どういうときに法務へ相談する?

(今回はマイルドな内容なため口調はですますで書きます)

タイミングの探り合い

遅い場合

法務部門がある会社でも頭を悩ましている問題として、「この話は相談してほしかった・・・」と思うことがあります。

案件がほぼほぼ詰まり、あとは意思決定だけ、と思った段階で、「あ、契約書の法務相談しなきゃ」というような感じで持ち込まれ、「これ○○法的にダメじゃないですか?」「この契約条件は決まっていないのですか?」であるとかが発見されるという具合です。

しかし法務以外からの目線で言うと、「法務がどういう存在かわからないし、どういうときに相談すればいいか基準もわからないのに、早く相談してって無茶では?」という気持ちもあります。

早い場合

そして相談者側が学習して別件は早めに持ち込むと「もう少し案件を詰めてからきてください」と言われることがあるかもしれません。
(せめて注意点くらいは伝えて多少は案件の進め方に寄与する対応をするでしょうが)

流石にこんなぞんざいな対応をする法務もそんなにいないと思うのですが、これをやられると「ちょうどいいタイミングっていつだよ!」と思わざるを得ないですよね。

原因分析

上記のような話は法務に限らず経理などのバックオフィス全般で起こっていると思います。

しかし個人的な観測では、法務がこの類の問題が起こる頻度が高いと思います。

その原因は主に以下があると思います。

何が法的問題かがわからない(法律がムズカシイ)

「法的問題」とは「法律上の権利義務にかかわる事象を生じる事項全般」ですが、およそ世の中の全てのことが法律の規律の下にある以上、神羅万象「法的問題」とこじつけることが可能です。

企業法務としては、「自社にかかわる法的問題」「法務で対応する法的問題」と限定するラインを見つけることが必要です。

一般法の原則がわからない

弁済費用(振込手数料、運送費、交通費とか)は債務者負担
契約は口頭でも成立するが、企業取引では書面がないと裁判では否定されがち
など、マニアックな条文や、条文を読んでもわからない事項の知識の問題ですが、これを専門でない担当者に求めるのは無理というものでしょう。

関係する規制法がわからない、勘所がない

下請法適用取引かどうかなど適用要件が複雑なものなどがありがちです。
さらには「過去もこうやっていた」という慣性が働いている場合もあります。

他にも、最近では電気通信事業法の外部送信規律、フリーランス新法など改正や新法成立があると起こりがちです。

法務の守備範囲がわからない

「契約」は法務と見せかけて調達関係の雛形は調達部とか、派遣契約は労務部とか専門分化している場合があります。

「法令調査」は法務部に相談すると「弁護士に聞いてみましょう」となる場合があり、「法務って調べてないの?」となります。

「コンプライアンス」は特定の事業法、通達やガイドラインなどは専門部署があったりします。典型的には税法は経理、などでしょう。

「その他」に、総務など兼務で法務をやっていると担当者に何を法務マターとして相談すればいいのかわからないでしょう。登記とか、印紙税とか、許認可とか、稟議や社内規程のこととか。

対応方法

究極、どれだけ手を打っても漏れは発生しますが、致命傷を防ぐ確率を上げることはできるでしょう。

打開策としては、端的には「事前の情報発信」に尽きます。

具体的には上記の原因分析の逆をやることになります。

法令そのものに対する知識向上

社内通信、研修、eラーニングなどを使って法令そのものへの理解度を上げるのが正攻法です。

一般的な法令理解のレベルであれば、一般的な教材が販売されていたりするのでそれを利用したりすることができます。

法務で作成することもできるでしょうが、その際「法務が発信しているからそれが社内基準」と思われる認識に法務・受信者双方の注意が必要です。

法務からすると「これは一般論だから都度相談してほしい」というつもりでも受信者側は「これが社内基準なのか、厳しくない?」とか「そんな程度でいいのか、ゆるいから自己判断で大丈夫だな」とか、ギャップが生じることがあります。

きちんと「一般論、揺れはば、グレーゾーンは相談」というメッセージは強調しましょう。

根回し

「過去もこうやっていたけど実は法令違反」という慣性が働いているものは単に「法律違反だからダメです」と言っても変えられないことが多いので、何とか変えてもらうための根回し(上位役職者への問題点、リスク、対応策の提案)が必要になります。

ただし、上位役職者はまさにその「過去もやっていた」の中に担当者として実務にあたっていたことが多いので、コミュニケーション方法には注意が必要です。

正面から「実は違法でした」というのではその人の過去を否定するだけなので、「最近注目度が上がって摘発が厳し苦なっているので対策を強化していきたい」など、過去は過去、今は今、という話し方をする必要があります。

契約に関する相談基準の策定

雛形を使う場合は法務相談不要、雛形を変える場合は金額、契約期間、誤字脱字、見栄えの整え以外は法務審査が必要とする。
※「これぐらいいいっか」という思いそうなことへは先回りすることもあるでしょう。例えば契約者名の変更は「単なる社名変更か、吸収分割など再編が起こっていないか確認が必要なので相談してください」や「取引相手が変わると支払い能力や商流が変わって契約の実効性が変わりうるので相談してください」などです。

法令調査・コンプライアンスの担当部署の線引き

基本的には法務の基本業務として、法改正の動向や他社の不祥事に普段からアンテナをはり、自社に関係のありそうなものは何らかの形で関係する担当者に伝えることになります。

担当部署が分かれている場合は、事前に担当する法分野やコンプライアンスマターを線引きしておくことが考えられますが、仕事の押し付けあいになりがちなのでうまくいくことは期待しない方がいいでしょう。

全く新しい問題は社内の動向把握と関係構築が理想

新規事業や前例のない取り組みなどであると、事前の情報発信ではカバーしきれません。

基本的にはその事項の担当者の勘によって巻き込まれる必要がありますが、法務としても普段から色々なところにネットワークを構築して情報収集し、「こういったようなことを聞いたのですがこういうことは検討大丈夫ですか?」と声かけできると理想的です。

直近ではChatGPTの社内や製品への利用などがあるでしょう。

周知方法

法務の関わり方は多様なので、社内規程など改定タイミングが限られ、かつ抽象的な記載になるルールでは定めづらく、ガイドライン的なものを公開・頻繁に改定することになるでしょう。

そうすると「周知」の問題も生じます。

難しいもので、あまり頻繁に周知すると受信側の感度が鈍ってきます。
個人的な感覚としては、常に気にしてほしいマターは毎月か数ヶ月に1回程度の周知がいいでしょう。

突発的なマター(急に生じた問題)へは都度タイムリーな周知が必要です。
しかし定期的なマターとの違いを強調する必要があります。

方法論としては以下があります。
・メールに「【重要】」や重要フラグなどマークする
・定例の発信とアドレスを分ける(通常は担当者やグループアドレスから、緊急周知は責任者から発信するなど)

ホワイトリスト形式はNG

「公表している事項以外は全て相談してください」というホワイトリスト形式が考えられますが、これは事業や業務のスピードを著しく遅くしますし、法務担当者のマンパワーというボトルネックを生むことになるので、よっぽど余裕があるのでなければやらない方がいいでしょう。

ケースバイケースだがPDCAを回すように

上記からわかるとおり、落とし穴は非常にたくさんありますし、会社によりケースバイケースでしょう。

重要なのは、法務も過去の分析をして、フィードバックするというPDCAを回す役目を果たすことです。

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