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12 やっぱり基礎だよね

ゴールデンウイークの連休も今日で最終日。
ふだんの年なら、高校時代の友人の家族とバーベキューをやるのが恒例の行事だったんですが、去年に引き続いて今年もできませんでした。一昨日は年末に亡くなった同級生のお母様の告別式があるなど、寂しいゴールデンウイークでした。

その代わりというわけではないですけど、昨日はその普段集まる高校時代の友人とライン飲み会を2時間ばかりやってみました。中に私を公立病院業界に引きずり込んだ大学の准教授と総合病院の副院長の2人の医者がいて、彼らは既に2回のワクチン接種が終わったということでしたが、持病の多い友人からは「俺はいつになるのかな、基礎疾患があるってどこに言えば良いんだろう」という弱気な話も出るなど、このご時世らしい明るい話題の少ない飲み会でした。

そのワクチンですが、中国は発展途上国に自国製のワクチンを輸出するし、総理が訪米の時にわざわざメーカーの社長に電話をして供給をお願いするなど、今や戦略物資の扱いです。日本製はできるのかできるならいつだ、という話題も出たのですが、医者の2人からはあまり希望のある話は聞けませんでした。
日本のワクチン開発が遅れているのは、厚生労働省がこれまでの訴訟で承認に慎重になったために製薬企業が開発をやる気を失ってしまったから、とかいう話が聞こえますが、ワクチンに限らず日本の科学技術全体で基礎研究を軽んじた結果ではないかと、個人的には考えています。

今回の新型コロナウイルスのワクチンは、これまでの死滅したウイルスを使った手法ではなくて、mRNAを使って開発されたそうです。
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/19777/

素人考えですが、この技術を開発できた背景には、DNAやRNAについての膨大な基礎研究があったんだろうと思います。そしてそれらの研究で蓄積されたmRNAの性質や情報書き換えの知見が圧倒的なスピードでの開発に結び付いてのではないでしょうか。

振り返って日本の状況を見ると、そもそも戦後の高度成長期には、海外で開発された技術を輸入して、ほんの少し効率や性能を良くする応用の分野で力を発揮したことが成功の原因だったと思います。そして最近では、科学技術研究費(科研費)でも、手っ取り早く成果が出そうな応用分野に重点的に配分され、基礎研究にはお金が回ってこないと言われています。
今回、新型コロナウイルスのワクチン開発が明らかにしたのは、基礎科学こそが戦略的資源となり得る、ということだと思います。かつては世界を席巻していた日本の半導体技術は、今や見る影もないようですが、その原因には、半導体の製造技術は伸ばしたが半導体そのものの技術向上が図れなかったことがあるのではないでしょうか。
ダイヤモンドを磨く技術は習得できますが、どんなに技術が良くなっても、ダイヤの原石が入ってこなければ商品はできません。

ここで強引に公立病院の問題に結び付けますけど、病院経営の基礎って何でしょうか?
前にも書いたように、法律ではすべての医学的な侵襲的行為は医師だけに認められていますから、医師がいないと医療行為ができず病院が成り立たないのは当然です。かと言って、医師だけですべての医療行為を行うことは不可能だし非効率なので、医師の指示の下に侵襲的行為を行える看護師や薬剤師をはじめとする他の医療技術者が必要になります。

でも、ここで考えてみてください。
医師や医療技術者は、その行った医療行為をお金に換えることは出来ません。彼らの努力を保険請求というかたちでお金にして、病院の経営を成り立たせている基礎は医事業務です。
こう考えると、医事をおろそかにする病院がダメになることは明らかだとわかるでしょう。そして、多くの公立病院は医事業務を外部に委託しています。もちろんそのことだけが赤字の原因ではないのですが、少なくとも適正で積極的な医事業務がないと、安定的な病院経営が難しいのは事実だと考えます。

民間病院でも医事を外部委託しているところはありますが、経営の良い病院で入院の医事業務を外部に委託している話はあまり聞きません。なぜかと言うと、入院の単価は外来の3倍以上で、病院経営の根幹になるからです。そして、入院の医療費の仕組みを知らないと、自分の病院の医療提供のどこに問題があって、どう見直せばよいかを見つけることは難しくなります。できないとは言いませんが、それを医師や医療スタッフに論理的に説明して取り組んでもらうことは困難でしょう。
さらに言うと、医事のことなんかまったくわからない人事や財政の担当者が、目先の経費節減のために、医事業務という基礎の知識を軽んじて外部委託を推進してきた結果が、今の公立病院の赤字体質だと考えます。

今からでも遅くはありませんから、せめて入院の医事業務に職員が参加して知識を習得するような仕組み作りが、公立病院の経営改善への道だと思います。

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