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世界文様散歩3 日本とアジア大陸のつながり

シルクロードの終着点について前回少し触れましたが、当時、東の果てである「ジパング」が神秘と謎に包まれた存在であったことは容易に想像ができます。そして日本から観た世界の諸国も、海の向こうの未知であり、夢と憧れが溢れ、想像力を掻き立てられたことでしょう。写真もインターネットも無かった時代ですから、無限に広がるイメージは留まることなく、現代人の想像力よりもはるかに豊かで鮮やかだったのではないでしょうか。今回は日本とアジア諸国の文様のつながりについて触れてみたいと思います。

かつて、アジア諸国と日本をつなぐ重要な拠点として琉球王国が存在していました。ご存知の通り現在の沖縄県にほぼ当てはまるところです。沖縄は、実は織の宝庫と言われています。島々では古来からの伝統的な技法や素材を使った「織」の技術継承が現在でも行われており、いくつもの個性的な織が国の伝統的工芸品に指定されています。その中でもシンプルかつ広い汎用性のある「かすり」は、文様の歴史においてとても重要な技法であると感じています。その発祥はインドネシアと言う説が在りますが、それが正しいとすると海を渡り琉球王国を経由して本州に伝えられたと考えることもできますから、アジア諸国とのつながりを探る際の大切なポイントになります。もちろん伝えられたルートはひとつではないと思いますが、沖縄県には独特のかすり柄がいくつも存在することから、やはり文様の歴史を考えたときに重要であることは否めません。今回はその中でも宮古島で織られている「宮古上布」にフォーカスをしていきます。「上布」とは麻糸から織り出される上等な布を意味していますが、宮古島では日本を代表する上布として現在もすべて丁寧な手仕事で織り継がれています。その美しいかすりについて、今回は触れてみたいと思います。

宮古上布は琉球王国時代からの織物とされ、その材料となる糸は「苧麻(ちょま)」と言う植物から作られています。イラクサ科の多年植物で麻の一種、アジアに広く分布しています。繊維を取るために各地で栽培された歴史から、呼び方も地域によって様々。沖縄では「ちょま」ですが、日本の本州では「からむし」とも呼ばれています。台湾でも古くから布の素材として活用されていましたし、韓国では「もし」と呼ばれ、代表的な衣装であるチョゴリも苧麻で作られていていました。日本の本州にも苧麻は生息していますが、ある研究によると宮古島の苧麻は本州のものよりも台湾の種類に近いことがわかっています。素材の植物の検証からも技術伝承の経路を裏付けられているかもしれません。糸を作るには、苧麻の茎の皮をむき、細く裂いて乾かしたものを手績み(よってつなぐこと)します。そして糸の段階で琉球藍や草木などの自然染料で染色したのち、布へと織り上げられて宮古上布が生まれます。「かすり」は表現したい文様に合わせて、糸の「染めた部分」と「染めていない部分」を作り、織り上げていきながら柄を作っていくものです。「染めていない部分」つまり糸の元の色を残したい部分には、糸に別の糸を括り付けて染液が入らないよう保護しながら染めます。写真は宮古上布の矢がすりという文様で「矢羽」がモチーフです(ちなみに矢がすりはまっすぐに進む矢を描いていることから「縁起柄」とも呼ばれれいます)。糸の「染めていない部分」を少しずつずらして織ることで文様が生まれていることがご覧になれると思います。

宮古上布は、糸作り・文様作り・染め・織り、そしてそのあとの砧打ちという仕上げ作業も、非常に手間と時間のかかる手仕事の賜物ですが、自然の恵みの風合いは、紡績糸や化学染料とは異なり深い温かみと優しさが在ります。文様に意味や想いや愛が存在するのと同じように、それを表現する技法にも然り。文様と技法、その2つが1組になって世界を巡り広がっているのだと思います。

そして、文様の歴史と素材の歴史も切り離すことができません。日本古来の布の素材として苧麻にフォーカスをしましたが、苧麻以外にも「自然布」と呼ばれる様々な古来の素材があります。沖縄の島々には独特の素材や織りが存在しますが、本島で織られている芭蕉布も、自然布のひとつです。いわゆるバナナの仲間の芭蕉の繊維で糸を作りますが、その繊維で布を織る文化はフィリピンなどアジアの他国でも見られます。同じく本島の読谷花織は、織りの国とも言われるブータンの伝統的な技法に非常によく似ています。また、与那国織にはギンガムチェックのような経緯格子柄が見られますが、インドネシアにも同じくギンガムチェック柄が存在します。神を表したり、魔除けとされたり、神聖な意味を持つ大切な柄とされ、寺院や祭壇などに白と黒の経緯格子柄を目にすることが良くあります。

琉球王国の歴史は織りの宝庫でありアジア諸国と日本のつながりのヒントの宝庫でもあります。そして、文様と技法と素材が融合して世界を旅している様は、地球を巡る人の営みの美しさであると感じます。

読んでいただきありがとうございました。


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