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リズムマシンは要らない ~w.o.d.『パイドパイパー』~

デジタルミュージックが全盛。DTMで何でも作れる。最近のミュージシャンはみんなイヤモニして「クリック音」を聞きながら歌うし演奏もする。
すべての楽器がこうした「同期」で作られるなか、人間らしい揺らぎやズレ、温かみが求められるようになるのは当然だろう。
新しいものが生まれるとき、古いものの価値も再定義されるのだ。

令和のグランジスター

グランジは「ロックらしいロック」を追求したジャンルだ。「ロックとは何だ」に挑戦した結果の音楽である。
歪んだ音。リフ主体のギター。叫びと轟音。爆発力重視。
パンクでもあるしハードロックでもある。個人の内面に深く入り込んだ歌詞を絶叫するボーカル。内省と攻撃が同居している音楽。

w.o.d.は、そんなグランジらしいロックを意識的にやっているバンドだ。
ニルヴァーナ。サウンドガーデン。さらにその源流であるMC5やストゥージズを思わせる歪んだサウンドを奏でている。

この世は決してキレイなものではない。「拭いてあるところより、汚れた場所のほうがずっと多い」のが我々の住んでいる世界だ。
だったら音楽もキレイである必要はない。汚れたまんまで曲がったまんまで提出したらいい。そのほうがリアルだ。
そんな音楽をw.o.d.は鳴らしている。
令和の清潔でピカピカの日本に現れた汚れた野郎ども。意味のあるデビューだと思う。薄暗い照明が似合うバンド。こういうのを待っていた。

絶妙なリズムとタイム感

w.o.d.の強みは演奏の生々しさである。
クリックとかドンカマとかグリッドに合わせるとか全然関係ない。その場の一発録りだ。
だからテンポは一定ではないし、楽器のタイミングが合ってない。音はわざわざ汚くしている。暴力性重視の音作りだ。
メジャーデビューのアルバム『Life is too long』に収められているのは「現場が持っている緊張感」で、ヒリヒリとした触り心地がある。
「カッチコッチ」とかいう音を聴きながら演奏しているのではなく、他のメンバーの音を聴きながら演奏している。考えてみたら当たり前なんだが、それを失っているのが今の音楽業界だ。
単体の曲もそれぞれメロディーラインがはっきりしていて、ポップスとしてもキャッチーで完成度が高い。
多くのことをご紹介したいところだが、ここはドラムスが面白いってことを話そう。
なにせこのドラマーときたら、自分のテンポで自分のリズムで叩いているのである。自分のタイム感に正直すぎてテンポがズレる。本気でテンポがズレるのである。ときどき走ったり遅くもなったりする。
もう笑けてくるくらいズレるんで、ぜひ聴いてみよう。
最初のギターリフからドラムが入る瞬間を聞き逃さないでほしい。
「おいおい、そうはならんだろ」とツッコミを入れたくなる。

推測だけど、このドラマーは1拍ごとに数えていない。1小節とか4小節とかのデカい単位で数えてる。独特なタイム感だと思う。

大げさなことを言うと、演奏は「誰がやってるのか」が大事だ。
デジタルミュージックは多くの可能性を示してくれた。デジタルさえ操ることができたら誰でもすぐに曲を作れるし、匿名で曲を発表できる。それがデジタルの強さだ。
逆に言うと、だからこそ「演奏してんの俺なんだよ」と主張してくる生音には迫力や凄みが宿る。

w.o.d.は匿名バンドではない。極めて記名性の高い音楽である。他の人が演奏したら他の曲になるだろう。そのくらい「俺の演奏」という感覚を強く持っている。

今後も、テンポがズレたままの一発録りで楽曲を発表して楽しませてほしいと思っている。
w.o.d.にリズムマシンは要らないのだ。
みなさんもぜひ聴いて楽しんでほしい。
ここまで読んでくれてありがとう。

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