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短編【太陽フレア】小説

当初は二週間程度の通信障害だと予測されていた。

『太陽フレア』が起こったのだ。太陽フレアとは太陽の表面で起こる爆発現象のことで、この太陽フレアにより宇宙空間に大規模な変動がおきる。その影響は通信障害を引き起こると言われている。

つまり、スマートフォンに代表されるインターネット機器が機能不全に陥るというのだ。

太陽フレア自体は小規模なもなら一日に三回ほど起きている。しかし、今回観測された太陽フレアは百年に一度あるかないかの大規模なフレアだった。その巨大なフレアをアメリカ航空宇宙局や日本の国立天文台などが同時に観測した。その情報は各国に伝達され、日本の総務省も被害想定をまとめて4月26日に各企業に注意喚起を公表した。

1989年3月の太陽フレアではカナダのケベック州で大停電が引き起こした。2000年には人工衛星「あすか」が機能停止をしている。慎重に対処しなければ人災に発展しかねない宇宙的災害が起きようとしている。

二週間程度の通信障害。しかし、それは飽くまでも『最悪なシナリオ』を想定した場合のことである。総務省も通信障害は二、三日の、それも途切れ途切れの電波障害で、ちょっと電話が聞き取り辛いかな?とか、ちょっとインターネットの速度が遅くなったかな?くらいの不便さで終わるだろうと思っていた。

国立天文台もアメリカ航空宇宙局も、おおむねそんな見解だ。だけど、公表は大袈裟にする。それは当然の事で、災害予測は考えられる被害の最大値を公表しなければならない。なんだよ、大した事ないじゃん。政府って馬鹿だなあ。で済ませるのが最善なのだから。

ところが、である。太陽フレアの観測を続けていたアメリカ航空宇宙局から緊急の電信が各国の観測所へ届いたのだ。そのデータを見た各国の研究員たちはそれぞれの国の言葉で驚嘆した。

通常、フレアの大きさは一万から十万キロメートル程度であり、その威力は水素爆弾数十万から一億個と同等だと言われている。今回の太陽フレアも十万キロメートルを少し超える程度という観測結果だった。

その太陽フレアの爆発が収まらず断続的に活動しているというのだ。しかも、そのフレアの中には五十キロメートル級の特大フレアまで観測されたのだ。各国研究所が出した通信障害の期間は少なく見積もって百年。およそ一世紀に渡り地球は電波障害を受け続けると予測された。

世界の通信の時代は終わろうとしている。通信機能が失われてしまう前に、その情報は世界中に電波に乗って拡散された。

「えー!マジ?ネット使えなくなんの?オキュラスクエスト2買ったばかりなのにー!」

安齋あんざいしげるは、ひとづてに世界的危機のニュースを聞いたが、ゲームが出来なくて残念。その程度の落ち込み具合だった。

実際に通信障害の大損害を受けたのはIT技術の恩恵に依存していた一部の富裕層だけで、その他の人類は混乱はあったものの、なんやかんやでアナログにちゃんと順応していった。

その順応性の高さが人類が地球上に君臨する最大の強みだったのだ。ネット環境がなくなっても、それはそれで力強く人類は生き延びてゆくのだ。

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