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短編【作者の気持ち】小説

問題、本文を読んで作者の気持ちを答えなさい。

■問1

誰も居ない春日神社の御山を訪れたのは、これで二度目だった。薄い絹のような雲が空を覆っていて、真夏の日差しを幾分か和らげている。まだら模様に苔がへばりついている石段を汗を滲ませて私は登っていった。

    中略

春日神社の御山から見下ろす街並みと、その向こうに広がる紺碧の海と、そして境目なく連なる薄雲の空。それはまるで一枚の絵のようだった。七年前と少しも変わらぬ風景を目の当たりにして私の両頬は知らぬうちに濡れていた。


早春晩夏そうしゅんばんか』作:遠藤えんどう升次郎ますじろう



作者、遠藤升次郎は結核に罹り、『早春晩夏』を書き上げた翌年、帰らぬ人となります。作者はどのような思いを『早春晩夏』の主人公である『私』に託したのか、100文字以内で書きなさいーーーー。



私は高校の国語教師。今、国語のテストの採点をしている。私が受け持つ生徒は選択問題はそこそこ出来るが、この記述問題がなかなか出来ない。それは私の授業をまともに聞いていない証拠だ。選択問題などは塾や参考書を勉強すればいいが記述問題はそうは行かない。私の授業を聞いていなければ絶対に解けない。何故なら、遠藤升次郎というマイナーな作家の小説を問題にしているからだ

「そうなんですよね。マイナーな作家なら他にも沢山いるのに、何故私の作品を使ったのか。それが非常に興味深いんですよねぇ…」

それは、僕が遠藤升次郎の大ファンですから。って、え!!誰!

「どうも。遠藤升次郎です」
「えええ!」
「どうも。遠藤です」
「えええ!で、でも遠藤升次郎は、けけけ結核で」
「ええ。結核で死にました。どうも。遠藤升次郎の幽霊です」
「えええ!本物の!本物の遠藤升次郎ですか!!」
「ええ。幽霊ですけど」
「は、は、は、初めまして!あの、僕、あの遠藤さんの大ファンです!日本を代表する小説家は、芥川でも夏目でも三島でも川端でも太宰でも谷崎でも無く貴方!遠藤升次郎だと思っています!」

「ははは。それは言い過ぎ言い過ぎ」

「いいえ!言い過ぎではありません!日本人はもっと貴方を評価すべきだ!」
「まぁまぁ。それにしてもまた、難しい問題ですねぇ。『早春晩夏』を読んで作者の気持ちを答えなさい。ですか」
「ああそうだ!遠藤さん!貴方が当病中に苦しみながら書いた『早春晩夏』、どういう気持ちで書いたんですか!教えて下さい!一応僕なりの答えも有るんですが本当の答えを教えて下さい」
「ん~~。あの頃はねぇ。苦しかったからねぇ」
「ええ。大変なご苦労をなさっていましたね」
「この小説を書き終えたら…」
「書き終えたら!」
「原稿料いくらかなって思ってました」
「不正解!!!もう一回読み直しなさい!」


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太宰、現わる

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