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6 医師の顔は一つじゃない、三つなんだ!

前回医師は医療のプロという話を書きました。今回は病院で勤務する医師のキャラクターについて、私なりの見方と医師確保の方法を考えてみます。

公務員に限らず一般の労働者は、その仕事の専門職(専門性の度合いは別にして)としての顔と、勤労の対価を得る労働者の顔の二つの顔をもっています。公務員は行政のプロとして、会社の社長は社長として、工場労働者は職工のプロとして、コンビニの店員は販売のプロとしての顔を持っています。そして本人がプロであろうとしているかどうかは別にして、そういうプロとして働くことによって対価を得る、労働者としての顔を持っているわけです。

医師は、人体への侵襲的行為である医療を許された唯一の医療者としての顔を持ち、それによって給料をもらう労働者です。

でも、医師はそれだけではありません。

医師には医学を学び向上させる研究者あるいは科学者としての顔もあります。公立病院で働く事務屋は、ともすればこの点を忘れがちで、この科学者としての顔は給料の枠外だろうと考える人もいますが、医療者・研究者・労働者という三つの顔がそろって初めて、医師はその能力が評価されるのです。

公務員業界では、「〇〇事業年次全国大会」みたいなものが各ブロック持ち回りで開催され、功労者の表彰や記念講演などがあります。私も何度か参加したことがありますが、正直言って、物見遊山とは言いませんが実になる経験だったものは少なかった記憶です。中には、朝登録してパンフレットなどをもらったらいつの間にかいなくなっていて、後で話を聞いたら近くの観光地を見ていた、なんていう不心得者もいました。
こういう経験を持つ公務員の事務屋の中には、医師の学術集会ーいわゆる学会への参加も自分たちと同じような大した意味のないことだと考えて、そんなところに行く暇に診療で稼いでくれないかな、と思う人もいるようですが、大きな間違いです。

医師の学会参加は、医療者としての医師と研究者としての医師にとってだけでなく、病院にとっても意味のあることなのです。

医師の学会参加には、大きく三つの意味があると思います。
まず第一に、現在の医療の水準を知るということです。
世の中には本当に多くの学会があり、かなりの学会が多くの疾患についての標準的な治療方法を示しています。そして、その標準は、医学の進歩に伴って見直されます。
医師は、治療にあたっては、患者の了解なしに極端に先進的で実験的な治療を行うことは出来ません。同様に10年も前に一般的とされていた医療を行うことも許されません。仮に医療事故が起きた場合、医師は、行った医療行為が広く標準的と認められているものであったかどうかを問われます。それを逸脱していたら、医師は責任を負わないといけません。もちろんそれを認めていた病院も責任を問われますので、この意味で医師の学会参加は病院にとっても重要なことだと言えます。

二番目は、逆に標準的でない先進的な医療を知る機会があることです。
学会で発表される先進的な医療は、今は先進的ですが、遠からず標準的なものになるであろうものが含まれています。したがって、それらの先進的な医療を知って、その動向を常に関心を持って学ぶことによって、それらが標準的になったときに医師は遅滞なく対応することができます。そして、病院の医療水準も保たれるのです。
ここまでは医療者としての経験の場面です。

三番目に、研究者として発表を行うことで、医師自身の経験と価値を高める場になることも重要です。
学会では、ポスターセッションと呼ばれる、多数の研究成果を一か所で短時間で発表する場面から、選ばれて大学の教授などの専門の医師の前で発表する場面まで様々な発表の場面がありますが、生命を預かる医学に関する発表ですので、内容については時に非常に厳しい質問が出されるそうです。
私は医師ではないのでこのような機会に立ち会ったことはないですが、私が勤めていた病院では、学会発表前に院内で上級医や先輩の医師の前での予備発表会の場面を見たことがありましたが、かなり細かく厳しい質問が行われ、発表者が立ち往生して指導医が助け舟を出す場面もありました。そうやって磨き上げられた研究の成果を発表することで、医師への評価も高まることになります。
医師の価値が高まると、時には他の病院からお誘いーこちらからすると引き抜きがあることもありますが、そのような優秀な医師が育つことは病院の指導体制が評価されることでもあるので、そんなことは心配せずにどんどん発表の機会を作ってあげるべきです。そもそも発表すらまともにやらせてくれない病院だったら、優秀な医師が希望してくるはずがありませんし、育った医師も自主的にいなくなってしまいますので、結局病院の衰退を招くことになるだけです。

事務屋の皆さん、医師が学会の参加願いを持ってきたら、「先生、今回は発表はなさいますか?帰ったら他の先生への報告会もよろしくお願いしますから、頑張っていってきてくださいね」と気持ちよく送り出してあげてください。
こういうポジティブなコミュニケーションをやるだけで、事務屋への医師からの評価が変わりますし、病院へのロイヤリティも出てくると思います。
「また学会に行くんですか」と嫌そうな顔で言われた時の気持ちとのプラスマイナスは雲泥の差ですよ。

と書いたところで長くなったので、じゃあこの三つの顔を医師確保でどう考えるかは、次回にします。

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