問い掛け-21<マンモス校での五カ月間>

<マンモス校での五カ月間>

 二度目の転校先は、各学年が六クラス以上もある宇部一のマンモス小学校と分かり、驚いた。

 登下校の人の多さに圧倒され、特に月曜の朝礼は、校庭を埋め尽くす生徒たちの頭の数には、壮観の一言としかいいようのない景観を体験した。

 担任の女先生は、生徒の個性を引き出すのが上手で、常に一歩先を読んでいるかのような鋭い指摘と、心の中を見透かしているかのような清らかな眼光が印象的で、しかも、優しかった。

 ものおじすることなく翌日から友達も出来、クラス会議の場でも鋭い意見を踏らわずに発表したのが功奏したのか、年が変わり、生徒会役員の選任で、担任のK先生からの推薦に依り、交通部長の役員に抜擢され、とうとう部長に祭り上げられてしまった。

 役員になって困惑するのは、朝礼の日、1500人もの人前で、挨拶をし、この一週間の資料を基に統計を発表すること、そして訓戒めいた言葉を述べることだった。それなりの準備を用意し、もし間違えても慌てない勇気が必要だった。

 話を戻すが、越して来てからは、何故か、悉く思念した事が実現するので、不思議に思った。

 例えば、ヒット曲の黒猫のタンゴを意識した為か、タマの代わりに黒猫が飼いたいと、念じていたら、なんと下校時、子猫の黒猫が突然、目の前に現われ、すり寄って来たのだ。 少し迷い、何人かの友だちに相談すると

「佐伯君に懐いているみたいじゃけん、そのまま 家で飼えば良いじゃん。」

との助言にたすけられ、ならばと勇んでバッグに入れ、バスに乗って、そのまま家に持ち帰ってしまった。

 又、週刊マンガの景品に当たるとか、何よりも、外でも宙返りが出来ることが大きな自信に繋がった。

 以前は、家の中で、それも布団の上でしか出来ない宙返りが、或るヒントがキッカケとなりどこでも出来るようになったからだ。

 当時、養母は、真言密教が云々と何か訳の分からないことを言って『九字を切るんじゃよ』と教えて呉れたが、当時の私はそこまで覚える気になれず、ただ金剛合掌だけでお経を唱えるに留まってしまった。もし、真剣にやっていたら、どんな人生が待っていただろうかと思うことがある。

 養父の仕事先は、或る運送会社の助手だった。当然、普通免許を持たない養父の収入は少なかった。

 養父の背中が心なしか、少し反省していたかのようにも見えた。

 なぜなら、黒猫を飼う時、全く反対されなかったこと、又、一時期、創価学会員の人たちが家に集うようになり、一度、会合を開くこととなり、養父は再び熱心な信者に戻るのかと思いきや、この日、地区の会長が仏壇の配置が良く無いと意見を言われたのがキッカケで、元の木阿弥となってしまった。越して来てからの養父は少し自信を失くしていた。 その頃、学会員の人に何かを頼っていたのだと思う。

 ところが、この家にも昔、首吊りで死んだおじいさんが居たのだと聞くや否や、養父は寝られなくなり、苦しい、変な夢を見ると言っては不満を語り出した。養父は既にその頃から転職を考えていたようで、前の職場の経験を活かすべく自動車部品系列の会社を探していた。

 一方、学校では益々能力を発揮し、毎日が楽しく愉快で堪らない私は、U君という信頼の置ける友が出来、犬も自慢できる友達のひとりだった。彼は、「友情とは何か」をまるで絵に描いたような奴で、侠義心の塊のような存在だ。それでいて優しく思いやりのある男だった。それに比べて、お調子者の私は箍の外れた猪武者のようで、傲慢でひねくれた奴を見ると果敢に挑んでいた。もちろん喧嘩でなく議論と忠告に過ぎない。

 傍観すると、彼はあばれ馬のような私のたずなを離さずサポートし陰で支えて呉れたと思う。彼の人柄、人間性は、K先生も太鼓判を押していたくらい信頼の置ける生徒だった。 

 五年生の三学期、二月のことだった。養父は、広島へ引っ越すと言い出すのでビックリ仰天。広島の企業、東洋工業(マツダ)へ就職が決まったと言い出した。


 このときほど腹が立ち、落胆したことはなかった。折角、学校にも慣れ、担任から信頼され、友達も増え、毎日が楽しく愉快で絶高頂のときの転校だからだ。それも転入してまだ五ヶ月目なのに・・・・。

 結果、黒猫のクロは山奥に住む養父の義兄に預け、犬のシロは少し離れた元医師のSさん家に預けることになった。二匹との別れは本当に辛いものが込み上げてきた。 その後、クロは十八年、シロは十六年も長生きし、人間ならば天寿を全うしたという。

 やはり、尤も辛かったのは学校との別れだ。特に友達との愛別離苦は悲しみが込み上げて止まらない。前の学校もそうだったが、でもやり切れない。

 何故か、このときもクラスの女の子から告白され、追い廻されたので、U君と一緒に逃げ廻っていた。ところが、さすがに女の子の執念と智恵には驚いた。私ではなくU君に焦点を当て、数人の女の子がU君を説得し、完璧に籠絡させてしまい、なんと彼がキューピット役に成り替わり、私を説得する側に回ったのだ。結果その女の子と話し合うことが決まり、お互い真っ赤になって一言二言だけ話したが、あとは記憶がない。結局、文通を続けることを約束した。

 養母は手紙が届く度に気になるのか

「どんなことが書いてあるんじゃ、教えてくれんかのお。」

と、微笑で尋ねて来た。

「別に、何も・・・・。」

と言って突っ撥ねた。恥ずかしくて見せられるようなものではない。

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続く

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