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グランメゾン東京〜料理人達の系譜〜

日本に帰国してやっとグランメゾン東京の最終回とグラグラメゾン東京を見ました。今までも多くの事に触れてきましたが、最終回は料理人の受け継がれる系譜についてお話ししたいと思います。

料理人は自分の料理を作るために多くのシェフの元で修行をし、多くの素材や料理を食べ、その全てを血肉とし、一定レベルの技術と知識を身に付けた上で、初めて自分の個性というものを知り、お皿の上に表現できるようになります。

シェフになりたての頃は、自分が働いた店の料理のオマージュ(似せたもの)を作ることが多く、試行錯誤する事で自分の特徴を出せるようになる。これは誰もが出来るように感じますが、そんな事はなく、自分の料理を生み出せない人の方が多い印象があります。

自分の料理とは技術や知識があっても生み出せるものではなく、必然として現れるような、思考を深く繰り返したのちに生まれ出る奇跡のようなものです。その域になる為に、皆、自分とは何なのか?どんな人間で何がしたいのか?を自問自答します。(と少なくとも僕は思っています。誰かの言葉ではなく、流行りの後追いでもなく、自分自身を映し出すものが自分の料理)



受け継がれるシェフの想い


ドラマの中で出てきた『ブーダンノワール』という料理があります。祥平が作り上げた料理です。実際のカンテサンスでもあの料理はスーシェフが生み出したと言われています。現在フロリレージュというレストランのシェフをしている川手シェフの料理です。

ブーダンノワール自体はとてもクラシックなフランス料理なので、誰のものという類ではありません。誰もが知っている料理。

でもその中で有名なのは『ブルギニオン』というレストランのブーダンノワールです。

ブーダンノワールという料理はフランスで有名ですが、日本で定期的に作っているレストランは余りありません。その料理の特殊性も、食材の調達の難しさも、そもそも日本人にはそこまで合わない料理という部分もあるでしょう。

でもそれが有名なブルギニオンで働いていた(そこでもスーシェフだった川手さん)からこそ、素晴らしいブーダンノワールが作れたのでしょう。そしてその思いの詰まっているブーダンノワールだからこそ、ドラマの中でも登場させ、シェフから受け継がれる想いや技術の大切さを伝えているのだと思います。

祥平がのちにオープンしたお店は実際のフロリレージュを使っているあたりからもその熱量が伝わります。シェフ達は多くの師匠達のおかげで今があり、そして多くの後輩にそれを伝えていく責務があります。

ちなみにですがブルギニオンの菊池シェフもマノアールダスティン五十嵐シェフの元で働き、ブーダンノワールを学んでいます。このような修行の流れを知る事で、そのシェフの系統や属性が見えてきます。かなりマニアックな世界ですが。


アイデンティティとは何なのか?


この様なシェフの系譜は他の業界にもあるのではないでしょうか?カンテサンス岸田シェフも志摩観光ホテルで修行をスタートし、カーエムで働いた後渡仏しています。フランスで出会ったアストランスで修行した事で今のカンテサンスが生み出されたのだと個人的に解釈してます。

アストランスで働いたシェフは他にもいて、パッサージュ53の佐藤シェフ、カンテサンス立ち上げ時にスーシェフで働いていたESの本城シェフ、福岡でレストランSORAの吉武シェフもそうですね。

時代を作るレストランは次の時代のシェフを輩出する。それはテクニックだけではなく、どんな想いで、どんな熱を持って仕事をするかを、その瞬間感じれるからです。なので星を取る瞬間に関わっているのか、取った後から関わるのかでは雲泥の差があります。

ちなみに僕が働いていた『Editio Koji Shimomura』の下村シェフはフランスのコートドールというレストランで一番影響を受けています。当時、水の料理人と呼ばれていたベルナールロワゾーというシェフで、この人も時代を作ったシェフです。

僕がフランスで最初に働いたミラズールのマウロもコートドールで修行をしています。これは偶然ではなく、必然だと僕は感じていて、どんなレストランでどの様な料理を学んだかで、その後の料理が決まるからです。

