融資をスムーズに引き出すために金融機関へ伝えておきたい情報
前期決算が赤字でも融資を受けている事業者は、情報提供が実に適切です。
・金融機関における融資審査の流れ
まず、金融機関における融資審査の流れを説明しましょう。金融機関の融資審査は下記のように行われます。
(1)事業者からの融資の打診
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(2)担当者から上司に対して「融資の打診があった」ことの報告
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(3)上司による融資に取り組むべきかどうかの検討
当該融資に取り組む決定がなされると、以下のように進捗します。
(4)担当者が事業者に対して、融資稟議作成に必要な詳細情報の収集・ヒアリング
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(5)収集した情報を元に当該企業についての実態把握・分析
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(6)融資稟議書の作成
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(7)貸付担当責任者や支店長による店内審査
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(8)本部審査部署による審査
融資の申請を打診する際に伝えるべき基本項目
融資を打診する際、担当者に「簡単な資金使途」「借入希望日」「希望金額」しか伝えない取引先は少なくありません。
●よくある例)「○○に必要なため、○月○日までに、○○○万円を貸してほしい」
しかしこれだけでは融資審査ができません。
融資稟議書を作成する前、担当者は「当該融資に取り組むべきかそうでないか」の指示を上司に仰ぐのですが、下記の基本的な項目があやふやな状態では、上司は的確な判断ができないのです。
そこで上司は、あらためて基本的な項目だけでも取引先から聞くように指導します。もうおわかりですね、それでは実行までに時間がかかってしまうのです。
だったら最初から必要十分な情報を提供しておきたいもの。融資の打診をするとき、少なくとも以下の基本的な項目については内容を固めて伝えておきましょう。
担当者がスムーズに融資に取り組むことができるよう、準備が肝心です。
・融資稟議書を作成するときの基本的な項目
●金額
●金利
●実行予定日
●貸出期間と据置期間
●保全(担保・保証人)
●資金使途
・審査をする上で重視する項目
●返済可能性
●融資効果
・融資審査を行う際の金融機関の着眼点
①定性面
金融機関の審査では、定性・定量の両面から分析をします。
定性面でおもにチェックするのは、
(1)経営者、(2)企業を取り巻く環境、
(3)企業の内容です。
(1)経営者
とくに中小企業においては、経営者の器以上に企業は大きくなれません。経営者の器を見極めることで、その企業が融資を行うに値するかそうでないかの判断を金融機関は行います。
経営者を見極める上で金融機関がチェックする項目は、以下のとおりです。
・経営者としての資質
・人柄(人望)
・心構え
・経営上必要な知識の有無
・リーダーシップ
・コミュニケーション力
・実行力
・計数管理能力
・年齢・健康状態
・後継者の有無
・資産背景(個人資産)
・経営意欲
(2)企業を取り巻く環境
金融機関は、取引先企業の内容はある程度理解していても、業界動向など取引先企業を取り巻く環境については詳しくないことがほとんど。事業者側から伝えることで、融資審査に好影響を与えることができます。
金融機関がチェックする項目、以下のとおりです。
・業界動向
・仕入れ価格の状況
・市場の成長性
・取扱商品の成長性
・競合企業との比較
(3)企業の内容
残念なことに、自分が担当する取引先の内容をよく理解していない担当者が増えています。企業の内容を知らずに説得力のある融資稟議書は書けないので、これも事業者側から伝えておきたいですね。
金融機関がチェックする項目は、以下のとおりです。
・ターゲット顧客
・商品・サービスの特徴(新規性・独自性・優位性)
・競合優位性
・収益の源泉となる強み(人的リソース・技術力・開発力・財務力・ノウハウ・サービス・情報・顧客等)
・仕入れ先との関係性
・販売先との関係性
・マーケティング力
・融資審査を行う際の金融機関の着眼点
①定量面
金融機関が融資審査をする際、真っ先に見るのが「決算書」です。とくに初めての取引の場合、3期分の決算書を比較し、財務内容と傾向を細かくチェック。この確認は、粉飾を見抜くためにも重要です。
定量面でおもにチェックするのは、
(1)現金および預金、(2)受取手形・売掛金、
(3)在庫、(4)貸付金、です。
(1)現金・預金
月商売上の3ヶ月分程度は確保できているのが好ましいです。
(2)受取手形・売掛金
売上は増えていないが、受取手形・売掛金が増えている場合、金融機関は「粉飾を行っていないか」「不良債権はないか」「債権回収期間が長期化していないか」を見ます。粉飾を行うと、その後金融機関から融資を受けることは不可能になります。
(3)在庫
「不良在庫」がないかをチェックする項目です。粉飾のために「在庫」で売上を調整することが少なくないからです。
(4)貸付金
この項目に大きな金額が計上されていると、金融機関は警戒します。
貸付先が関連会社や経営者個人(役員貸付金)になっていると、当該企業に融資した資金が他に環流していると判断します。
その場合「資金使途違反」となるため、その後の融資はしてもらいにくくなります。
上記以外では、「損益計算書」での各利益についてもチェックします。
経常赤字が続くと、もちろん融資してもらいにくくなるでしょう。
しかし事業計画書を作成し、「今後このような計画で経営を行っていきますので、来期は利益が出せると思います」と伝えることで、前期が赤字決算であっても融資を前向きに検討してもらうことが可能になります。
金融機関の融資審査のポイントを把握すれば、審査に好影響をもたらす情報提供ができるようになります。
財務内容が多少厳しくても、資金繰りに悩む必要はなくなるでしょう。
金融機関への情報提供で重要なことは、「適切な相手に」「適切な情報を」「適切なタイミング」で行うことが大事です。