戦前優等車の漆塗装について

以前、ブログにて掲示していた文章をそのまま掲載しました。
稲葉様より頂いた補足も掲載しています。

戦前優等車の塗色のお話
2016-12-30 23:10:00
当時は色名の制定はまだ無く、文献では単に客車の外部塗色は暗褐色とされています。
そして注目なのは当時はいくつかの塗り方法があったようです。

車体が木製の場合
1.漆塗り
2.ペイント塗り

車体が鋼製の場合
1.漆塗り
2.ペイント塗り
3.ラッカー塗り

この中で鋼製車の場合でも漆塗りが有る事に驚きます。
漆は過酷な条件にて使用される鉄道車両には退色が激しい為に不向きです。
その手間のかかる漆を使用している車輌が一等車・食堂車になります。
そうです、当時、相当な身分の方しか利用出来なかった一等車・食堂車です。

では、その塗色成分を見てみましょう。
塗り順序が細かく決められており、ここでは最後のキメとなる所をご紹介しておきます。

中塗 :中塗黒漆95% 樟脳白油5%
炭研ギ
上塗:透漆60% 塗立漆30% レッドブラウン5% 樟脳白油5%

※透漆は完全な透明では無く飴色です。

さて、これで当時どのような塗色だったか、だいたいの想像がついた事と思います。

艶有り黒に若干の赤が混じった、ピカピカに磨き上げられた車輌は特別急行「燕」の中でも特に異彩な存在だった事でしょう。

もちろん模型の世界ですから暗褐色で統一された編成美重視でも良いですし、今回のお話を基にした2輌だけピカピカの実物重視でも良いでしょう。

Unknown (稲葉 清高)
2017-08-20 00:27:52
管理人様が、blog で塗装の話を書かれているのを今日まで知りませんでした O

だって、工房ひろは 16 番だから、直接関係ない、って思ってたんだもん...
>漆は過酷な条件にて使用される鉄道車両には退色が激しい
ここ、少し誤解を招くと思うので補足 (詳しくは、検車読本に載っていたと思います。)

基本的に、漆塗りはバインダとしては非常に耐久性が良く、ペンキやセルロースラッカー (戦前のラッカーは全部これ) などに比べて酸/アルカリ/油分に対しては圧倒的な強みを誇ります。ただほぼ唯一と言って良い弱点が、紫外線でこれに対してだけは、セルロースラッカーと同程度に影響を受けます。とはいえ、紫外線で影響を受けた時に、漆は基本的に色見が変化する (より黄色くなる) ので、他の有機バインダのような劣化よりはまし、と言えるでしょう。これが故に色見は変化しますが、退色とはちょっと違うんじゃないかな...

戦後、日本でもウレタン塗料が一般化したもんで、耐久性の基準がかさ上げされてますけど、基本的にはラッカーやアクリル塗料など有機化学の産物は紫外線には弱いんですよ。(人間の皮膚もそうですね)


2023/10/03 追記 文章ではだいぶ端折っていますが、出典は下記の書籍です。
客貨車 大竹三七郎著 鉄道時報局発行 大正十四年十月十日発行 2023/10/03 訂正
発行日が正しくは昭和九年四月二十二日発行でした。
大変申し訳ございませんでした。

「客貨車の話 大久保寅一著 鉄道講習会発行 大正十四年十月十日発行」ではラッカー塗りは無く、ペイント塗りに対する記述が有り、14封度(ポンド) 黒ペイント,28封度 薄鳶色酸化鉄ペイント,4封度 ドライヤー,17哈 煮亜麻仁油,3哈 テレピン油でした。
漆に関しては塗り手順は変わりませんが上塗り材料が若干違います。
中塗り 1000匁 中塗黒漆,約8合 揮発油 0~50匁 乾燥剤
炭研ギ
上塗り 1000匁 彩漆用透漆(朱合漆),約5合 揮発油 0~40匁 乾燥剤
以上訂正及び追加情報です。

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