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朗読劇「パリスの審判」

「パリスの審判」

作:煌々亭ぺんぎん

【配役】

ヘラ(婚姻の女神、ゼウスの妻)
アフロディテ(美と愛の女神)
アテナ(戦と知恵の女神)
エリス(不和の女神)※1シーンのみの登場です
ナレーション

【本編】

ナレーション
「今日はとある神の結婚式。
神々は全員集合でどんちゃん騒ぎ。
しかしそこにひとり、呼ばれない女神が居ました。
彼女の名はエリス。争いを呼ぶ女神。
彼女を呼び損ねたことが、この物語、パリスの審判の始まり。
ひいてはトロイア戦争の始まりでした」

エリス
「こんな楽しい場に、私を呼ばないなんて、ひどい……。
みんな、ケンカしちゃえばいいんだわ。
そうよ、それなら式に呼ばれない私の方がずっとマシ。
ヒヒッ。この黄金のリンゴにメッセージを付けて。
そーれっ、飛んでけっ!ヒヒッ!」

アテナ
「……というわけで、その不届き者めを、このアテナが懲らしめたというわけなのさ。
……む、あれはなんだ?
美しいこがね色の……リンゴか。
おや、何か書いてあるぞ。……これは!」

アフロディテ
「アテナちゃん?どぉしたのぉ?
えーと、なになに?
このリンゴを最も美しい女神に贈るぅ?
なぁんだ、あたしへのプレゼントってことね!」

ヘラ
「お待ちなさい、アフロディテ。
もっとも美しき女神ですって?
それは最高神ゼウスの妻たる、わたくしに決まっていてよ」

アフロディテ
「やだぁ、ヘラちゃんったら。
あたしは、美の女神アフロディテ。いくらヘラちゃんでもあたしの美しさには勝てないわよぉ。ってことで、このリンゴちゃん、あたしがおいしーくいただいちゃう♡
あーん♡……ってあら?」

アテナ
「アフロディテよ、美というのは何も見た目のことだけではあるまい。知性もまた、美を構成する大事な要素。
つまり、このリンゴの送り手は、このアテナへと捧げ物がしたかったのであろう」

ヘラ
「お控えなさい、アテナ、アフロディテ。
そして、この世界一高貴な女神、ヘラの手に、
その供物を」

アフロディテ
「あー、心の美しさなら、ヘラちゃんは確かにぃ……。
あの嫉妬深さは、ゼウス様かわいそーって......

ヘラ
「何か言ったかしら、アフロディテ?」

アフロディテ
「べっつにぃー。でもでも、今回ばかりはヘラちゃんにも譲れないわぁ。アテナちゃん、リンゴかえして♡」

ナレーション
「この我の強い三女神。
もとい、三柱の美しき女神たち。
全員がとっても魅力的。
話し合いではてんでまとまらず、
審判役をひとりの青年に託すことにしました」

アフロディテ
「って、わけでそこの羊飼いくぅん、あたしたちの中でいちばん美しい女神、誰だと思う?」

アテナ
「何、そうかしこまるな。パリス、と言ったな?
お前の心のまま、正直に答えてくれればよいのだ」

ヘラ
「あら、迷っているのかしら。
仕方ありませんわね、アフロディテもアテナも、この人間の心臓を止めてしまいそうなほどに美しいもの。
でもあまり待つのは嫌いよ。早く、このヘラを選びなさい」

アフロディテ
「ヘラちゃん、威圧は良くないわぁ」

ヘラ
「おだまり!」

アテナ
「ではそうだな、お前の口がもっと滑らかに動くようにしてやろう。
パリスよ、このアテナを選べば、お前の人生における戦い、そのことごとくを勝ち戦にしようぞ。
生涯、負けなし。どうだ、男冥利に尽きよう?」

ヘラ
「アテナ、あなたは油断も隙もない!
抜けがけとは、良い度胸ですこと」

アテナ
「頭脳戦、と呼んでくださいますか、ヘラ様?」

ヘラ
「よいでしょう。では、パリスとやら、わたくしを選べば、財産と権力をあなたに差し上げてよ?
世界の頂点に、あなたが立つの。いかがかしら?」

アフロディテ
「ちょっとぉ、2人ともイケナイ子♡
それならあたしは、パリスちゃんに、世界一の美女をあげちゃおうかしら?人間の中でナンバーワンの美女よ。
あたしには劣るかもしれないけれど、人間のあなたにはちょうど良いんじゃないかしら?」

