良いヒアリングにするために

ヒアリングとは

本記事でのヒアリングは「必要な情報を獲得するため、不足する情報を補うための活動」とする。
またヒアリングは相手からの持ち込みの報連相(受動的)の場合だけでなく、こちらからアプローチ(能動的)する場合もあるが、なるべく共通して使えることを記載する。

以降の文章量からもわかると思うが、ヒアリングの出来は事前準備が半分以上を占める。

事前準備編

満足する情報の状態をまず定義する

どんな情報が、どれだけ必要か想定せずにヒアリングを行うケースがまま見られる。

情報を得るのはなんらかの行動をするためである。
したがって、やらなければいけない行動から、必要な情報の満足状態を定義、評価することを最初にすべきである。

共有された資料は読む

どうせヒアリングで説明してもらえばいいと事前に共有された資料を読んでこない人がいる。

もちろん資料が前提としている情報を持っていないことや、資料の作りがいまいち(本来こちらが知りたいものとは違う目的、例えば顧客提案や経営陣への上申目的で作成された資料を流用しているケース)などの理由で読み解けないことはある。

その場合は「ひととおり見てみたのですが量が多くて/背景がわからなくてetcちょっと理解できなかったので、改めてになってしまいますが背景や今回のことについてご説明いただけますか?」とお願いすべきである。

間違っていてもいいので仮説を立てる

「どういう状況か、何が必要な行動かわからないからヒアリングをするのじゃないか」と思われるかもしれないが、ある程度状況や必要な行動、相手の回答について仮説を持っておくべきである。

仮説を持たずにいくと、前々項のような定義や、ヒアリング項目の洗い出しができない。
またヒアリングが全てオープンクエスチョン(何がしたいのですか?どういう状況ですか?のようなWHAT、WHY型の質問)になり、相手も回答に窮するし、欲しかった回答とかみ合わずに時間を使ってしまうことが起こりうる。

間違っていてもよいので、なるべく仮説を立ててクローズドクエスチョン(YES・NOで回答できる質問)にしたほうが、回答側も回答の粒度を掴め、早く終わる。
また回答側も寄り添いを感じ、心理的にも負荷が軽減される。

チャット、メール、電話、対面、(WEB)会議の選択

必要な情報を定義し、手持ちの情報と比較することで、満足する手持ち情報の状態と現状のギャップが把握できる。

そうすると必要な行動は、このギャップを埋めることであり、それがヒアリングとなる。

このとき、ヒアリングの仕方は、
・相手の性質(口頭か文面どちらが得意・不得意か、立場、忙しさetc)
・時間拘束性
・情報保持者の所在、依存性
を基準に選択すべきである。

相手の性質とは、以下のような属性、癖や相性のようなものである。
・文章で残したくないという性質の相手もいる。
・口頭よりも、一定考えてから文章にするほうが、明確な回答を得られることがある。
・口頭で丸め込むことに長けており、論理のすり替えなどで逃げられてしまうこともある。
・口頭では口調などが高圧的で話しづらいが、文章にするととたんに接しやすい相手もいる。

時間拘束性については、どれも相手の時間を拘束するが、非同期の手法であるメール・チャットよりも同期的な電話、対面、会議は時間を費消する。したがって、わざわざ時間を拘束・費消するリターンを考える。
「満足する情報の状態」と「現状の情報の状態」のギャップが大きければ、基本的には会議などの情報の費消度が高い手法を選択するほうがよい。

情報保持者の所在、依存性については、ギャップを埋める情報を持っている人物が複数存在し、かつ相互に関連している(ある人物の情報をもとに別の人物の判断が行えるなど。これが相互に行われるようなケースも有る)など、順次質問していく(いわばわらしべ長者していく)ことでは難しいようなケースである。
このような場合であれば、一同に会する必要性がある。
逆に言うと、ある1人がほぼ十分な情報を持っていそうであり、かつギャップを埋めるのに必要な情報が明確であれば、その人物に個別にヒアリングすべきである。

また必要な情報が画一的(かつ複数回使い回すことがある)ならば、ヒアリングシートでまとめて回答してもらう方が効率がよい。

ただしメールにしろヒアリングシートにしろ、文章で相手の回答を求める場合は、
・質問の意図(なんのために答えているのか?と思われると優先度が下がるだけでなく、非協力的な心情を抱かれる)
・質問の量(多すぎれば後回しにされた挙げ句、放置される)
・求める回答の方向性、粒度
に気を払い、相手の目線で例示などを用意しておくなど、望ましい品質の回答を引き出す工夫をする必要がある。

