)公益法人又は宗教法人
(2)財産区の墓地管理委員会
(3)上記に準ずる組織、たとえば集落共有財産の場合の管理委員会組織
2 添付書類
 各申請書には次の書類が添付されていること。(写しを添付する書類は、原本も持参のこと)
(1)経営許可申請の場合
ア 納骨堂の敷地及び建物の図面
イ 納骨堂の周囲300メートル以内の地形・建物の状況を表した図面
ウ 納骨堂の敷地が申請名義人の所有であることを示す登記事項証明書及び建物の登記事項証明書(新設建物の登記事項証明書については、建物竣しゅん工時に提出すること)
エ 申請者が法人である場合は、当該法人の登記事項証明書、寄附行為の写し又は宗教法人法第12条第1項に定める規則の写し
オ Y市風致地区内における建築等の規制に関する条例第2条第1項に抵触する場合は、その許可書の写し
カ 住民対応に関する誓約書(規定の様式)
キ 納骨堂の新設又は拡張に対する檀信徒代表者等の要望書
ク 申請者が宗教法人である場合は、檀信徒数が明らかになる書類
(2)変更許可申請の場合
ア (1)に掲げる添付書類(ただし、納骨堂を縮減する場合は、敷地の登記事項証明書、建物の登記事項証明書の添付は不要)
イ 変更前、変更後の比較図面
ウ 収蔵された焼骨の改葬を伴う場合は改葬許可証の写し
(3)廃止許可申請の場合
ア 経営許可申請書の副本及び許可書
イ 申請者が法人である場合は、当該法人の登記事項証明書
ウ 収蔵された焼骨の改葬を伴う場合は改葬許可証の写し
3-1 申請書の審査項目(新規及び変更(拡張)許可申請の場合)
(1)納骨堂の経営主体が適格であり、納骨堂の設置及び拡張の必要性が認められること。
(2)納骨堂の申請地から300メートル以内に学校、病院及び人家がないこと。あるいは学校、病院及び人家があっても付近の生活環境を著しく損なうおそれがないこと。「付近の生活環境を損なうおそれがない」と判断する基準は、立地条件等が異なるため一律にまた具体的に規定できないが、
① 周辺環境と調和が保てること。
② 公衆衛生その他公共の福祉の見地より周辺住民の理解が得られること。により、個々の事例で判断する。
(3) 申請者が敷地及び建物の所有者であること。
(4) 納骨堂を設置する土地については、申請者の所有とし登記後6か月以上経過した境内地等であること。
(5) 納骨堂の設置場所は、法人の主たる事務所及び礼拝施設等が存する境内地であること。
(6) 納骨壇数については、檀信徒等の数に応じたものであること。
(7)納骨堂の構造は、独立した建物で周囲に塀を設け、堅固な建物とし防火設備を設けていること。ただし、次の要件を満たす場合、この規定の一部を緩和することがある。
① 鉄筋コンクリート造等の耐火構造建物の一部に納骨堂を設ける場合であって、同一建物内の他の施設と区画がなされており、かつ出入口が施錠できる場合。
② 道路等に面し、人や車の出入口に必要な開口部を確保するために塀を設けられない等合理的な理由がある場合。
(8)その他、厚生労働省通知によること。
3-2 申請書の審査項目(変更(縮減)及び廃止許可申請の場合)
(1)収蔵された焼骨の改葬手続が完了していること。
(2)その他、厚生労働省通知によること。
4 当該施設の実地検査の結果許可申請内容と相違がないこと。

解答

【問題(1)の解答】

1. 原告適格の有無の判断方法

行政事件訴訟法第9条によると、取消訴訟は「当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」に限り提起することができる。この「法律上の利益」は、単なる感情的・経済的利益とは異なり、法令の趣旨・目的に照らして保護されるべき利益を指す。具体的には、当該処分の根拠となる法令の規定の文言に加え、その趣旨・目的、当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質が重視される。

2. 想定されるXらの主張

Xらが主張する法律上の利益は以下の通りである:

  • ① 日常生活の平穏の侵害: 納骨堂の設置により、周辺住民の日常生活の平穏が損なわれる。具体的には、訪問者の増加や宗教的儀式に伴う騒音・交通の問題が挙げられる。

  • ② 宗教的感情の侵害: 納骨堂の存在が、周辺住民の宗教的感情を害する可能性がある。特に、宗教的信仰を持たない者や異なる宗教を信仰する者にとって、納骨堂の存在が精神的な負担となる。

  • ③ 公衆衛生上の問題: 納骨堂の運営が不適切であれば、公衆衛生に悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、適切な管理が行われない場合、悪臭や感染症のリスクが考えられる。

3. 想定されるY市の主張

Y市が主張する法律上の利益は以下の通りである:

  • ① 法令の遵守: Y市は墓埋法及びY市の施行細則に基づいて許可を行っており、法令に違反していない。このため、許可処分は適法であると主張する。

  • ② 公衆衛生の確保: 納骨堂の設置に際して、公衆衛生や公共の福祉に支障をきたさないよう適切な対策を講じているため、問題はないと主張する。

  • ③ 周辺住民の理解: Y市は周辺住民への説明会等を実施しており、住民の理解を得るための努力を行っていると主張する。

4. 自己の見解

Xらの原告適格は、法律上の利益の有無に基づき判断されるべきである。Xらの主張は日常生活の平穏や宗教的感情の侵害に関するものであり、これらは墓埋法第1条の目的である「国民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われること」を達成するために保護されるべき利益である。したがって、Xらの原告適格は認められるべきである。


【問題(2)の解答】

1. 想定されるXらの主張

Xらが主張する利益は以下の通りである:

  • ① 日常生活の平穏の侵害: 納骨堂の設置により、住民の日常生活が乱される可能性がある。具体的には、訪問者の増加による騒音や交通渋滞、宗教行事による影響が挙げられる。

  • ② 宗教的感情の侵害: 宗教的信仰を持たない者や異なる宗教を信仰する者にとって、納骨堂の存在が精神的な負担となる。特に、納骨堂が視覚的にも近くに存在することにより、心理的な圧迫感を感じることがある。

  • ③ 公衆衛生上の懸念: 納骨堂の運営が不適切であれば、公衆衛生に悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、適切な管理が行われない場合、悪臭や感染症のリスクが考えられる。

2. 最も問題になっている利益

最も問題となる利益は「日常生活の平穏の侵害」である。納骨堂の設置は周辺住民の日常生活に直接的な影響を与えるため、これが主たる問題となる。また、墓埋法の趣旨に照らしても、周辺住民の日常生活の平穏を保護することが重要である。具体的には、訪問者の増加や宗教行事による影響が日常生活に与える負担が大きいため、これが最も重要な利益と考えられる。


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