マウロはアルページュというレストランでも働いており、そこは先ほど話をしたアストランスのパスカルが働いていたレストランです。肉の火入れや野菜の使い方をアルページュで学んだと言っていました。

その後に僕が働いたのが本城シェフのES。偶然ですが、やはり惹かれる人の料理には一貫性があるのだと僕は感じました。それぞれのシェフがそれぞれに感じた事を自分の料理へと落とし込む。でも。そこには同じ様な雰囲気が必ずあります。美味しさの作り方や考え方が近しいからです。

時代を作ってきたシェフ達の料理の遺伝子が脈々と受け継がれる。そしてそのシェフの個性が生まれ、アイデンティティーとなり、それがまた受け継がれる。

とはいえ、そこで働いたから全てが分かる訳ではなく、ほんの一部の人間がそれを感じ取り、受け継ぎ、昇華する。そしてまた新しい時代を創るのでしょう。

以前料理王国?か何かで系譜図が作られていて面白かったですね。


修行がなぜ必要なのか?


アイデンティティーとはある日突然生まれるものではなく、先人達の想いや熱を自分の中で消化し、昇華する事で初めて生み出されるもの。そしてそれは一定期間を素晴らしいシェフと働き、同じ時間を過ごす中で、技術や知識だけではない生き様を学ぶ事で受け継がれると思っています。

技術はユーチューブで、知識はネットで学べるかもしれません。でもそんなものは上澄みなだけで根本的な『シェフとは?』という想いを理解しなければ絶対にたどり着けない域がある。

毎日ギリギリのひりついた空気感の中で、絶対にミスのできない環境で最高の料理を生み出すからこそ掴める自信と技術がある。

意味がないと言われるかもしれないけれど、毎日百数個の牡蠣を開ける事で見えてくる世界があれば、週で400羽近い鳩を調理する事で見える世界もある。無心でハーブをちぎる事に意味を見出せない時もある。でもそれに意味を生み出すのは自分自身の行動なのだと気付けた人間だけが次のステージに行ける。

そんな経験を給料を貰いながら出来るのは修行期間だけだ。シェフになれば全てが生死を決める様な戦いになる。その事をもっと若い料理人には知って貰いたい。時代遅れかもしれないけれど、だからこそたどりつける境地があるのだと。


ガストロミーの未来はどうなるのか?


グランメゾン東京のおかげでレストラン業界が陽の目を見ています。ただ根本的な解決にはならないし、今を生きるシェフ達がどう行動していくかにもかかってくるでしょう。現実的に働き方改革や金銭的な価値がなければレストランで働く若者はいなくなるかもしれません。

僕も自分の会社では労働環境を整備した上でどうスタッフに成長してもらえるかを考えています。そうすればいいのかはまだ分かりません。きっと答えは数年後に出るのでしょう。

でも、僕達上に立つ人間に出来ることは『伝えること』だと思っています。

なぜここまでやるのか?なぜ妥協しないのか?なぜ自分の時間をここまで費やすのか?

全てに考えがあり、哲学があり、美学がある。

それをスタッフ達に伝え続ける。その中で新しい時代の芽が生まれるはずだからです。僕達は先人達に育てられています。自分たちだけで成長した訳ではない。だからこそ次の世代に伝えていく事は最低限の義務であり、文化を紡いでいくとても大切な仕事です。

時代によって伝え方や戦い方は変えなければいけません。でもそれをしてもらったからこそ、いまの僕達はいると、僕はそう思っています。

どんな時代にも、時代の寵児はいます。その芽を育てるのは僕達の仕事です。

そんな事を改めて考えるキッカケにグランメゾン東京はなりました。

そんな時代でも熱く熱く生きていたい。時代が変わりステージが変わっても、人が感動するものの根本は変わらない。

なぜならば僕達は人と共に生きているからです。

テクノロジーが進歩しても、時代が変わっても絶対に変わらない熱い想いがある事を僕は信じています。







皆様の優しさに救われてます泣