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9 えっ、病院だって!

4月から公立病院での勤務になった人も多いと思います。
病院への異動の内示を見た時に、皆さんはどう感じたでしょうか?
戸惑いを覚えた人は多いと思いますし、中には驚愕あるいは怒りを覚えた人もいるのではないでしょうか。
昔はやった言葉で言うと「なぜだ!」というところでしょうか。

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病院への異動を言われて戸惑う理由は、それまでの事務職員だけの単一の文化で一般会計という慣れ親しんだ世界から、医師をはじめとする医療専門職が多数を占める企業会計という未知の世界に放り込まれる不安が大きいのだと思います。二重に環境が変わるという意味では、いつもの人事異動とは違うプレッシャーになるでしょうね。
病院というところは、患者や家族としてお世話になる分には、頼りになるお医者さんと優しい看護師さんがいる心地よさげなところですが、そこで事務職員として働くとなると、頭が良くて理屈っぽいお医者さんと厳しい看護師長さんがいるらしいとの噂が聞こえてくるところですから、戸惑うのは当然と言えば当然だと思います。
今回は、初めて公立病院の事務方トップの事務部長さんになる方に、同じく戸惑った経験者からお手紙を書いてみます。

〇〇さん、事務部長就任おめでとうございます。

と言われても、喜びは半分くらいで、戸惑いともしかしたら怒りを覚えているかもしれません。でも、そのまま毎日過ごしていても、議会では赤字を責められ、医師や看護師などの医療スタッフだけでなく部下の事務職からも、日々もめ事が持ち込まれますから、少しでも楽しく過ごして最初に来た日よりも半歩でも病院を良くして異動するために、私の経験からちょっとだけお話をさせてください。

〇〇さんにまずやってもらいたいのは、病院の中を歩き回ってもらうことです。小さい頃の探検ごっこを思い出して、病院の隅々まで歩き回ってください。あ、手術室などの清潔区域は、必ず許可を得てから入ってくださいね。
歩いている途中でわからないことや気になることがあったら、近くにいる少し時間のありそうな看護師さんや他の医療職の人をどんどん捕まえて、その人に質問してください。もしも皆さんお忙しそうでしたら、とりあえず気になったことをメモを取っておいて、後で適当な人に聞いてください。

「私は今度来た事務部長の〇〇ですけど、これは何に使うなんという機器ですか?なぜここにあるんですか?」
「私は今度来た事務部長の〇〇ですけど、この病棟にはどういう患者さんが入院されているんですか?混合病棟?それなんですか?」
病棟の師長さんがいらっしゃったら、「私は今度来た事務部長の〇〇です。時々この辺を通りますけど不審者でがありませんから、よろしくお願いします。」とあいさつしておいてください。

薬局へのあいさつも必要です。
「私は今度来た事務部長の〇〇ですけど、この病院での薬品の購入の交渉は誰がなさっているんですか?」くらいのことを言うと、「お、今度の事務部長は薬品費を下げようとしているのかな」くらいには評価してくれます。
その他リハビリテーション室とか放射線科とかよくわからないところも、ちゃんと探検してください。MRI室とかアンギオ室などは、エヴェンゲリオンの司令部みたいでワクワクします。

受付や支払いの窓口では、しばし佇んで患者さんがどのように動いているかを見てみてください。しばらくすると困っている風情の患者さんが見つかるかもしれません。その時は近づいて行って「この病院の事務部長ですけど、何かお困りですか?」と声をかけて、話を聞いてから近くの職員に「この方はこういうことで困っておられますからよろしく」と引き継いであげてください。
無責任なと思われても、どうせ新任の事務部長には助けることは出来ません。患者さんがどんなことに困るのかを知れば良いのです。

そして、スタッフと話をするときに、「何かあったら事務部長室まで来てくださいね。雑談でも良いですよ」と付け加えることを忘れないでください。


「本当にどんどん来ちゃったらどうするんだ」と心配されるかもしれませんが、大丈夫です。
病院のスタッフは基本的に忙しいので、そう簡単に奥まった事務部長室まで来ることはありません。また、院内PHSという便利な道具があるので、来たい時には事前に「事務部長、今お時間大丈夫ですか?」と聞くくらいの常識は皆さんお持ちですから、心配することはありません。
もし来てくれたら、ちょうどよいですから〇〇さんも一緒にお茶の時間にしてお話を聞いてください。

「来て相談されたって解決策なんてわからないよ」と不安に思われるかもしれませんが、大丈夫です。
相手だって新任の事務部長がいきなり解決してくれるなんて期待していません。ただ、問題が起こっていることを「事務方に」知ってもらいたいんです。医療職の人たちは、仕事上の相談や個人的な悩みは、ほとんどの場合ふだんから付き合いのあるそれぞれの専門職の上司に話をしますから、そういった話は事務部長には(たぶん)来ません。

事務部長のところに来る話は、パワハラやセクハラ、医療事故など、それこそ病院が組織として対応することが求められるものがほとんどですから、これこそ事務の力の見せどころです。そして、こういう組織の話は医師や看護師は十分な知識を持っていませんし、人事との調整など事務屋でなければできないことです。
そういう組織の評価や存立にかかわるようなことが、速く正確に入ってくるようにするためにも、何かあったら事務部長室に来る、雑談でも入れる、という関係作りが大切なんだと思います。

「今度の事務部長は変わっているよね」と医療職の人たちから評判になったらしめたものです。この言葉は、「今度の事務部長は事務屋の側から自分たちのところ寄ってきた」と評価されたと思ってください。そうなると、病院の内部で起きている困ったことや、これから起こるかもしれないまずいことが早めに入ってくると思います。

というところまで書いて長くなったので、一番大事なお医者さんとのお付き合いについては、次回に書きます。

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