ナレーション
「パリスは悩みました。
正直、誰を選んでも修羅場です。
ひとりを選べば、他のふたりを敵に回すでしょう。

それでも、パリスは考えました。
答えない方がぜったいヤバい。

パリスは羊飼いの青年です。
権力なんて持っていてもしょうがない。
戦なんて、一生縁がない。
だったら、と。
彼が選んだのは、世界一の美女。
もとい、美の女神アフロディテ」

アフロディテ
「ふふ、やっぱりこうなった♡
パリスちゃん、愛してるわぁ♡
さて、さっそく約束を果たさなくっちゃ。
世界一美しい人間はぁ……あ、この子だわ」

ナレーション
「世界一美しい女、その名はヘレネー。
彼女は、人妻でした」

アフロディテ
「じゃあパリスちゃん、スパルタに行こっか。
ヘレネーちゃんの夫が王様とか、関係ない!
恋は奪った者勝ちなんだから!」

ナレーション
「さらにまずいことに、ヘレネーは、ギリシャにあるスパルタという地のお妃様」

アテナ
「待て待て。誰もかもがアフロディテのように、気ままに恋をするわけじゃない!それも王妃だと!?」

ナレーション
「スパルタ王はもちろん激怒。
ギリシャの大軍がパリスへと迫る。
え?いくらなんでも大げさすぎないかって?」

ヘラ
「パリス、お前はただの羊飼いだったのではなくって?
これは、どういうことなの?」

ナレーション
「ギリシャ軍を迎え撃つのは、トロイアの戦士たち。
彼らだって、パリスのために戦うなんて、まっぴらなのだが。
そう、パリス。
この青年、実はかなりのワケ有りで」

アテナ
「パリスが、王子?」

ヘラ
「この羊飼いがトロイアの王子ですって?」

アフロディテ
「やだぁ、パリスちゃんったら、王子だったの?」

ナレーション
「パリスが生まれたときに不吉な予言があったとかで、
城を離れて山で暮らしていたのだ」

アテナ
「この男がトロイアに不幸を招く、と?」

アフロディテ
「ある意味、予言的中してなぁい?」

ヘラ
「これは……ギリシャとトロイアの全面戦争になりますわよ!?」

アテナ
「こうしてはいられない。戦が始まるなら、行かねば。
ヘラ様、私たちはギリシャの援護を」

ヘラ
「そうですわね。戦の神であるあなたがいるなら、ギリシャの勝利は決まったようなもの。
参りましょう、アテナ」

アフロディテ
「あぁん♡ あたしたち敵同士になるのね?
あたしはパリスちゃんとトロイアを守らなくっちゃだもの」

アテナ
「アフロディテ。無駄口はここまでだ」

アフロディテ
「ふふ、余裕のない女って、色気に欠けるわよねぇ。
アテナちゃんも、ヘラちゃんも♡」

ヘラ
「おだまり、このメス豚!」

アフロディテ
「誰が豚ですって!アフロディテのマシュマロボディは最高だって、アレスくんも褒めてたのよ!
……こほん。
まぁ、やるっていうのなら、受けて立つわよ。
ギリシャのみんな、まとめて可愛がっちゃう♡」

ナレーション
「こうして、ギリシャとトロイア、約10年にもわたる長い戦争が始まったのです」


(了)

【補足】


ヘレネーはかつて大勢の男に結婚を申し込まれていた。
男たちはヘレネーに結婚相手を選ばせ、
「誰が選ばれたとしても恨みっこなし。結婚後もヘレネーとその夫に協力を惜しまない」という取り決めをする。
そのヘレネーが奪われたということで、かつての求婚者たちが総出でトロイアを攻める、という展開になった。


冒頭の結婚式はアキレウス(アキレス腱の由来となった大英雄)の両親の結婚式。お父さんは人間の英雄ペレウス、お母さんは女神テティス。


争いの女神エリスが呼ばれなかった理由は諸説あり。
戦争を起こし、人間の数を減らしたかったゼウスが、わざと呼ばないように仕向けたという説も。

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