特に抽象的な用語には注意が必要になる。例えば「想定されるリスク」のような項目を設けたとき、「リスクとは?」となるし、人により「想定」の範囲は異なる。

ヒアリング同席者・Ccは取捨選択する

関係のない人を入れてもその人の時間を奪うだけである。

関係の薄い人を入れるならば、その人は教育目的での見学者なのか、サポーターなのか、立場をはっきりさせて入れるべきであり、相手にもその旨は伝えるべきである。

多人数に囲まれるのは(メールのCc、グループチャットも)それだけで心理的な圧迫感を与えてしまう。

ヒアリング項目は文章で用意しておく、可能であれば(事前)共有する

ヒアリングを出たとこ勝負、ひたすら受け身の姿勢で行う人がいるが、目的があって行うことであるから、ゴールから逆算して必要なヒアリング項目を洗い出し、能動的に質問する。

対面など同期的なヒアリングを行う際は、理想的には事前にヒアリング項目を共有しておくことが望ましいが、時間的に間に合わないことは多々ある。

その場合は、ホワイトボード、画面共有などしながら、
・何を目指しているか
・今は何を話しているか
・今は全体のどの時点か
・認識の齟齬はないか
を共有しながら行うべきである。

やりやすさと時間の都合で箇条書きの文章になることが多いが、当事者の関係図や流れなどは、手書きでもよいので図表もなるべく活用すべきである。

これらをせずに淡々と質問を続けると、相手は「自分が話したことは適切なのか」「あとどれくらいで終わるのか」と不安になり、不安が怒りに変わることがある。

ヒアリングを実施する

これまでの準備を踏まえて、ヒアリングを行うときの留意点を挙げる。

ヒアリングは尋問ではない、意見聴取でもない

ヒアリング側の心構えとして、ヒアリングは都合の悪いことを引き出したり、ボロを狙うものではない。

したがって攻撃的な語気、口調、矢継ぎ早な問いかけ、機械的で単調な質問は控えるべきである。

インシデントの報告を受ける際などは、ヒアリング側も焦りや怒りを覚えながら行っていることもあるだろうが、ヒアリングをする目的と次に必要な行動、相手の心情や立場を慮る必要がある。
そもそもインシデントであれば、報告者も被害者意識や、ミスを感じているので、それを叱責しても意味がない。

全体的にであるが、否定語はなるべく用いないようにしなければならない。
否定語の例
・よくわかりません、意味がわかりません。
・どういうことですか?なぜですか?

沈黙の時間に注意する

ヒアリングをしているとメモを取るために無言になるタイミングがある。
その時間は何も進んでいないように見えるため、相手を不安に指せる。
つぶやきでもいいので、「ちょっと待ってくださいねー」やその時間に行っていることを見せる方がいい。

また手を動かさず、何も声を発さないような無言は、暗黙の否定を醸し出していることがあるので注意が必要になる。

空気づくり、関係づくり

ヒアリング項目を入念に用意しておくと、ついそれを淡々と質問してしまう淡白な時間になってしまうことがある。

ヒアリングは今後のための関係づくりの場でもあり、
・表情、ジェスチャー
・あいづち
・「おお」「へ~」「なるほど・・・」などの感嘆
・笑顔
などのポジティブな感情は乗せていくとよい。

ゴール、現在地、認識を共有する

先も書いたが、
・ヒアリングを踏まえて行いたいこと
・ヒアリングの全体像
・ヒアリングの現在地
・話している内容
をお互い視覚的に共有しながら進めるのがよい。

わからないことは「わからない」という

お互い普段の環境や持っている情報が違うのであるから、回答がよく理解できないことがある。
その場合は、深掘りして再度聞き直す。

そのときに「すいません、わからなかったのでもう一度説明してくれますか?」のように聞き返してしまうと、相手は何が分からなかったのかがわからず、再説明の仕方に困る(説明のレベル調整にだんだんイライラしてくる)。

再質問は「これはこうと理解したのですが、合ってますか?」のように仮説を立ててクローズドクエスチョンにしたり、「〇〇とは具体的に何のことですか?」などオープンクエスチョンでもポイントを絞るように聞き返すべきである。

また逆に回答者側も、ヒアリングの内容が理解できないことがある。
その場合は、表情や口調から、よくわかっていないと感じたら噛み砕く、質問を変える、とりあえず次の質問に進むなどの対応を行うべきである。

クロージング

結論をまとめ、反芻しながらお互いに確認する時間を設けるべきである。

その上で、ネクストアクションを整理する。
自分がボールを持ちたくないからあえて「私はこれをします」といいたがらない人がいるが、ヒアリングは何らかの行動のために行うものであるから、ネクストアクションは明らかにしなければ、相手に徒労感や迷いを与えるだけである。

その場で結論を出して終わりならば、結論を明確に出す。

またヒアリング対象者に、ヒアリングを踏まえたフォローアップを行ったり、結果の共有をするなどしたほうが、回答者も役に立った満足感を得られる。

ヒアリングを振り返る

ヒアリングはやって終わりとしていることが多いが、
・今回のヒアリング進行はスムーズだったか
・必要な情報は十分得られたか
・良い質問、悪い質問
・相手の反応
これらを振り返り、今後のヒアリング品質の向上に役立てていくべきである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?