モンブランの栗(声劇台本版)

◾️登場人物(女2、男1)
深雪:女。十九歳。雅夫の幼馴染。
雅夫:男。十九歳。深雪の幼馴染。
尚美:女。十九歳。深雪と雅夫のサークル(音楽系)の仲間。

◾️舞台、シチュエーション
大学構内のカフェ。
サークルの演奏会を他大学の団体に宣伝に行くために待ち合わせ中。

◾️本編

深雪:あ、ケーキなんか食べてる。

雅夫:お疲れ。演奏会のチラシ、持ってきた?

深雪:もちろん。宣伝に行くのに忘れたら意味ないじゃん。

雅夫:ちげえねえ。
雅夫:重かったでしょ。悪いね。こっからは俺運ぶから。

深雪:助かる。ありがと。
深雪:あたしもなんか食べちゃおっかな。

雅夫:いいんじゃない?

深雪:尚美、まだ来ないかな。

雅夫:授業長引いてるんでしょ。たぶんもうちょっとかかるよ。

深雪:うーん。でも、やめとこっかな。

雅夫:なに、ダイエット?

深雪:まあね。
深雪:あれっ?

雅夫:なんだよ。

深雪:栗。好きじゃなかったっけ。

雅夫:いや、好きじゃなかったらモンブラン頼まないって。

深雪:それもそっか。でも、意外。

雅夫:なんで?

深雪:いや、違う違う。栗好きなことじゃなくて。
深雪:最後まで、とってあるのがさ。

雅夫:そう?

深雪:うん。だって、好きなもの最初に食べちゃうタイプじゃん。

雅夫:そうかあ?

深雪:そうだよ。
深雪:ショートケーキのイチゴだって先に食べちゃうし、トンカツ定食でキャベツあまりがちだし、目玉焼きまで真ん中から食べるじゃん。

雅夫:あー。まあそうかもなあ。

深雪:だからさ、栗好きなら先に食べるほうが自然じゃん?

雅夫:いいだろ別に。

深雪:いいけどさ別に。でも、なんで。

雅夫:別に。なんとなくだよ。

深雪:ふうん。美味しいもの我慢できるなんて、大人になったのね、まーくんも。

雅夫:その呼び名やめろって。

深雪:まーくんはまーくんじゃん。

雅夫:いつまでも小学生じゃねえんだぞって。

深雪:そういえばまーくん、最近ウチのこと苗字呼びするよね。

雅夫:だって、変だろ、付き合ってるわけでもないのに「みいちゃん」とか。

深雪:えー、気にしすぎじゃん。

雅夫:井口が気にしなさすぎなんだって。

尚美「ごめーん、遅くなって。

深雪:全然。授業長引いた?

尚美:うん。阿佐ヶ谷の仏語。いっつもこうなんだよね。

雅夫:お疲れ。

尚美:ありがと。
尚美:あ、ケーキ食べてる! ずるい! 栗ちょうだい!

雅夫:どうぞ。

尚美:わーい。ありがと。

深雪:お?

尚美:おいしー。やっぱ秋冬はこれだよね。いつも悪いね。

雅夫:別に。

深雪:おおお?

尚美:なに、みいちゃん?

深雪:いや、あのさ、尚美って、栗、好きなの?

尚美:うん! 食べ物で一番好き!

深雪:で、いつも、こいつから、もらってるわけ?

尚美:いつもってことないと思うけど、頼むとくれるよね。

深雪:ふーーーーーん。

尚美:なに?

雅夫:なんだよ。

深雪:べっつにー。好きな方が先じゃなくて、ごめんね、っていうか。

尚美:は?

雅夫:なんの話だよ。

深雪:なんでもないなんでもない。
深雪:さ、早く食べちゃいなよ。そろそろ行こ。

深雪(独白):やっぱり好きなものは、先に食べちゃったほうがよかったのかな……



(あとがき)
他の小説の朗読同様、ご自由に演じていただいて構いません。
上演、投稿にあたってご一報いただけるとものすごく喜びます。

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