始まりの木

夏川草介『始まりの木』を読んだ。夏川草介の最新作であり、民俗学者とその院生が旅に出て、見えざるものについて出会うような話である。

5話構成の1話は以前に『旅の終わり、始まりの旅』で出ていた話を、再構成して載せてられているように思う。5話の中で最も読み込みやすい話であった。

神様のカルテと比較すると、何か分かりやすく解決するような物語ではない。患者や絵が好きな人などは出くる。毒舌も吐く。ただ、『神様のカルテ』ほどわかりやすく何かをとらえられるものではない。ただ、大事にするべき何かがそこにあることは分かる。

難解さ
全体を読んでみて、今までの夏川草介著作の中で最も読みにくい著作だと感じた。それは、情景描写に用いられる語彙が多様で、うまく読み切れない部分があったり、先述したとらえづらさもあるのかもしれない。また、読んでいて筋を追っているつもりで、途中で何を追っているのかわからない感じになる場面もあった。

(読解力が無いと言われたらそれまでかもしれない)
ちょっと、飛躍するしただ、連想しただけであるが、『草枕』っぽさがあるのではないか。夏川草介はかつて『草枕』の解説でその難解さを、ストーリーを追っていると急に哲学を論じ始めるようなところにある。というような評価をしていたように思う。
『始まりの木』にはちょっと似たニュアンスがあるのではないか。古屋は学者としての哲学を、ある種の怒気をはらんで述べている。述べられる場面は、やや唐突にも感じられ、民俗学者が観測する日常から、突如その哲学が述べられるようにも感じる。ただ、述べられることは、研究者哲学にとどまらず、もうちょっと広く社会に向かって述べているようにも感じる。

社会に対して述べているということは、汎用性が高い哲学に感であるかもしれない。

参考文献
文末にかなりの量の参考文献が並んでいる。医者である筆者が異分野のことを書くにあたって、敬意をこめてそうしている面もあるかもしれないし、本好きが相まってそうなっているのかもしれない。
ただ、参考文献の羅列にかなりの熱量を感じた。小説であれば、参考文献自体明示する必要性はそこまで高くないだろう。ただ、普段医療でエビデンス等を扱っている人が、こう並べてくれていると思うとなかなかの丁寧さを勝手に感じる。

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