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公立沖縄北部医療センターは絶対失敗する 1

(写真は沖縄県のホームパージから)
http://www.hosp.pref.okinawa.jp/hokubu/north-medical/

沖縄本島北部で設置が検討されている(決定した?)公立沖縄北部医療センターについて、次のような構成で駄文を書いてみます。
と言っても約20,000字という社会科学系の卒論並みのボリュームになったので、適当なところで切り分けながら載せていきます。

1 はじめに

2 沖縄北部医療センターの成功と失敗
(1) 診療についての成功要求はとても高い
(2) 経営では、基準内繰入で黒字ならOKとする。でも厳しいだろう。

3 現在の計画の概要

4 医療提供の可能性
(1) 必要な医療職の数
①必要な医師数
②看護師その他の医療職の必要数
(2) 医療職確保の見込み
①医師の確保の見込み
②看護師確保の見込み
③他の医療職の確保の見込み

5 将来の経営見込み
(1) 収支見込みと問題点
(2) 運営及び経営の能力とガバナンスの問題

6 市町村や県の財政への影響

7 何が問題だったか、どうすればよいか
(1)何が問題だったんだろう
(2)どうすれば良いんだろう

1 はじめに

 今、沖縄では沖縄県立北部病院(以下「北部病院」とする。)と北部医師会立病院(以下「医師会病院」とする。)を統合して、公立沖縄北部医療センター(以下「沖縄北部医療センター」とする。)として整備する計画が進んでいる。
 ことの起こりは、平成29(2017)年3月24日に基幹病院の整備を求める住民総決起大会が開催されたことだ。
 北部市町村会の12市町村を中心として開かれたこの大会では、「県立北部病院と北部地区医師会病院で多くの診療科が重複して医師が分散され、医師の負担が大きい」と指摘した。その上で統合・再編で効率化し「多様な病気に対応できる」「専門医、研修医が勤務できる」「安心して生み育てることができる地域貢献」「ドクターヘリの機能を有する救急救命」「離島・へき地診療所へ医師派遣」などの機能を強化した基幹病院を目指す」として、「500病床の機能集約病院」の設置が大会決議されたらしい。
 この時点では、病院の設置経営主体が誰になるかは明確ではないが、県立病院が基盤になることと基幹病院は2次救急以上に対応するので、県が主体となることは自明のこととされていたんだろう。
「やんばるの医療守ろう 3200人、基幹病院求め決起大会」(琉球新報)
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-466911.html

 指摘されている課題が地域の強い要望であることは理解できるし、二つの病院を統合して北部の医療を充実させることについても異論はないけど、この大会が開催されたときから、この構想では絶対実現できないだろうな、と思っていた。
 まず、医師が少ないことについては北部に限ったことではなく、日本全国で産婦人科や小児科、専門外科の医師が不足している。沖縄でも、初期研修で有名な県立中部病院においても必要な診療科の医師が潤沢にいるわけではなく、極端に言えば、大学病院でも医師が不足しているところがある。
 この理由は、一つには医師の初期研修の義務化が言われているけど、地方においてはそもそも人口減少で患者が減っているので、医師のスキルアップに必要な症例数=患者数が減っていることがある。沖縄の北部地域で分娩ができる産婦人科が少なくなり、脳外科や心臓血管外科の医師が減るのはどちらかというとこちらの理由だと考えて良いだろう。

 大会での議論では、2つの病院の診療科の重複で医師の負担が大きいとしているが、それを統合することで効果を得られるのは、現に医師が一定数充足している診療科に限られる。「多様な病気に対応できる」「専門医、研修医が勤務できる」「安心して生み育てることができる地域貢献」については、不足している医師を探す必要があり、これは患者数=症例数=人口の問題が大きいので、病院を統合して新しくしたからと言って解決する保証はない。そういう高度な役割を担うことができる病院を建てても、医師や看護師がいなければ求めている医療はできないので、住民からは、なぜだ?ということになるだろう。

 個人の家庭に置き換えて考えてみよう。
 ある地方に祖父母、両親、子供2人の6人の家族があった。子供が中学生くらいになって家が手狭になったので祖父母用に離れを建てた。その後、子供たちは順番に都会の大学に行ってそこで就職している。祖父母が他界したので離れは不要になり、両親は高齢化して本宅のお掃除や庭の管理にも困るようになってきた。ここまでが総決起大会時点での北部の状況だろう。
 そこで、離れを壊して家を大きくして新築したら、子供たちが帰ってきて一緒に暮らすことができるし、孫も来てまた幸せになるだろう、ということを考えたのが総決起大会での決議だ。では、家を新築したらそうなるだろうか?
 子供たちは既に都会で就職して家庭を持って生活している。地元に帰っても、仕事がないかあっても給料が安くて将来が心配だ。それで子供たちは帰ってこない。新築した家のローンが残り、やはりお掃除や管理にもお金がかかる状況が続いて、両親は不満を抱えながら途方に暮れる、ということにならないだろうか。
 建て替えるなら、両親が住めてたまに子供や孫が帰省してきたときにいられるくらいの大きさで良い。それに孫も大きくなったら学校や部活動でそう簡単には帰省もできなくなるかもしれないからさらに小さな家でも良いのではないか、くらいの検討を普通の家ならばするだろうだ。
 普通の家庭や企業であれば、欲しいということがあっても、ほんとうにそれが必要かを考え、さらにそれを手に入れたところで目的が達成できるか、将来の負担はどれくらいでそれに耐えられるか、などということを考えて計画して行動するところだが、今回はなぜかそういう議論はなかった。

 あれが欲しいこれを希望するということをデマンドという。これに対して、これがあるべきこれが必要だということをニーズという。住民総決起大会の決議は、デマンドは上げているけど、ニーズと将来のことは考えられていないな、ということで実現の可能性は低いと思っていたのだが、いつの間にかまともな議論がされないままに沖縄北部医療センターなるものを作ることになってしまった。
 でも、この新しい病院は間違いなく計画通りにはいかないし、失敗すると思う。

 断っておくが、僕は北部に必要な医療は充実されるべきだと思う。ただし、それは北部だけで完結させることは現実としてはできないので、中部圏域やさらには沖縄県全体の視点で議論して達成すべきで、そういう実現可能性と県や市町村の将来負担をしっかりと議論したうえで決めるべきだと考えている。

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