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古書泥棒という職業の男たち

 古本は、良書で絶版本というのが価値がある。それが初版本であれば、価格はさらに上がる。
 
 英文学者の渡部昇一さんは、ドイツに留学していた20代のころ、古書コレクターのドイツ人実業家の家に招かれたことがあり、そこの書棚で、ある一冊の本と出会った。「カンタベリー物語 初版」である。
 月日が経ち、その実業家は事業に失敗し、膨大な量の蔵書は売り出されることとなり、その中に、あの「カンタベリー物語 初版」があることを渡部さんは知る。
 どうしても手に入れたいとおもい、オークションに参加したいというと、アドバイスをしてくれる人がいた。
「直接参加してしまうと、日本人ごときにこの貴重な本を持って行かれてたまるかと、値段がせり上がってしまう。なので、ロンドンのユダヤ人古本屋を紹介するので、彼に申し込みをさせたらいい」
 世界の古本界は、実はユダヤ人が仕切っているのだそうだ。
 アドバイスが功を奏して、渡部さんは3600万円という安値(?)で、目当ての品を落札できたそうだ。

 「古書泥棒という職業の男たち(トラヴィス・マクデート著)」は、本泥棒と図書館特別捜査員の奮闘の記録だ。
 舞台は大恐慌時代のアメリカで、そのころのアメリカの図書館は、本泥棒の格好の草刈り場となっていた。しかも唖然とすることに、本泥棒たちの元締めは古書店主というから始末に負えない。そんな図書館史上最悪の時代に、世界でたったの10冊しか所在が確認されていない、エドガー・アラン・ポーの二作目の詩集「アル・アーラーフ」が、警備の厳重なニューヨーク公共図書館から盗み出されてしまう。
 特別捜査員による執念の捜索が始まる。
 本書は、全編にわたって精密な語り口で綴られる、ミステリー小説のような犯罪ノンフィクションと言えよう。

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