クロニカから見るデジタル化される資料
現在、インターネットの普及により多くの歴史的資料や情報がウェブサイト上で一般公開している。
例を上げれば、日本文学研究において重要な「竹取物語」や日本史研究において用いられる「平家物語」
これらの動きは研究者に限らず、研究という活動における大事な一次資料の読解を一般の歴史愛好家やアマチュア研究家にまで広げることができた。インターネットの社会における情報化の大きな功績といえるであろう。
また、これらの活動は日本史研究だけに限らず、メソアメリカ研究においても同様であるといえる。今回はそんなインターネット社会において加速するデジタル情報化の中にあるメソアメリカ研究の重要資料「クロニカ」について見ていこう。
ブラウザ上に存在するメリット
デジタル化されると一体どういうメリットがあるのだろうか。
これは、大きく四つのメリットが存在するといえる。
一つ目は「ネットさえあれば場所が限定されない」ということであろう。
現代において、研究活動をする場所にネットが使われないことはほぼないといえる。
ネットさえあれば、すぐに資料を確認でき、情報を再確認することができる。これは大きなメリットといえよう。
二つ目は「人物を問わない」という点であろう。
史料を得ることができる人物は限られてくる。最近興味を持ち始めた一般人、資料を確認できる場所まで移動することができない人や、再編された資料を買うことができない苦学生などがそうである。しかし、そんな彼らもスマホ一台かPC一台さえあれば一次資料を読むことができる。
三つ目のメリットは「時間を問わない」という点である。
史料を確認するために図書館へ行く、研究室に行く。しかし、それは大体昼間の間か、研究者本人でなければできない行為である。しかし、ブラウザ上に存在すればいつでも夜中でも一日中史料を閲覧することができる。
そして最後のメリットとしては、「消滅時や摩耗時のバックアップになる」ということであろう。結局大体のデジタルアーカイブ化にはこの側面が強いといえるであろう。
史料の消失は歴史的に見ても特別なことではない。クロニカにおいても消滅が確認されている史料は多く存在する。だからこそ、アーカイブ化によってバックアップを残し現在の資料の状態をこれからも残すようにしているのだ。
現在ブラウザ上にアップロードされているクロニカ
では現在、一体どのようなクロニカがアーカイブ化され公開されているのだろうか。今回は、誰もが簡単にブラウザ上にアップロードされた史料を確認できるようにそれらを一挙紹介する。
・Degital Florentine Codex
Digital Florentine Codex (getty.edu)
一般的に「フィレンツェ絵文書」として有名なクロニカ、その豊富な情報量から「アステカ大辞典」の異名も存在する。本サイトはわかりやすくそれぞれのセクターが分かれており、ブラウザ上に保存するうえで情報が簡潔に整理されている。また、原文のナワトル語・スペイン語のほかにそれぞれ、ナワトル語→英語、スペイン語→英語の翻訳も記載されており、とても分かりやすく一般の方も手に付けやすいように整理されている。
・Codex Borgia
Borg.mess.1 | DigiVatLib
ボルジア絵文書と呼ばれるアステカの暦や儀式の内容が含まれたクロニカである。紆余曲折ありながらも植民地時代から現在はヴァチカン使徒文書館に保存されている。一部欠けているところや褪せているところはあるが、重要な資料であることは疑いようのない。また、この絵文書には注釈(スペイン語等)が存在しないため、注意が必要である。
・Codex Féjérváry-Mayer
FAMSI - Bibliothek der Berlin-Brandenburgischen Akademie der Wissenschaften (BBAW) - Codex Fejéváry-Mayer (Loubat 1901年)
フェイエールヴァーリ・マイヤー絵文書とよばれ、有名なテスカトリポカのページが最初の一枚として記載されている。英国リヴァプールに存在する世界博物館に保存されている。状態がすごくよく、閲覧時に気にならないほどである。また、これにも注釈はない。
・Codex Cospi
Biblioteca Universitaria di Bologna, Ms. 4093 - Codex Cospi — Biblioteca Universitaria di Bologna - BUB (unibo.it)
コスピ絵文書と呼ばれ、現地の儀礼などについて描かれているといわれている。ボルジア絵文書と似ているといわれており、現在はイタリアのボローニャ大学に保存されている。注釈はない。
※随時更新中であるため、少し経てば増えていることがあります。
現在行われている日本語訳の試み
しかし、これらのクロニカは大体がスペイン語かナワトル語、日本語訳されているものはまだまだ少ないといえよう。さらに、その中から研究に使用できるほどの強度を持ったものとなればさらに限られる。
そのような現状の中で、現在日本人メソアメリカ研究者がアステカ王国の重要な一次史料「クロニカ・メヒカーナ」のブラウザ上の日本語訳活動を行っている。
神奈川大学の岩崎賢先生と専修大学の井上幸孝先生が中心となり、16世紀末植民地時代のメシカ王家の末裔である、アルバラード・テソソモクが記した歴史書である。
岩崎賢先生といえば、アステカにおける宗教観や儀礼をまとめ自身の独自の考察を巧みに入り混ぜた著書「アステカ王国の生贄の祭祀: 血・花・笑・戦(刀水書房)」が有名である。また、もう一人の本プロジェクトの中心人物である井上幸孝先生といえば様々なアステカ関連の著書を出版され、日本アステカ研究の第一線で活躍されている先生であり、本プロジェクトはそんな日本アステカ研究における重鎮たちの新たな試みとして大変注目されるプロジェクトなのだ。
(2024年4月9日)現在はまだ第一章までしか閲覧できないが、随時更新されるということである。
このようにさらにブラウザ上に史料があげられれば、研究におけるハードルは下がり、日本人のメソアメリカ研究者の新たな誕生に貢献するであろう。
私は、そのいつかを心待ちにしている。
クロニカ・メヒカーナ 翻訳プロジェクト (senshu-u.ac.jp)
2024/4/9 金蔵皇栄
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