遊覧飛行 #004『話しかけてきた男』

#ドローン

　「映画が好きなんですか?」
と話しかけられた。
馴染みのバーで、一人、飲んでいる時にである。
その店は、大きなテレビがカウンターの奥に備え付けられていて、いつも古い映画が映っている。それを観ながら、静かに飲むのが好きで、たまにふらりと行くことがある。
その日は、トーキー時代のチャップリンがやっていた。
これはまったくの蛇足なのだが、チャップリンの『街の灯』は、何度観ても、毎回、涙が溢れて止まらなくなってしまうんだ。あの映画は、まるで魔法のようだよ。
さて、話はバーである。振り向くと、もちろん名は知らないが、この店でちょくちょく見かける顔だった。酔ってもいなさそうだったので、
「ええ、まあ」
と返事をした。
四十代ぐらいであろうか、その男は、自分の趣味は映画鑑賞だというようなことを話しだした。適当に相槌をうっていたら、
「趣味はありますか?」
と、なぜかわからないがそう聞いてきた。
俺は、ウイスキーを口に含むと、すこしの間考えてから、若干思わせぶりな口調で
「今は、ドローンかな」
と応えた。
「ドローン?なんですか、それは?」
その男は興味深げだったので、簡単に説明をしてみた。
「おもしろそうですね」
バーテンダーが、カウンターの中から話しに加わってきた。
　俺はグラスを空け、腕を組むと、
「暇つぶしですよ」
とはぐらかして、視線を画面にもどした。
　しかしもう、頭の中は、次回の撮影ポイントのことでいっぱいになってしまい、映画の内容はほとんど入ってこなかった。