問い掛け17-<先生とのお別れ会>

<先生とのお別れ会>

 K先生が他の学校に転勤になると報らされ、クラスの女の子たちがお別れ会をすると騒ぎ出し、ホームルーム時、教室でお別れ会を催すことになった。

 そして後日、七人の生徒が先生の自宅に招かれ、なんと男子生徒では私一人。あとは女子ばかりで、何故か、妙な感じがしないこともなく、複雑な心境になり、戸惑いと嬉しさのなかで、己れを鼓舞し、どうにか先生宅まで辿り着く私だった。ひょうきん者で場を和ませるのが好きな私でも、六対一では適わない。

 六人の女の子の姦しさには勝てないからだ。

 いうまでもなく私は、勉強を真面目にするタイプではない。異質の生徒だったと思う。 好きな科目は美術と音楽、そして理科と体育にしか興味が持てない子だった。

 特に美術と音楽の時間はまるで一人舞台の如く、集中できた。音楽専門のK先生は私のような生徒でも、興味と理解をもって、微笑ましく眺めておられたのではなかろうかと、今も勝手にそう思っている。 思い返せば、頓狂で面白い生徒だけでもなかった。周囲から少し変わった男の子だと、そう思われるようなことをしばしば繰り返し、 無欲恬淡で自由奔放に振る舞っていたからだと思う。

 或る日、体育の時間の整列で号令を掛けられ、みんなが並び出すと、突然、私の目の前でつむじ風が舞い上がり、木の葉がクルクル踊り廻っているのを見て

「ウワァー、つむじ風だあ。」

と、ひとり叫び、我を忘れて、そのつむじ風を追い駆け、自分もクルクル廻って踊り、つむじ風と一緒になってしまった。幸福感の絶頂はほんの数秒の間で、私はいつまでも続くと思い、悦に入っていた。まるで子犬のように。

 処が、 つむじ風はまるで私を無視するかのように、疾風の如く去って行き、いま触れていた木の葉たちが、遥か遠くの空に離れて行くのを、残念そうに眺めていると、後ろの方から大きな声が・・・・

「佐伯君。何してるの。」

とK先生に叱られてしまった。初めて「ハッ」と我に戻り、振り向くと、クラスの皆んなが呆れ顔で私を凝っと見据えてた。何人かの女の子がクスクス笑ってる。しかもK先生の眼が三角に見えたのが、これが初めてで、まるで夜叉のような目だった。穴があったら入りたいやら、情けないやらで、首から顔にかけて熱いものが昇ってきた感触は、いまも忘れられない。でも当時の私は、どうして解って貰えないのかなあ、と思う気持ちもあり、少し寂しくなった。

 他にもあった。

 写生の遠足で景色を薬しみつつ歩いていたら、時間を忘れ、いつのまにか遠く離れてしまい、帰る間際に先生や皆んなに心配を掛けるようなこともあったのだ。挙げればキリのない奇行はこの頃になっても余り変わらなかった。

 閉話が過ぎたので話を元に戻します。私を含む七人の招待生は、パーティーの途中、先生の手料理を御馳走になった。その中で印象に残ったことは、台所の広さと家では見たこともない数々の調味料と大きなフライパンだった。

 そして焼きソバ。先生の作る焼きソバは、具が盛り沢山でボリューム一杯なので思わず、

「焼きソバってこんなに多くのものが入るのか。」

と呟き、先生が、

「どうしたの佐伯君、何、感心してたの。」

と訊かれてしまい、

「エッ、いや、美味しいです、ハイ。」

と咄嗟に応えたのはいいものの、気まずくなり目の前にある焼きソバを一所懸命、ロに運ぶ以外に何も出来なかった。

 その頃、家で作る焼きソバの具は、卵かもやし程度で、それ以外入れたことがなく、別の具を盛り込むと焼きソバではなくなるのではないかと、愚かにも、そう信じていたのだ。

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続く

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